JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] [JJ] 海底マンガン鉱床の科学:基礎から応用まで

2017年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:臼井 朗(高知大学海洋コア総合研究センター)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、伊藤 孝(茨城大学教育学部)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、座長:伊藤 孝(茨城大学教育学部)、座長:臼井 朗(高知大学海洋コア総合研究センター)

12:00 〜 12:15

[MIS17-06] 七島硫黄島海域活火山におけるマンガン酸化物の現場沈着実験(12~15年間)の結果(予報)

*臼井 朗1日野 ひかり2富岡 尚敬1加藤 真悟4砂村 倫成3 (1.高知大学海洋コア総合研究センター、2.石油天然ガス・金属鉱物資源機構、3.東京大学地球惑星科学専攻、4.海洋研究開発機構)

キーワード:マンガン酸化物、熱水活動、海底火山、海形海山、七島硫黄島海嶺

海洋で生成する鉄・マンガン酸化物は通常の海水を通じて生成し,海底ではサブミクロンサイズの粒子として,団塊やクラストを形作ると言われている(Koschinsky and Habach, 1995).このプロセスは,特定の水深帯に偏ることなく,酸素極小層も含んで現在水深で800mからおそらく5500mまでの海底で普遍的に,長い地質時代を通じて,生じているらしい(Usui et al., in press)が,実証されているわけではない。
本研究では, 海底で沈殿する鉄・マンガン酸化物の生成プロセスを海底現場で捉えることを目的として,人工物(プラスチック, ガラス, セラミック)の小片を海底に長期間放置し(臼井, 2001:しんかい6K使用),その沈殿を走査型・透過型電子顕微鏡などを用いて観察・分析した. 実験海域は, 伊豆・小笠原弧の背弧リフトに位置する第2ベヨネース海丘(日野ほか,2016),および七島硫黄島海嶺の海形海山であり, ともに海底活火山である。設置した水深帯において現世の低温熱水活動が予測されている(岡村慶, 未公表)。前者の沈着容器は2013年の「なつしま」航海NT13-05にてHyperDolphinで回収,後者の沈着容器は2016年「かいれい」航海KR16-13航海にてKaiko MkIVで回収された。水深はともに約1000mであり,丁度酸素極小層にあたる。沈殿物との比較試料として, 北西太平洋域の海山(拓洋第5海山)で採取された海水起源マンガンクラストの表面を観察・分析した.ここでは,主に海形海山で回収された試料の予察分析の結果を報告する。
北ベヨネース海丘での分析結果(日野,2016修士論文)に基づくと,沈殿物の形態,単位面積当たりの個数(頻度)は,プレートの材質には依存せず,どのプレートにも鉄・マンガン酸化物を含む沈殿物が認められている. 沈殿物は差し渡し1~4µmの円形, 楕円形を示し, ナノスケール粒子の集合体と推定された.沈殿物はプレート表面に点在し, 1cm3あたり100万から1億個と換算される.電子線回折パターンからは沈殿物の構成鉱物は海水起源のvernaditeである.この結果を参照し,海形海山の沈殿物を走査型電子顕微鏡とEDSにより分析した。北ベヨネースでの分析には,試料を水洗し風乾して観察したが,生物・微生物が保存中に変形,変質する可能性があったため,海形海山試料では,アセトアルデヒドまたはグルタルアルデヒド2%溶液により生体を固定した。その結果では,形態や組成には両者で大きな差違は認められなかった。沈殿物は長径1〜数μm,形態は不定形球状であり,バクテリア単体が各チップに徐々に付着・成長するという,同様の構造を示していた。
両地点での観察から,vernaditeは鉄酸化物コロイドとマンガン酸化物コロイドが結合して生成する (Koschinsky & Halbach, 1995)とのモデルに匹敵する沈殿現象を現実に捉えることができた. 形態の観察から現世の海洋底におけるvernaditeの生成には微生物が関与している可能性が高い.クラスト表面を同様の方法で観察・分析した結果,上述の沈殿物に類似の形態および鉱物・化学組成を確認した. 従って,沈殿の集積は, 現世の海洋底で成長中のクラストの形成は, 本研究で確認したナノスケール粒子の集積によるものと推定できる。