JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS19] [JJ] 生物地球化学

2017年5月24日(水) 09:00 〜 10:30 302 (国際会議場 3F)

コンビーナ:楊 宗興(東京農工大学)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:大河内 直彦(海洋研究開発機構)、座長:岩田 智也(山梨大学生命環境学部)

09:30 〜 09:45

[MIS19-03] 硝酸の三酸素同位体組成を利用した河川水中内の窒素循環速度測定法開発

*池上 文香1角皆 潤1小幡 裕介1安藤 健太1中川 書子1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:硝酸、三酸素同位体組成、河川水、硝化、同化、脱窒

水環境中の硝酸(NO3)の濃度は、系内や下流に位置する湖沼やダム、沿岸海域の一次生産や生態系構造を直接的に左右する可能性があるため、各河川水中の硝酸濃度が流域内のどのような過程で制御されているのか、知見を深める必要がある。しかし、系外からの流入はもちろん、系内における硝化による生成や、同化や脱窒による消費など、多様な供給・消費過を考慮せねばならず、各河川水の硝酸濃度の制御因子を明らかにすることは容易ではない。 
近年になって河川水などの水環境中の硝酸の窒素・酸素安定同位体組成(δ15N、δ18O、Δ17O値)の高感度分析法が確立し、硝酸の起源が高確度・高精度で推定できるようになった。特に、同化や脱窒過程で値が変化しない三酸素同位体異常(Δ17O=Δ17O-0.52×δ18O)は有用で、河川水中の硝酸についてこれを定量化することで、大気沈着由来の硝酸(大気硝酸・NO3atm)と、硝化によって生成する硝酸(再生硝酸・NO3re)の混合比を正確に定量出来るようになった。さらに、定量化したNO3atmの混合比と全硝酸(NO3total)濃度をもとに、NO3atmの絶対濃度を求めることも出来るようになった。
本研究では、以上のようにして求めたNO3atmの絶対濃度が、河川水中の硝化速度などの窒素循環速度の指標として利用できる可能性があると考えた。例えば、硝化による供給速度と、同化や脱窒による消費速度がバランスしている場合、河川水中のNO3total濃度は見た目上変化しない。しかし、硝化によって供給されるのはNO3reだけなので、NO3atmの絶対濃度は減少する。従って、流下に伴うNO3total とNO3atmの濃度変化を定量することで、供給・消費速度を定量化できる可能性がある。そこで、琵琶湖の代表的な流入河川の1つである野洲(やす)川をフィールドとして、流下に伴うNO3total濃度とその窒素・酸素安定同位体組成(δ15N、δ18O、Δ17O)の変化を実測して、河川水中内の窒素循環速度の定量に挑戦した。さらに、人工濃縮15NO3を使用した15Nトレーサー法を組み合わせることによって、求めた各速度を検証したので、その結果を報告する。
河川水試料の採取は15地点の定点を設け、2014年から2016年12月までの期間で計8回実施した。各試料のNO3total濃度はイオンクロマトグラフで測定し、硝酸の安定同位体組成は、Chemical Conversion 法を用いて NO3ー​を N2O 化した後、連続フロー型の質量分析システムで定量した。また、2016年8月及び12月時には、採取した試料に15NO3ー​​を添加して現場水温で24時間培養を行い、その取り込み率からその同化速度を求めた。そして、同化速度から硝化及び脱窒速度を求めた。
夏季(8月)は下流域(最上流地点から20 km以上)で、NO3total濃度が流下に伴って約40 μmol/Lから5 μmol/L以下付近まで減少する様子が見られた。同時にNO3atm濃度も減少していることから、夏季は同化または脱窒過程による硝酸の除去が下流域で活発に進行していることが明らかになった。また、15Nトレーサー法を用いて求めた同化速度との比較によって、この主要除去過程は脱窒である可能性が高いことが判明した。