JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)

[MIS23-P16] グリーンリバー湖成堆積物から始新世の古気候指標の抽出

*隈 隆成1長谷川 精1山本 鋼志1Whiteside J.2池田 昌之3 (1.名古屋大学、2.サウサンプトン大学、3.静岡大学)

始新世前期はEECO (Early Eocene Climatic Optimum)と呼ばれ,新生代において最も温暖な時期である. 本研究では, アメリカのユタ州・コロラド州・ワイオミング州に分布するグリーンリバー層という湖成層を研究対象とし, このEECO時の陸域気候変動の解明を試みている. グリーンリバー層はオイルシェールを産出することから, 石油地質や有機地球化学の研究は多数存在するが, 本研究の手法とする堆積学的・無機地球化学的分析による古環境復元はこれまでほとんどなされていない. したがって, 堆積学的手法と無機地球化学的手法を組み合わせて高精度に古環境変動(降水量・気温)の復元を行うことを目的とする.
先行研究よりグリーンリバー層の堆積環境の変遷は,1. fresh lake, 2. transitional lake, 3. highly fluctuating lake, 4. rising lake, 5. high lake, 6. closing lakeの6つのステージに分けられている(Milkeviciene and Sarg, 2012). ユタ州北部のIndian Canyonセクションで野外調査と堆積相解析を行った結果, ステージ3-5の堆積環境を認定することができた. また, 岩相とラミナの発達度合からDepth Ranksを作成し, 露頭観察の結果から湖水深の変動を復元した.また,各岩相やDepth rankを代表する試料を様々な層準で採取し,その試料を化学処理することによりXRFを用いた主要元素分析と,元素分析計を用いてCNS元素分析を行った.
主要元素分析の結果と岩相変化とを比較検討した結果,Ca/AlとMn/Alは岩相変化との相関が見られ,湖水位変化の指標としてみなすことが出来た.これは湖水位が低くなるとCaが無機的に沈殿する量が増えること,また湖水位変化に伴う水塊中の酸化還元度の違いによりMn量が変化するためであると解釈した.また化学風化度を指標すると考えられるK/AlはHigh lakeで高い値を示し, 岩相変化から推定した湖水位変動と整合的な変動を示した.一方で, 粒度変化や砕屑物流入量を反映すると予想したSi/Alは独自の変動をしており,Biogenic Silicaや火山灰など他の変動要因にも支配されていると考えられる.Ti/Alはセクションを通してほとんど変化しておらず, 重鉱物含有量の変動は小さく,後背地変化の影響は大きくないと解釈した.
またCNS分析の結果を比較すると,High lakeステージの層準(Mahogany zone)で高いTOCと優位に低いC/N値を示し, 藻類起源の有機物の寄与が最も高くなるという傾向が明らかになった. このHigh lakeステージの層準(Mahogany zone)は,EECOの中でも最も温暖湿潤な気候が卓越した時期(hyperthermal)に相当すると考えられている(Milkeviciene and Sarg, 2012).この時期にK/Alが高く化学風化度が増大していること,またC/N比が低く湖表層の藻類生産が増大していることから,EECOの温暖化ピーク時には北米中緯度域において著しい温暖湿潤気候が発達したことが示唆される.今後はグリーンリバー層で掘削されたコア試料の解析を行うことにより,EECOの前後期における同地域の気候変動を詳細に解明していく予定である.