[MIS24-P03] 海底地殻変動観測データを用いた
Chen and Millero/Del Grosso海中音速算出式の評価
★招待講演
キーワード:海中音速、GPS/Acoustic観測
現在よく用いられる海中音速の算出式には Chen and Millero (CM) の式(Chen and Millero, 1977)とDel Grosso (DG) の式(Del Grosso, 1974)とがあり、前者は国際標準であるUNESCO式としても知られる。いずれも圧力、水温、塩分濃度を変数とする多項式で、CM式は42、DG式は19の係数で定義される。現実的な海水温と塩分濃度においてはDG式のほうがCM式よりも小さい音速を与える。両者の差は海面近くでは比較的小さいが、圧力(深度)とともに増大し、水深3000 m以深では0.6 m/s に達する。両式はともに実験に基づく経験式で、その後海洋での実測に基づく検証がなされてきた(Spiesberger and Metzger, 1991a; 1991b; Dushaw et al., 1993; Meinen and Watts, 1997)。これらの研究は、DG式のほうがCM式よりも精度が高いという同じ結論に至っているが、DG式の具体的な精度については評価が様々である。本研究では、2012年以降の東北沖における海底地殻変動検出を目的としたGPS/Acoustic観測データを用いて、両算出式の評価を行った。本研究の利点は、これまでの観測の蓄積により大量の走時データが利用できることと、観測点の水深が大きい(ほとんどの観測点で3000 m以上)ため、DG式とCM式とで音速に有意な差が生じる大水深部を通過した走時データが多いことである。
東北沖の20の観測点で2012~2016年に行われた計120のキャンペーン観測で得られたデータを使用した。各観測点では、海底に設置された3~6台のトランスポンダが三角または四角形のアレイを構成する。その各海底トランスポンダと船のトランスデューサとの間の往復走時を、10マイクロ秒の精度で測定する。測定は30-60秒間隔で行われ、1回のキャンペーンでの観測時間は平均15時間ほどである。解析は観測点ごとに行い、その観測点で期間中に行われた3-8回のキャンペーン観測のデータを同時にインバージョン解析した。解析においては、アレイ形状は不変であり、地殻変動による変位は全トランスポンダで共通と仮定し、初回キャンペーン観測時における各トランスポンダの座標値と、その後の各キャンペーン観測時におけるアレイ変位とを求めた。海中音速については、まず各キャンペーン観測中に実施されたXBTやCTD、XCTD観測のデータに基づき、CM式またはDG式を用いて基準となる海中音速の鉛直プロファイルをキャンペーンごとに作成する。そして解析では、水平成層構造を仮定したうえで、全深度にわたり同じ倍率で音速が変化するモデルを用い、潮流や内部重力波に起因する音速の時間変化を、基準音速プロファイルに掛けるべき倍率の時間変化として求める。結果的に、インバージョン解析から、アレイ位置とともに各キャンペーン観測中の音速の時間変化が得られる。CM式を用いた解析では、基準音速プロファイルに対する倍率は1.0よりかなり小さく求められた。キャンペーン観測ごとに時間平均した倍率は平均0.9994、標準偏差0.0001であった。これは音速に換算すると、全深度にわたる−0.9±0.2 m/sの補正に相当する。一方、DG式を用いた解析では、平均0.9997、標準偏差0.0001、音速補正量にして−0.5±0.2 m/sという結果を得た。DG式のほうがCM式より小さい補正量となったことは過去の研究と整合的である。しかし、DG式による音速も依然実測よりは大きめであり、CM式の場合の半分程度の補正が必要とされたことは、DG式の精度をこれまでの研究の中で最も低く評価する結果である。また、DG式を用いた場合に限り、音速倍率と観測点の深度との間に相関が認められ、深い観測点ほど音速倍率が1.0に近づく傾向のあることが判った。このことは、DG式による音速の誤差が、深部ではなくむしろ浅部にあることを示唆している可能性がある。
※引用文献はいずれもJ. Acoust. Soc. Am.より
東北沖の20の観測点で2012~2016年に行われた計120のキャンペーン観測で得られたデータを使用した。各観測点では、海底に設置された3~6台のトランスポンダが三角または四角形のアレイを構成する。その各海底トランスポンダと船のトランスデューサとの間の往復走時を、10マイクロ秒の精度で測定する。測定は30-60秒間隔で行われ、1回のキャンペーンでの観測時間は平均15時間ほどである。解析は観測点ごとに行い、その観測点で期間中に行われた3-8回のキャンペーン観測のデータを同時にインバージョン解析した。解析においては、アレイ形状は不変であり、地殻変動による変位は全トランスポンダで共通と仮定し、初回キャンペーン観測時における各トランスポンダの座標値と、その後の各キャンペーン観測時におけるアレイ変位とを求めた。海中音速については、まず各キャンペーン観測中に実施されたXBTやCTD、XCTD観測のデータに基づき、CM式またはDG式を用いて基準となる海中音速の鉛直プロファイルをキャンペーンごとに作成する。そして解析では、水平成層構造を仮定したうえで、全深度にわたり同じ倍率で音速が変化するモデルを用い、潮流や内部重力波に起因する音速の時間変化を、基準音速プロファイルに掛けるべき倍率の時間変化として求める。結果的に、インバージョン解析から、アレイ位置とともに各キャンペーン観測中の音速の時間変化が得られる。CM式を用いた解析では、基準音速プロファイルに対する倍率は1.0よりかなり小さく求められた。キャンペーン観測ごとに時間平均した倍率は平均0.9994、標準偏差0.0001であった。これは音速に換算すると、全深度にわたる−0.9±0.2 m/sの補正に相当する。一方、DG式を用いた解析では、平均0.9997、標準偏差0.0001、音速補正量にして−0.5±0.2 m/sという結果を得た。DG式のほうがCM式より小さい補正量となったことは過去の研究と整合的である。しかし、DG式による音速も依然実測よりは大きめであり、CM式の場合の半分程度の補正が必要とされたことは、DG式の精度をこれまでの研究の中で最も低く評価する結果である。また、DG式を用いた場合に限り、音速倍率と観測点の深度との間に相関が認められ、深い観測点ほど音速倍率が1.0に近づく傾向のあることが判った。このことは、DG式による音速の誤差が、深部ではなくむしろ浅部にあることを示唆している可能性がある。
※引用文献はいずれもJ. Acoust. Soc. Am.より