JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ42] [JJ] 地球科学の科学史・科学哲学・科学技術社会論

2017年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:矢島 道子(日本大学文理学部)、山田 俊弘(東京大学大学院教育学研究科研究員)、青木 滋之(会津大学コンピュータ理工学部)、吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:青木 滋之(会津大学コンピュータ理工学部)、座長:吉田 茂生(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

11:00 〜 11:15

[MZZ42-08] 異なる集団の連携不全の解決に向けての基盤的モデル構築 〜マインドクライメート研究の背景とモデル その①

*上野 ふき1平 理一郎10杉田 暁8宮野 公樹2久木田 水生3林 能成4中村 秀規6村上 祐子5福井 弘道8東原 紘道7丸山 茂徳9熊澤 峰夫3 (1.中京大学、2.京都大学、3.名古屋大学、4.関西大学、5.東北大学、6.富山県立大学、7.防災科学技術研究所、8.中部大学、9.東京工業大学、10.ノースカロライナ大学チャペルヒル校)

キーワード:精神風土、合意形成、異分野コミュニケーション

異分野間の連係や共同が、質の高い研究に必須であることは周知である。特に、地球惑星科学の関連分野は広く、物理、生物などの基礎科学から、資源、環境、社会、行政までにも及ぶため、異分野間の本質に踏み込む連携は容易ではなく、対立を生むこともある。その結果、表面上の共同研究を行ってしまう傾向にあることを、われわれは体験的に知っている。しかし、なぜ深い連携ができないのか、そのダイナミクスやメカニズムを研究者自身が「分析的には理解していない」ことが問題なのである。われわれは様々な共同研究を行ってきた過去の経験から、異分野間の連携不全の原因は、論理にあるのではなく、よく知っていて本音では触りたくない心情にかかわる問題にあると推理する。これは異教徒、異文化圏、研究異分野などという異なる集団(コミュニティ)間の交流では、現実にしばしば起こる現象である。それを鍵として次のような仮説を検討した。
 ヒトがモノゴトを理解判断する背景には、論理的な記述やエビデンスの他に、別の要素、例えば、自然や社会の環境に由来する風俗・習慣・道徳・宗教などが介在している。まずそこで美意識、志向性、価値観、道徳観、倫理観、世界観などの「観」が培われ、それが個人の心情の枠組みを規定する。次に、その「観」の集合が次世代の人間社会環境を形成していくため、集団と個人の心情は共進化する。そのため、一度生じたその「観」は、たとえそれがヒトにとって最適でなくても、統計的揺らぎを伴いながら適応進化していく。これらは、環境適応のための生存戦略として形成された環境適応現象であり、現時点では自然(無意識的)制御が行われていが、将来は知恵の増加によって自己(意識的)制御が可能となる。この「観」の形成過程と、それが個人と社会に与える効果を的確に把握するかどうかによって、異なる集団の連携不全を解決できるかできないかが決まる。
 それゆえ、本研究ではこの個人と集団の「観」をMind Climate(MC:精神風土)と呼び、その社会的機能、形成、実態、変遷の総体を科学(観測、モデリング、介入実験)に組み込み、自然制御から自己制御の可能性を探求する。その成果は、特定のヒトが保持する技能を技術にすることに貢献し、地球生命の「生継」と「継承」のための科学にすることができるだろう。これこそ研究者が取り組むべき至高の課題であり、われわれはその端緒についたのではなかろうか。
 上述の背景より、現在われわれはMC形成過程のモデル構築に取り組んでいる。その形成過程は、まず、次の三つのカテゴリーに分けられる。① 物理環境(地理や気候)、② 生態環境(遺伝、エピジェネシス、身体)、③ 人間社会環境(刷り込み、風俗、宗教、教育、政策)。これらが複合的に絡み合って、個人と集団のマインドクライメートが相互作用しながら進化変遷してゆくのであろう。①と②は既に科学的探求が行われているが、③に関しては、一部で科学的研究が行われているものの、まだ体系的に科学の対象として切り込むアプローチは希薄である。本発表では、MCとその形成の分類と、個人と集団が影響を受ける範囲と関係性を検討した結果を紹介し、諸氏の建設的批判をえたい。
 本研究は中部大学問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究 IDEAS201608の助成を受けたものである。