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[O05-P35] 平成27年9月関東・東北豪雨に伴うスプライトの発生メカニズム
キーワード:電離圏、高高度発光現象、スプライト、平成27年9月関東・東北豪雨
2007年より静岡県磐田市の本校校舎にて日本海上空のTLEs(高高度発光現象・Transient Luminous Events)の光学地上観測を開始し,2015年8月,新たに関東地方に向けたカメラを設置した.2015年9月9日22時16分,このカメラと長野県朝日村のShimoda氏でTLEsの一種であるスプライトの同時観測に成功した(画像:本校観測のスプライト).両観測点のデータを三角測量の原理で分析したところ,発生地点は栃木県宇都宮市上空75kmであった.このイベントは平成27年9月関東・東北豪雨の発生中であった.
盛んな降水があったことから,東京学芸大学の鴨川仁氏(私信)による夏季スプライト発生過程の仮説がこのイベントに適用可能ではないかと考え,本研究で検証することにした.
以下がスプライト発生過程の仮説である.
① 盛んな降水と-CG(負極性落雷)により,積乱雲下部の負電荷が流出し,上部の正電荷が取り残される.
② 積乱雲の正電荷と地表の負電荷が中和することにより,スプライトを伴う+CG(正極性落雷)が発生する.
研究にあたっては,
a) 宇都宮市近辺の標高(国土地理院公開)
b) 9月8日~10日の栃木県内の各気象庁地域気象観測所の風向風速
c) 9月8日~10日の栃木県内の各気象庁地域気象観測所の降水量
d) 9月8日~10日の関東地方の赤外線衛星画像
e) 9月8日~10日の関東地方の雨雲レーダー画像(以上b)-e)一般財団法人日本気象協会公開)
f) 発生地点周辺200km四方,発生時刻前後1時間ずつの落雷情報(株式会社 フランクリン・ジャパン観測)
を入手し,バーチャル地球儀ソフトGoogle Earthによって地図上に投影して比較した.
調査の結果,以下のことが判明した.
① 当時,栃木県の地表付近には東風が吹いていた.
② 栃木県南部にかかっていた雷雲から,栃木県塩谷郡高根沢町から同県真岡市亀山にかけての台地の西側に腕状の構造が伸展し,ここでスプライト発生と同じ時刻に+CGが一回だけ発生していた.この+CGを中心として,南北にやや潰れた五角形の頂点でスプライトが発生した.
③ 線状降水帯を形成する雲のうち,スプライトを発生させたものは,正負両極性の落雷を多発していた.一方,その北に存在した雲には落雷が見られなかった.
以上のことから,スプライト発生に至る過程は以下のように考えられる.
①台風18号から変化した日本海の温帯低気圧と太平洋の台風17号により,太平洋からの湿った空気が継続的に流れ込んだ.この影響で,2015年9月8日午後より関東地方に線状降水帯が発生し,偏西風ジェットの南風により雨雲が次々と南から北へ向かって通過した.
② 9日18時頃,東京湾上空で発生した積乱雲が雲内の電荷の分離と落雷を起こしながら北上し,北端が21時には茨城県筑西市に,22時には栃木県宇都宮市上空に到達した.尚これに先行して発生,北上した雨雲は,何らかの理由で雷雲とはならなかった.
③ 栃木県塩谷郡高根沢町から同県真岡市亀山にかけての台地を地表付近の東風が駆け上がったことにより,台地に沿って局所的な上昇気流が発生した.この影響で,積乱雲の北端(宇都宮市付近)から北西方向に腕状の構造が伸展した.
④ 正に帯電した積乱雲上部が台地を超え,地表に負電荷を誘導.また積乱雲の上方空間にも負電荷が誘導された.
⑤ 22時16分20秒,台地の西にあたる宇都宮市東町付近で,積乱雲上部の正電荷と地表の負電荷とが中和する形で電流値28kAの+CGが発生した.
⑥ 残された上方負電荷が,新たにその上方に正空間電荷を誘導した.ここで絶縁破壊が起こり,正極性落雷発生地点を囲むような5本の経路で上空70kmから80kmにかけて電流が生じ,スプライトとして発光した.
今後の課題は以下の通りである.
① 線状降水帯を形成していた雲の中に,雷雲と雷雲でないものが存在していた理由を解明する.
② 5本のスプライトの分布が,正極性落雷を中心として南北に潰れた五角形の頂点となった理由を解明する.尚,他のTLEs観測校の報告によれば,スプライトの発生地点はその原因となる+CGから5-20km程度離れている場合も多く,常に+CGの直上で発生するわけではない.
盛んな降水があったことから,東京学芸大学の鴨川仁氏(私信)による夏季スプライト発生過程の仮説がこのイベントに適用可能ではないかと考え,本研究で検証することにした.
以下がスプライト発生過程の仮説である.
① 盛んな降水と-CG(負極性落雷)により,積乱雲下部の負電荷が流出し,上部の正電荷が取り残される.
② 積乱雲の正電荷と地表の負電荷が中和することにより,スプライトを伴う+CG(正極性落雷)が発生する.
研究にあたっては,
a) 宇都宮市近辺の標高(国土地理院公開)
b) 9月8日~10日の栃木県内の各気象庁地域気象観測所の風向風速
c) 9月8日~10日の栃木県内の各気象庁地域気象観測所の降水量
d) 9月8日~10日の関東地方の赤外線衛星画像
e) 9月8日~10日の関東地方の雨雲レーダー画像(以上b)-e)一般財団法人日本気象協会公開)
f) 発生地点周辺200km四方,発生時刻前後1時間ずつの落雷情報(株式会社 フランクリン・ジャパン観測)
を入手し,バーチャル地球儀ソフトGoogle Earthによって地図上に投影して比較した.
調査の結果,以下のことが判明した.
① 当時,栃木県の地表付近には東風が吹いていた.
② 栃木県南部にかかっていた雷雲から,栃木県塩谷郡高根沢町から同県真岡市亀山にかけての台地の西側に腕状の構造が伸展し,ここでスプライト発生と同じ時刻に+CGが一回だけ発生していた.この+CGを中心として,南北にやや潰れた五角形の頂点でスプライトが発生した.
③ 線状降水帯を形成する雲のうち,スプライトを発生させたものは,正負両極性の落雷を多発していた.一方,その北に存在した雲には落雷が見られなかった.
以上のことから,スプライト発生に至る過程は以下のように考えられる.
①台風18号から変化した日本海の温帯低気圧と太平洋の台風17号により,太平洋からの湿った空気が継続的に流れ込んだ.この影響で,2015年9月8日午後より関東地方に線状降水帯が発生し,偏西風ジェットの南風により雨雲が次々と南から北へ向かって通過した.
② 9日18時頃,東京湾上空で発生した積乱雲が雲内の電荷の分離と落雷を起こしながら北上し,北端が21時には茨城県筑西市に,22時には栃木県宇都宮市上空に到達した.尚これに先行して発生,北上した雨雲は,何らかの理由で雷雲とはならなかった.
③ 栃木県塩谷郡高根沢町から同県真岡市亀山にかけての台地を地表付近の東風が駆け上がったことにより,台地に沿って局所的な上昇気流が発生した.この影響で,積乱雲の北端(宇都宮市付近)から北西方向に腕状の構造が伸展した.
④ 正に帯電した積乱雲上部が台地を超え,地表に負電荷を誘導.また積乱雲の上方空間にも負電荷が誘導された.
⑤ 22時16分20秒,台地の西にあたる宇都宮市東町付近で,積乱雲上部の正電荷と地表の負電荷とが中和する形で電流値28kAの+CGが発生した.
⑥ 残された上方負電荷が,新たにその上方に正空間電荷を誘導した.ここで絶縁破壊が起こり,正極性落雷発生地点を囲むような5本の経路で上空70kmから80kmにかけて電流が生じ,スプライトとして発光した.
今後の課題は以下の通りである.
① 線状降水帯を形成していた雲の中に,雷雲と雷雲でないものが存在していた理由を解明する.
② 5本のスプライトの分布が,正極性落雷を中心として南北に潰れた五角形の頂点となった理由を解明する.尚,他のTLEs観測校の報告によれば,スプライトの発生地点はその原因となる+CGから5-20km程度離れている場合も多く,常に+CGの直上で発生するわけではない.