JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM15] [EE] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

2017年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、座長:野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、座長:山本 衛(京都大学生存圏研究所)

11:15 〜 11:30

[PEM15-08] 密度勾配不安定が引き起こすポーラーパッチ後縁部の指状構造

*高橋 透1平木 康隆2細川 敬祐2小川 泰信1,3坂井 純2宮岡 宏1,3 (1.国立極地研究所、2.電気通信大学 大学院情報理工学研究科、3.総合研究大学院大学 複合科学研究科 極域科学専攻)

キーワード:ポーラーパッチ、密度勾配不安定

ポーラーパッチは極冠域の電離圏F領域に見られる、電子密度が背景の2から10倍まで増大した領域である。ポーラーパッチは昼間側の日照領域で電離生成された高密度プラズマが電離圏対流によって夜間側へと掻き出され、パッチ状になることによって生成される。F領域では、再結合の時定数が大きいため、電子密度が高い状態は数時間にわたって維持され、対流によって反太陽方向に運ばれる。
典型的なポーラーパッチの形状は、背景のプラズマ対流に平行な方向に短く、垂直な方向に長い構造を持つことが観測的に知られている。また、より細かい構造として、ポーラーパッチの後縁に指状構造が形成されることが知られており、その成長率と空間スケールはそれぞれ、300秒と100 km程度であることが観測的に示されている。これまで、指状構造が形成されるメカニズムとして、圧力交換型不安定の一種であるGradient Drift Instability(GDI)が提唱されているが、定量的かつ理論的な検証が不足していおり、GDIが指状構造の形成にどの程度寄与しているのかについては、未だ検討の余地が残されている。
本研究ではEISCATスバールバルレーダー (ESR)の観測データと数値計算シミュレーションを用いて、「GDIの指状構造の形成に対する寄与」と「指状構造のスケールを決定しているメカニズム」について研究を行った。まず初めに指状構造が観測されたイベントを含む数例に関して密度勾配と電場からGDIの線形成長率を求めると、おおよそ10-3 s-1となり、これは観測結果と良く一致することが分かった。また、観測例から求めたポーラーパッチの典型的な密度勾配、電場を初期条件として数値計算シミュレーションを行ったところ、指状構造の成長率がおおよそ10-3 s-1のオーダーであることが明らかになった。これらの事実は指状構造の形成にGDIが大きく寄与していたこと示唆する。
 これまで多くの研究で用いられてきたGDIの線形成長率は、密度勾配と電場のみの関数となっており、構造の空間スケール(=波数)には依存していない。この成長率では指状構造が100 km程度の典型的なスケールを持つことを説明することはできない。数値シミュレーションでペダーソン電気電導度を大きくした場合、発達する指状構造のスケールに違いが見られた。これはペダーソン電気電導度が依存するイオンの衝突周波数が、発達する指状構造のスケールの違いに寄与していることを意味する。本研究では、線形成長率を計算する上でこれまで無視されてきたイオンの衝突項を含めて導出を行ない、構造のスケールに依存する成長率を導くことに成功した。
 発表では、観測データと数値計算シミュレーションを用いたGDIが指状構造に与える影響と、構造のスケールに依存した線形成長率を用いた指状構造のスケールの決定要因について考察を行なった結果を報告する。