12:00 〜 12:15
[PPS07-29] 球標的へのクレーター形成実験:標的の曲率がクレーター効率に与える影響
キーワード:衝突クレーター、衝突実験、小天体、地形、二段式軽ガス銃
近年の惑星探査によって,小惑星・小氷衛星等の表面にも衝突クレーターが多数存在することが明らかになった。小天体上での衝突クレーター形成過程は,大きな天体上でのそれとは主に以下の2点において異なる。まず重力加速度が小さいことだ。すると,相対的に天体表層の物質強度がクレーターサイズを制御する。直径1km程度の小惑星に存在する衝突クレーターは全て強度支配域であるという見積もりもある(Jutzi et al., 2015)。二つ目は,大きなクレーターで特に小天体そのものの曲率が無視できなくなることだ。つまり,曲率を持つ面に対する強度支配域の衝突クレーター形成過程を明らかにすることは,小天体の衝突史を理解する上で重要である。
曲率を持つ面に対する強度支配域の衝突クレーターの研究は,Fujiwara et al. (1993, 2014)によって実験的に調べられ,曲率が高くなるほどクレーターの直径,深さ,質量が増大することが示されているが,実験データ数や調査パラメータが十分でない現状がある。本研究では,直径の異なる球に衝突クレーターを作り,高精度3次元形状測定を行った。また,簡単なモデルを構築し,標的の曲率がクレーター形成過程に影響を与えるメカニズムを提案する。
実験は宇宙科学研究所にある超高速衝突実験施設の二段式軽ガス銃を用いて行った。標的は含水石膏で,一辺が9 cm, 15 cmの立方体と,直径がそれぞれ7.8 cm, 10.9 cm, 17.0 cm, 24.8 cmの球である。標的のバルク密度は 1.08 g/cm3,引っ張り強度は 2.4 MPa である。弾丸は直径 3.2 mmのナイロン球で,約 3.4 km/s で標的に衝突させた。この場合の弾丸/標的サイズ比(=規格化した曲率)は0.013-0.041となる。 標的は発泡スチロールボックスの中に設置し,ショット後に破片と共に回収した。形成されたクレーターは,高精度3次元形状測定システム(COMS MAP-3D)を用いてスキャンし,0.2 mmごとの地形データを取得した。クレーターのない部分の地形データを用いて近似的に求めた平面・球面を衝突前表面とし,それとの差分としてクレーターの体積と深さを得た。衝突前表面においてクレーターが占める面積と等しい面積を持つ円の半径を,クレーター半径とした。
できたクレーターは,中心のピットをスポールが囲む形状をしていた。曲率が大きいほどスポール領域が顕著になった。クレーターの体積や直径は,曲率と共に大きくなったが,深さはほぼ一定であった。スポール部の体積やクレーターのプロファイルを比較すると,ピット部には曲率による大きな差は見られないが,スポール部は曲率と共に広く,深くなっていた。このことから,クレーター体積増加にはスポール体積の増加が効いていることがわかった。
衝突によって標的表面にかかる力の垂直成分に注目して簡単なモデルを構築した。半径増加率(平面にできるクレーター半径に対するクレーター半径)と規格化曲率のグラフ上で,実験データは妥当なパラメータ(等圧コア半径と衝撃圧の減衰率)を用いて描けるモデル曲線の範囲に収まった。このモデルでは,干渉領域は考慮せず,曲率によって等圧コアから標的表面までの距離が変化することのみを表現している。つまり,標的の曲率によってクレーターサイズが異なるのは,曲率が高いほど標的表面が近くなるという形状効果の寄与が大きいと言える。いくつかの小惑星の最大クレーターは,本研究で調査した曲率の範囲内にある。実験結果を直接適応することは難しいが,実際の小惑星の大きなクレーターにおいても,曲率によって半径が拡大しているかもしれない。
曲率を持つ面に対する強度支配域の衝突クレーターの研究は,Fujiwara et al. (1993, 2014)によって実験的に調べられ,曲率が高くなるほどクレーターの直径,深さ,質量が増大することが示されているが,実験データ数や調査パラメータが十分でない現状がある。本研究では,直径の異なる球に衝突クレーターを作り,高精度3次元形状測定を行った。また,簡単なモデルを構築し,標的の曲率がクレーター形成過程に影響を与えるメカニズムを提案する。
実験は宇宙科学研究所にある超高速衝突実験施設の二段式軽ガス銃を用いて行った。標的は含水石膏で,一辺が9 cm, 15 cmの立方体と,直径がそれぞれ7.8 cm, 10.9 cm, 17.0 cm, 24.8 cmの球である。標的のバルク密度は 1.08 g/cm3,引っ張り強度は 2.4 MPa である。弾丸は直径 3.2 mmのナイロン球で,約 3.4 km/s で標的に衝突させた。この場合の弾丸/標的サイズ比(=規格化した曲率)は0.013-0.041となる。 標的は発泡スチロールボックスの中に設置し,ショット後に破片と共に回収した。形成されたクレーターは,高精度3次元形状測定システム(COMS MAP-3D)を用いてスキャンし,0.2 mmごとの地形データを取得した。クレーターのない部分の地形データを用いて近似的に求めた平面・球面を衝突前表面とし,それとの差分としてクレーターの体積と深さを得た。衝突前表面においてクレーターが占める面積と等しい面積を持つ円の半径を,クレーター半径とした。
できたクレーターは,中心のピットをスポールが囲む形状をしていた。曲率が大きいほどスポール領域が顕著になった。クレーターの体積や直径は,曲率と共に大きくなったが,深さはほぼ一定であった。スポール部の体積やクレーターのプロファイルを比較すると,ピット部には曲率による大きな差は見られないが,スポール部は曲率と共に広く,深くなっていた。このことから,クレーター体積増加にはスポール体積の増加が効いていることがわかった。
衝突によって標的表面にかかる力の垂直成分に注目して簡単なモデルを構築した。半径増加率(平面にできるクレーター半径に対するクレーター半径)と規格化曲率のグラフ上で,実験データは妥当なパラメータ(等圧コア半径と衝撃圧の減衰率)を用いて描けるモデル曲線の範囲に収まった。このモデルでは,干渉領域は考慮せず,曲率によって等圧コアから標的表面までの距離が変化することのみを表現している。つまり,標的の曲率によってクレーターサイズが異なるのは,曲率が高いほど標的表面が近くなるという形状効果の寄与が大きいと言える。いくつかの小惑星の最大クレーターは,本研究で調査した曲率の範囲内にある。実験結果を直接適応することは難しいが,実際の小惑星の大きなクレーターにおいても,曲率によって半径が拡大しているかもしれない。