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[PPS10-17] Eucriteの結晶化実験から推測するNon-cumulate eucrite中シリカ多形の形成過程
キーワード:シリカ鉱物、ユークライト、結晶化実験、クリストバライト、石英、相転移
1.はじめに シリカ鉱物は様々な温度圧力条件下で準安定相を含めて23種以上の多形を持つ (例, 木原, 2001)。例えば、Tridymiteは400℃以下で、六方晶系から直方晶系を経て、単斜晶系または擬直方晶系に転移する (Graetsch and Flörke, 1991)。また、シリカ鉱物は熱水変成などによって晶出することが広く知られている。例えば隕石中では、Serra de Magé (Cumulate eucrite) 中に晶出したQuartzの細脈は水からの沈殿であるとされている (Treiman et al., 2004)。このように、シリカ鉱物は低温での熱史の理解や水質変成等の二次変成の影響を考察する上で重要な鉱物であると考えられるが、隕石中では「シリカ」としか記載されていないことがほとんどである。我々は、これまでにEucrite隕石に着目し、Cumulate eucriteとNon-cumulate eucrite中のシリカ鉱物の詳細な観察と分析を行うことで、小惑星Vestaの地殻深部と表層付近での比較を行い、低温での熱史と水質変成などを含む二次変成の履歴の解明を試みてきた (e.g., Ono et al., 2016)。中でも、Non-cumulate eucrite中の玄武岩質岩片に存在するシリカ鉱物の組み合わせは多種多様であり、それらの起源は不明な点が多い。そこで本研究では、急冷過程でEucrite質なマグマからシリカ鉱物がどのような組み合わせで晶出するかを確かめるために、Eucriteを用いた結晶化実験を行った。
2.試料・手法 実験には、典型的なEucriteであるNon-cumulate eucriteのMillbillillieを用いた。Millbillillieを10 µm程度の粉末状にすりつぶし、125 mgのペレットに圧縮した後、白金ワイヤー上に乗せ、シリコニット製縦型電気炉中で、1300℃で48時間溶融・均質化してから850℃まで1℃/hrで冷却した。CO2とH2の混合により、全圧は1気圧、酸素分圧はlogfO2=IW-1とした。得られた試料を薄片にして、光学顕微鏡とSEMによる観察およびEPMAによる元素マッピングによりシリカ鉱物の位置を特定し、その後、EBSD像解析と顕微ラマン分光によってシリカ鉱物の相同定を行った。
3.結果・考察 実験から得られた試料には、短冊状に伸長した斜長石と輝石が観察され、それらの粒間に自形のシリカ鉱物が存在していた。輝石は著しい化学的ゾーニングを示していた。EBSD像解析とラマンスペクトルの結果から、シリカ鉱物はすべてCristobaliteであることが確認された。この結果から、Eucrite質なマグマから急冷過程で最初に晶出するシリカ鉱物はCristobaliteであり、その組織から輝石と斜長石が結晶化した後に析出したということが明らかになった。これを我々の先行研究で得られたNon-cumulate eucrite中のシリカ鉱物の組織や組み合わせの結果から、どのようにして各種のシリカ鉱物が形成されたかを以下に議論する。Yamato-75011の玄武岩質岩片中にはCristobaliteとQuartzの集合体が存在した。本研究での実験結果とHackle fracture patternと呼ばれる組織 (Seddio et al., 2015) に似た組織が存在することから、集合体はCristobaliteからQuartzへの部分転移によるものであると考えられる。Pasamonteの玄武岩質岩片中には、半自形のCristobalite、Quartz、直方晶系のTridymiteが共存していた。実験結果から、半自形のCristobaliteが最初に晶出し、角礫化した後に熱変成によってQuartzと直方晶系のTridymiteに相転移した可能性が考えられる。そして、Stannernには不定形のQuartzのみが存在していた。Stannernは熱変成度がType 4と比較的高いことから、最初に晶出したCristobaliteが熱変成を受けて、全てQuartzに相転移したことが推測される。
4.結論 本研究では、1 ℃/hrという急冷過程においてEucrite質なマグマから最初に晶出するシリカ鉱物は自形のCristobaliteであることを明らかにした。この結果から、Non-cumulate Eucrite中に存在したシリカ多形はCristobaliteからの相転移によってできる可能性を示唆することができた。また、その相転移は、実際の隕石の冷却速度が1 ℃/hrよりも遅い速度だったためか、もしくは熱変成などの二次変成によって起こったものであることが推測された。
2.試料・手法 実験には、典型的なEucriteであるNon-cumulate eucriteのMillbillillieを用いた。Millbillillieを10 µm程度の粉末状にすりつぶし、125 mgのペレットに圧縮した後、白金ワイヤー上に乗せ、シリコニット製縦型電気炉中で、1300℃で48時間溶融・均質化してから850℃まで1℃/hrで冷却した。CO2とH2の混合により、全圧は1気圧、酸素分圧はlogfO2=IW-1とした。得られた試料を薄片にして、光学顕微鏡とSEMによる観察およびEPMAによる元素マッピングによりシリカ鉱物の位置を特定し、その後、EBSD像解析と顕微ラマン分光によってシリカ鉱物の相同定を行った。
3.結果・考察 実験から得られた試料には、短冊状に伸長した斜長石と輝石が観察され、それらの粒間に自形のシリカ鉱物が存在していた。輝石は著しい化学的ゾーニングを示していた。EBSD像解析とラマンスペクトルの結果から、シリカ鉱物はすべてCristobaliteであることが確認された。この結果から、Eucrite質なマグマから急冷過程で最初に晶出するシリカ鉱物はCristobaliteであり、その組織から輝石と斜長石が結晶化した後に析出したということが明らかになった。これを我々の先行研究で得られたNon-cumulate eucrite中のシリカ鉱物の組織や組み合わせの結果から、どのようにして各種のシリカ鉱物が形成されたかを以下に議論する。Yamato-75011の玄武岩質岩片中にはCristobaliteとQuartzの集合体が存在した。本研究での実験結果とHackle fracture patternと呼ばれる組織 (Seddio et al., 2015) に似た組織が存在することから、集合体はCristobaliteからQuartzへの部分転移によるものであると考えられる。Pasamonteの玄武岩質岩片中には、半自形のCristobalite、Quartz、直方晶系のTridymiteが共存していた。実験結果から、半自形のCristobaliteが最初に晶出し、角礫化した後に熱変成によってQuartzと直方晶系のTridymiteに相転移した可能性が考えられる。そして、Stannernには不定形のQuartzのみが存在していた。Stannernは熱変成度がType 4と比較的高いことから、最初に晶出したCristobaliteが熱変成を受けて、全てQuartzに相転移したことが推測される。
4.結論 本研究では、1 ℃/hrという急冷過程においてEucrite質なマグマから最初に晶出するシリカ鉱物は自形のCristobaliteであることを明らかにした。この結果から、Non-cumulate Eucrite中に存在したシリカ多形はCristobaliteからの相転移によってできる可能性を示唆することができた。また、その相転移は、実際の隕石の冷却速度が1 ℃/hrよりも遅い速度だったためか、もしくは熱変成などの二次変成によって起こったものであることが推測された。