JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS10] [JJ] 太陽系における惑星物質の形成と進化

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 105 (国際会議場 1F)

コンビーナ:臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、宮原 正明(広島大学理学研究科地球惑星システム学専攻)、山口 亮(国立極地研究所)、癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門)、座長:癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院 機能の創生部門)

16:30 〜 16:45

[PPS10-29] アエンデ隕石の火成CAIにみられる鉱物の結晶成長と酸素同位体の非平衡分布との関係

*川崎 教行1サイモン スティーブ2グロスマン ローレンス2坂本 直哉3圦本 尚義3,1 (1.宇宙科学研究所、2.シカゴ大学、3.北海道大学)

隕石に含まれるCAI (Ca-Al-rich inclusion)は,高温鉱物から成る,太陽系最古の岩石である (Connelly et al., 2012)。CAIを構成する鉱物の酸素同位体比は,三酸素同位体図上で,CCAM (carbonaceous chondrite anhydrous mineral)ラインと呼ばれる非質量依存分別線上にプロットされる同位体非平衡分布をもつことが知られている (Clayton et al., 1977; Clayton, 1993)。鉱物内・鉱物間における酸素同位体の非平衡分布の起源は,二次イオン質量分析法 (SIMS)を用いたCAI構成鉱物の局所分析データなどに基づき,長年議論されているが (e.g., Yurimoto et al., 2008 and references therein),まだ解決には至っていない。起源の解明のため,本研究では,アエンデ隕石の火成Type B1 CAI (TS34; e.g., Clayton et al., 1977)の構成鉱物の酸素同位体組成の局所分析と26Al−26Mg年代測定を行い,CAI鉱物の結晶成長,晶出順序と対応させた。それにより,火成CAIの鉱物内・鉱物間における酸素同位体の非平衡分布が,CAI結晶化中の,メルトの酸素同位体組成変化により形成されたことがわかった。局所同位体分析は,北海道大学のSIMS (Cameca ims-1280HR)で行った。
火成組織をもつTS34 CAIは,主にメリライト,ファッサイト (TiとAlに富む単斜輝石),スピネルと,少量のアノーサイトから成る。分析した鉱物の酸素同位体組成は,先行研究 (Clayton et al., 1977; Connolly et al., 2003)と調和的に,CCAMライン上に分布した。スピネルは均一に16Oに富む組成 (Δ17O = −22.7 ± 1.7 ‰, 2SD),メリライトは均一に16Oに乏しい組成 (Δ17O = −2.8 ± 1.8 ‰)を示し,酸素同位体組成と結晶成長との相関は見られない。ファッサイト単結晶は,Tiに富む組成からTiに乏しい組成へと徐々に変化する,顕著な結晶成長ゾーニングを示す。酸素同位体組成のラインプロファイルにより,ファッサイトの酸素同位体組成は結晶成長に対応した連続的な変化が観察された。ファッサイトの酸素同位体組成は,その結晶成長が進むにつれ,16Oに乏しい組成 (Δ17O ~ −3 ‰)から16Oに富む組成 (Δ17O ~ −23 ‰)に変化していた。この酸素同位体組成の広がりは,TS34 CAI鉱物の酸素同位体分布の全範囲に相当する。ファッサイト結晶成長中の酸素同位体組成の変化は,メルトの酸素同位体組成が,16Oに乏しい組成から富む組成へと変化していたことを示し,メルトの変化は16Oに富む周囲の星雲ガスとの酸素同位体交換により起きたものだと考えられる。初期に結晶した16Oに乏しいファッサイトは,メリライトと平衡な酸素同位体組成 (Δ17O ~ −3 ‰)をもち,メリライトの結晶化の終了近くから結晶し始めたものであろう。一方,16Oに富み,リキダス鉱物であるスピネル (Stolper, 1982)は,一連の溶融・結晶化イベントでは溶け残り鉱物であったと考えることができる。アノーサイトの酸素同位体組成は,Δ17O ~ −2 ‰から−9 ‰の間に分布し,その範囲はファッサイトの酸素同位体分布の片側一部に該当する。アノーサイトとファッサイトの酸素同位体組成の関係は,ファッサイト結晶成長の初期から中間期にかけて,アノーサイトがファッサイトと同時に結晶成長していたことを示唆する。以上のTS34 CAI構成鉱物の晶出順序の関係は,CAIメルトの相平衡図 (Stolper, 1982)と調和的である。TS34 CAIに記録された,鉱物内・鉱物間の酸素同位体の非平衡分布は,メルトからの結晶成長,晶出順序に対応していることが示された。導かれた形成過程から,初期太陽系円盤内のTS34 CAIの形成領域には,16Oに富むリザーバーと16Oに乏しいリザーバーが存在していたことが示唆される。TS34 CAIのメリライトとファッサイトの26Al−26Mg鉱物アイソクロンは,(26Al/27Al)0 = (5.003 ± 0.075) × 10−5のAl同位体初生比を示し,カノニカル年代 (Larsen et al., 2011)との相対年代差は5 ± 2万年である。本研究により,太陽系誕生から約5万年後までに,16Oに富むリザーバーと16Oに乏しいリザーバーが,太陽系星雲内に存在していたことが明らかとなった。