[SCG73-P09] 九州黒瀬川構造帯中の含ひすい輝石岩についての鉱物学的研究
キーワード:ひすい輝石、オンファス輝石、変斑レイ岩、熊本県八代市泉町
1.序
主要造岩鉱物である輝石は,その化学組成により20以上の独立種がある。ひすい輝石は,その輝石グループの中でも産出は比較的まれであり,90%以上をひすい輝石で占めるひすい輝石岩として蛇紋岩中や蛇紋岩メランジュ中の青色片岩やエクロジャイトに産するものがある。
(1983)は熊本県五木地域でひすい輝石を含む曹長石-オンファス輝石岩を報告し,Miyazoe et al.(2009)はその岩石が形成された温度圧力条件を350℃,500MPa~1.08GPaであることを明らかにした。また,斎藤・宮崎(2006)は,熊本県八代市で蛇紋岩メランジュ中にひすい輝石を含む変斑レイ岩がブロック状に分布することを報告した。そのひすい輝石の形成過程について曹長石の分解反応を挙げ,石英は水を介して周辺の蛇紋岩へと拡散したと述べている。
Harlow et al.(2015)などによって,熱水流体から直接晶出する反応や,熱水流体による交代作用によりひすい輝石が形成されると述べており,天然のひすいの産状を説明できる可能性がある。本研究では,熊本県八代市泉町で報告されているひすい輝石を含む変斑レイ岩についての鉱物学的記載を行い,ひすい輝石やオンファス輝石の形成過程などについて考察したい。
2.地質および試料
現在,黒瀬川構造帯に関する明確な定義について不十分な点はあるが,西山(2010)に従い,秩父累帯中の蛇紋岩メランジュに伴われる変成岩類を黒瀬川構造帯の変成岩と呼ぶ。本地域の蛇紋岩メランジュは北から種山蛇紋岩ユニット,箱石蛇紋岩ユニット,深水蛇紋岩ユニットからなり,基本的に東北東方向に帯状に分布する(斎藤・宮崎, 2006)。本研究では斎藤・宮崎(2006)が報告した箱石蛇紋岩ユニット中のひすい輝石を含む変斑レイ岩を研究対象とした。
3.実験手法
X線回折にBruker AXS製 M18XHF22-SRAを用いた。鉱物の化学分析,微細組織の観察にSEM(JEOL製 JSM-7001F)及びEPMA(JEOL製 JXA-8530F)を用いた。
4.結果と考察
ひすい輝石を含む変斑レイ岩の新鮮な露頭は肉眼では一様に暗緑色塊状である。研磨面は青緑色または緑色を呈し,青緑色の部分は藍閃石が多く含まれる。観察した薄片のほとんどにひすい輝石が含まれていたが,肉眼で判別できるひすい輝石は数mm幅の白脈のみであり,そのほかのひすい輝石は数10µm程度の微粒子として点在していた。露頭の一部に数10cmの連続する石英とカリ長石からなる白色脈もある。その周辺の変斑レイ岩はひすい輝石の微粒子を含むが,石英と接触共生はしていなかった。
XRD分析で脈を含まない部分の構成鉱物を調べた結果,主に緑泥石,パンペリー石,藍閃石,普通輝石からなり,その他に曹長石や雲母を含むが,ひすい輝石はこれらの鉱物に比べ含有量は少ないことが分かった。
10µmの大きさで集合しており,石英の共生はなかった。一部には,カリ長石が共存するものも見られた。点在するひすい輝石の化学組成は曹長石、カリ長石のみと接触する部分では端成分に近いが,緑泥石、パンペリー石、普通輝石などと接触する縁辺部はCa, Fe, Mgに富む組成である。
Ca, Fe, Mgに富む組成をしたひすい輝石とカリ長石の組み合わせからなっていた。縁辺部のひすい輝石の組成はひすい輝石とオンファス輝石との間にある不混和領域の値を示しており,非常に小さなスケールで離溶組織をなしている可能性がある。また,どの産状のひすい輝石にも,組成の不均一が見られる粒子が一部あった。
以上の結果から,ひすい輝石と石英の接触共存がなく,石英が拡散する過程を残した組織が見られないこと,また,ひすい輝石粒子の中には,組成累帯構造を持つものがあることから,ひすい輝石が熱水流体から晶出し,その後,同時に晶出した石英は,ひすい輝石と曹長石の組み合わせが安定な温度条件下でひすい輝石と反応して消費されたのではないかと思われる。
主要造岩鉱物である輝石は,その化学組成により20以上の独立種がある。ひすい輝石は,その輝石グループの中でも産出は比較的まれであり,90%以上をひすい輝石で占めるひすい輝石岩として蛇紋岩中や蛇紋岩メランジュ中の青色片岩やエクロジャイトに産するものがある。
(1983)は熊本県五木地域でひすい輝石を含む曹長石-オンファス輝石岩を報告し,Miyazoe et al.(2009)はその岩石が形成された温度圧力条件を350℃,500MPa~1.08GPaであることを明らかにした。また,斎藤・宮崎(2006)は,熊本県八代市で蛇紋岩メランジュ中にひすい輝石を含む変斑レイ岩がブロック状に分布することを報告した。そのひすい輝石の形成過程について曹長石の分解反応を挙げ,石英は水を介して周辺の蛇紋岩へと拡散したと述べている。
Harlow et al.(2015)などによって,熱水流体から直接晶出する反応や,熱水流体による交代作用によりひすい輝石が形成されると述べており,天然のひすいの産状を説明できる可能性がある。本研究では,熊本県八代市泉町で報告されているひすい輝石を含む変斑レイ岩についての鉱物学的記載を行い,ひすい輝石やオンファス輝石の形成過程などについて考察したい。
2.地質および試料
現在,黒瀬川構造帯に関する明確な定義について不十分な点はあるが,西山(2010)に従い,秩父累帯中の蛇紋岩メランジュに伴われる変成岩類を黒瀬川構造帯の変成岩と呼ぶ。本地域の蛇紋岩メランジュは北から種山蛇紋岩ユニット,箱石蛇紋岩ユニット,深水蛇紋岩ユニットからなり,基本的に東北東方向に帯状に分布する(斎藤・宮崎, 2006)。本研究では斎藤・宮崎(2006)が報告した箱石蛇紋岩ユニット中のひすい輝石を含む変斑レイ岩を研究対象とした。
3.実験手法
X線回折にBruker AXS製 M18XHF22-SRAを用いた。鉱物の化学分析,微細組織の観察にSEM(JEOL製 JSM-7001F)及びEPMA(JEOL製 JXA-8530F)を用いた。
4.結果と考察
ひすい輝石を含む変斑レイ岩の新鮮な露頭は肉眼では一様に暗緑色塊状である。研磨面は青緑色または緑色を呈し,青緑色の部分は藍閃石が多く含まれる。観察した薄片のほとんどにひすい輝石が含まれていたが,肉眼で判別できるひすい輝石は数mm幅の白脈のみであり,そのほかのひすい輝石は数10µm程度の微粒子として点在していた。露頭の一部に数10cmの連続する石英とカリ長石からなる白色脈もある。その周辺の変斑レイ岩はひすい輝石の微粒子を含むが,石英と接触共生はしていなかった。
XRD分析で脈を含まない部分の構成鉱物を調べた結果,主に緑泥石,パンペリー石,藍閃石,普通輝石からなり,その他に曹長石や雲母を含むが,ひすい輝石はこれらの鉱物に比べ含有量は少ないことが分かった。
10µmの大きさで集合しており,石英の共生はなかった。一部には,カリ長石が共存するものも見られた。点在するひすい輝石の化学組成は曹長石、カリ長石のみと接触する部分では端成分に近いが,緑泥石、パンペリー石、普通輝石などと接触する縁辺部はCa, Fe, Mgに富む組成である。
Ca, Fe, Mgに富む組成をしたひすい輝石とカリ長石の組み合わせからなっていた。縁辺部のひすい輝石の組成はひすい輝石とオンファス輝石との間にある不混和領域の値を示しており,非常に小さなスケールで離溶組織をなしている可能性がある。また,どの産状のひすい輝石にも,組成の不均一が見られる粒子が一部あった。
以上の結果から,ひすい輝石と石英の接触共存がなく,石英が拡散する過程を残した組織が見られないこと,また,ひすい輝石粒子の中には,組成累帯構造を持つものがあることから,ひすい輝石が熱水流体から晶出し,その後,同時に晶出した石英は,ひすい輝石と曹長石の組み合わせが安定な温度条件下でひすい輝石と反応して消費されたのではないかと思われる。