JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC54] [JJ] 地球化学の最前線

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 101 (国際会議場 1F)

コンビーナ:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、橘 省吾(北海道大学大学院理学研究院自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)、座長:鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)、座長:横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)

14:45 〜 15:00

[SGC54-05] 磁場勾配による並進運動を用いた全固体粒子の分離と非破壊同定

*久好 圭治1,2植田 千秋1寺田 健太郎1 (1.大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻、2.大阪府立大手前高等学校)

キーワード:磁気分離、非破壊同定、微小重力、磁気並進運動、反磁性物質、常磁性物質

一般に、微小重力空間に開放された固体粒子は,磁気的ポテンシャルによる並進運動を引き起こすが.その速度は粒子の質量に依存せず、物質固有の磁化率のみに依存する。このため得られた磁化率を文献値と対応することで、単一粒子で物質同定ができる[1][2].これまでに私たちはmm ~ sub-mmサイズの反磁性鉱物について,上記の同定が可能であることを確認した.さらに揮発性固体である氷(H2O) とドライアイス(CO2)でも並進運動を観測した.今回,同じ原理により,磁化率の異なる複数の粒子の集団に関して,その分離,回収および同定を実現した[3].
実験に必要な微小重力は,小型の落下ボックス(30×30×20cm)内に発生させた.落下距離は1.8mで,有効な微小重力継続時間は約0.5秒である.上記mpボックス内に小型の磁気回路(B <0.8T),真空チャンバー(<100Pa),照明器具およびハイスピードカメラを配置した.反磁性鉱物3種と常磁性鉱物2種からなる粒子の集団を,磁場勾配力が最大になる位置にセットし、微小重力空間に解放した.反磁性鉱物は磁場の外へ並進し,常磁性鉱物は磁石中心方向に並進した.これらの粒子は,それぞれの方向にセットした 2枚の回収板の上に,物質ごとに異なる粒子群として回収された(YouTube: Magnetic separation of general solid particles realised by a permanent magnet). また並進速度から,各試料の磁化率が求められ,それぞれ文献値と一致した.これにより分離が,仮定した原理に従って進行したことが確認された[3].
これまで磁場による粒子の分離・抽出は,自発磁化を有する一部の物質に限られていたが,今回の実験によって,固体全体にこれが拡張できる展望が得られた.有機化学や生化学の分野では,精密分析に先立って有機分子の混合物を分子量ごとに分離する方法が,クロマトグラフィ技術として確立している.無機物質においてもこれと同様の技術が望まれるが,今回の磁気運動を取り入れることで,原理的には全ての固体物質でそれが実現する。地球化学では、異種粒子の混合試料を扱う場合が多いが、その分析の前処理過程として,今回の分離技術が利用できる。さらに無人探査機搭載のためのダスト分析装置にも応用可能である.このような装置は、小型で、しかも測定原理が単純であることが求められるが,磁気分離の原理はそれらの条件を満たしている.

References
[1] K. Hisayoshi, S. Kanou and C. Uyeda : Phys.:Conf. Ser., 156 (2009) 012021.
[2] C. Uyeda, K. Hisayoshi, and S. Kanou : Jpn. Phys. Soc. Jpn. 79 (2010) 064709.
[3] K. Hisayoshi, C. Uyeda and K. Terada : Scientific Reports,(Nature Pub) 6 (2016) 38431