JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] [EJ] 地震波伝播:理論と応用

2017年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:西田 究(東京大学地震研究所)、中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、白石 和也(海洋研究開発機構)、松島 潤(東京大学大学院)、座長:江本 賢太郎(東北大学大学院理学研究科)、座長:武村 俊介(防災科研)

09:25 〜 09:40

[SSS11-02] 関東地域で観測されたスラブ内地震に見られる顕著な高周波地震波異常

*金谷 希美1前田 拓人1小原 一成1竹尾 明子1 (1.Earthquake Research Institute, The University of Tokyo)

キーワード:地震波伝播、散乱、地震波エンベロープ、沈み込み帯、数値シミュレーション

関東・東海地域は太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込む複雑な沈み込み帯の上に位置しており、複雑な高周波地震波形が観測される地域である。本研究では、本地域で太平洋スラブ内地震のP・S波間の高周波地震波エンベロープを詳しく調べ、この地域の不均質構造に関係していると考えられる特徴的な地震波エンベロープ異常を明らかにした。

解析に使用した地震は、2004年10月から2016年4月に太平洋プレート内で発生した深さ227−453 km、M4.4−6.9の20のスラブ内地震であり、関東・東海地域に防災科学技術研究所により設置されている高感度地震観測網Hi-netの258観測点で記録された速度波形データを使用した。周波数帯1−16 Hzにおける観測波形に対しオクターブ幅の帯域通過フィルタをかけ、その2乗平均平方根 (RMS) エンベロープに見られる特徴的な波群とその周波数依存性について調べた。その結果、複数の深発地震に対して関東地域で観測される8−16 Hz上下動成分のRMSエンベロープは、理論S波到達時刻の10−20秒程度前にPコーダ波の振幅から顕著に振幅が増加し、10秒程度継続する波群を形成していることがわかった。一方で、低周波数帯1−2 HzのRMSエンベロープにおいて同様の波群は観測されなかった。また、深さ200 km以浅のスラブ内地震では、このような波群は確認されなかった。高周波数RMSエンベロープにおけるこの波群の振幅は水平動成分に比べ上下動成分に卓越して現れており、水平動成分の振動極性はほぼ等方的であった。

高周波数帯に卓越し10秒程度継続する複雑な波群は、反射波のようなインパルス的な波形ではないことから、地下構造の小規模な統計的速度ゆらぎによるランダム不均質により生成された散乱波であると考えられる。それに加え、この波群の到達は直逹S波の到達時刻に先行するため、単純なS-S散乱では説明がつかない。これらの波群を系統的に検出した結果、S波と同程度の見かけ速度で震央から離れる方向に伝播していることが示された。S波よりも早く到達することを考えると、これらの波群は伝播過程でP-SまたはS-Pのようなモード変換を伴った散乱を起こしていると考えられる。

対象地域において、予備的な地震波伝播数値シミュレーションを行った。一般的な速度モデルを使用し、小規模な統計的速度ゆらぎを弾性媒質に重ね合わせて地震波動を再現したが、実際の観測波形に見られた高周波の波群を説明することはできなかった。複雑な観測波形を説明するためには、本シミュレーションにおいて使用した速度モデルに対し、特にランダム不均質について改良を加えていく必要があると考えられる。今後このようなより詳細なモデリングを含めたシミュレーションを通じ、本対象地域のような沈み込み帯に置ける地震波伝播現象について理解が進むことが期待される。