[SSS12-P16] 讃岐山脈北縁周辺の活断層とそのテクトニックな意義
キーワード:讃岐山脈、長尾断層、中央構造線、活断層
讃岐山脈は四国地方北東部に位置する山地で、東西約95 km、南北約15 kmの細長い形態を示しほぼ東西走向に延びる。標高は最大1000 m程度であるが、狭長であることから比較的急峻な地形を示す。讃岐山脈の南縁は活断層である中央構造線断層帯(MTL)に限られ、非常に直線的な形態を有している。山地の地質は主として白亜紀の領家帯花崗岩類・和泉層群からなり、山地西半部では鮮新世末~更新世中期の三豊層群に覆われる(牧本ほか,1995;松浦ほか,2002)。
讃岐山脈の北縁付近には、活断層である長尾断層が発達しているが、その分布は讃岐山脈北縁の中央部のみに限られており、その周辺には顕著な活断層の存在は認められていなかった。今回、空中写真および国土地理院5-10mDEM立体視画像の詳細な判読の結果、既報の活断層の周辺に活断層の疑いのある変動地形が多数見いだされた。本発表ではこれらの変動地形の分布と特徴について報告し、そのテクトニックな意義について若干の考察を行う。
既報で報告されている活断層(長尾断層)は、さぬき市大川町冨田中付近~高松市香南町由佐付近に分布する。段丘面の撓曲変位などから、南上がりの確実な活断層とされており(寒川,1973;Sangawa,1978;熊木ほか,1986など)、中田ほか(1999)や中田・今泉編(2002)でその詳細な位置が示されている。変位速度は上下約0.05-0.1 m/千年(活断層研究会編1991、香川県1997)であるが、一部で河谷の右屈曲が認められることから、若干の右横ずれ変位を伴うとされている。
長尾断層の東方延長部においては、さぬき市津田付近に河谷の屈曲地形を根拠として北西-南東走向の左横ずれ、東北東-西南西走向の右横ずれ断層が新たに記載された。一部の断層では、丘陵背面の高度差や風隙地形の発達などから北上がり変位も推定された。
長尾断層の西方延長部の綾川町滝宮付近では、南上がりの段丘面の変形(撓曲)がほぼ東西走向、数kmにわたって認められた。さらにその北側の綾川町陶付近では、北上がりの低断層崖が認められた。さらに西方の丸亀市岡田付近では段丘面を北上がりに変位させる明瞭な活断層が認められる。この断層は既報でも上法軍寺断層として知られていた(Sangawa, 1978)が、今回の調査により、低断層崖の分布が東方へ数km延長された。
土器川よりも西方の讃岐山脈北縁地域では、三豊市立石付近・竹成付近、まんのう町江畑・炭所付近、観音寺市五郷付近・大坪付近で、北東-南西走向および北西-南東方向の横ずれ断層群が新たに認定された。これらの断層のずれはいずれも河谷の屈曲から推定され、北東-南西走向の断層では右横ずれ、北西-南東走向の断層では左横ずれである。いずれも断層長は短く(ほとんどが数km程度)、断続的に讃岐山脈北縁付近の丘陵地内に分布する。また、同地域には数条の南上がりの段丘面の撓曲崖が認められるが、いずれも数km以下で、分布は更に断片的である。
讃岐山脈北縁周辺の活断層群は、長尾断層を除いて連続性が悪く分布が断続的・断片的であり、変位の向き、変位様式が一定ではない。MTLは30-40°程度の北傾斜(伊藤ほか,1996)、長尾断層は30-40°南傾斜(香川県,1997)と考えられており、両者が近接(17-18 km程度)していることから、地震発生層深部では収斂している可能性がある。長尾断層の変位速度は南上がり約0.05-0.1 m/千年(香川県,1997)、MTLの変位速度の上下成分は北上がり約1 m/千年(森野ほか,2001;中西ほか,2002)とされており、前者が後者の1/10程度である。以上のことを考慮すると、讃岐山脈北縁周辺の断層群はMTLの副断層的な性質を持つ可能性が考えられる。
長尾断層は東西走向の逆断層で南北方向の圧縮応力場に対応した構造となっているが、長尾断層の東方・西方延長部の活断層群では横ずれ変位が卓越し東西走向の軸を持つ圧縮応力場に対応した構造となっており、近接してほぼ直交する応力場が想定されることになる。また、横ずれ成分を主体とするMTLに平行な走向を持つ副断層(長尾断層)がMTLと直交する南北圧縮の構造であることも直観的には理解し難い。この原因は明確ではないが、一つの可能性として、MTLの右斜めずれ変位が南北成分と東西成分に局所的に分配されていることが考えられる。類似した構造(MTLに平行な走向を持つ南北圧縮応力場に対応した逆断層)は和泉山脈北縁の内畑断層、高縄半島の滝本断層でも認められ、讃岐山脈のみに特異な構造ではない。ただし、これらの南北圧縮構造はいずれも活動度が小さく、更新世中期以降の活動が活発ではないことから、最近の活動はMTLに集中しつつある可能性が考えられる。
讃岐山脈の北縁付近には、活断層である長尾断層が発達しているが、その分布は讃岐山脈北縁の中央部のみに限られており、その周辺には顕著な活断層の存在は認められていなかった。今回、空中写真および国土地理院5-10mDEM立体視画像の詳細な判読の結果、既報の活断層の周辺に活断層の疑いのある変動地形が多数見いだされた。本発表ではこれらの変動地形の分布と特徴について報告し、そのテクトニックな意義について若干の考察を行う。
既報で報告されている活断層(長尾断層)は、さぬき市大川町冨田中付近~高松市香南町由佐付近に分布する。段丘面の撓曲変位などから、南上がりの確実な活断層とされており(寒川,1973;Sangawa,1978;熊木ほか,1986など)、中田ほか(1999)や中田・今泉編(2002)でその詳細な位置が示されている。変位速度は上下約0.05-0.1 m/千年(活断層研究会編1991、香川県1997)であるが、一部で河谷の右屈曲が認められることから、若干の右横ずれ変位を伴うとされている。
長尾断層の東方延長部においては、さぬき市津田付近に河谷の屈曲地形を根拠として北西-南東走向の左横ずれ、東北東-西南西走向の右横ずれ断層が新たに記載された。一部の断層では、丘陵背面の高度差や風隙地形の発達などから北上がり変位も推定された。
長尾断層の西方延長部の綾川町滝宮付近では、南上がりの段丘面の変形(撓曲)がほぼ東西走向、数kmにわたって認められた。さらにその北側の綾川町陶付近では、北上がりの低断層崖が認められた。さらに西方の丸亀市岡田付近では段丘面を北上がりに変位させる明瞭な活断層が認められる。この断層は既報でも上法軍寺断層として知られていた(Sangawa, 1978)が、今回の調査により、低断層崖の分布が東方へ数km延長された。
土器川よりも西方の讃岐山脈北縁地域では、三豊市立石付近・竹成付近、まんのう町江畑・炭所付近、観音寺市五郷付近・大坪付近で、北東-南西走向および北西-南東方向の横ずれ断層群が新たに認定された。これらの断層のずれはいずれも河谷の屈曲から推定され、北東-南西走向の断層では右横ずれ、北西-南東走向の断層では左横ずれである。いずれも断層長は短く(ほとんどが数km程度)、断続的に讃岐山脈北縁付近の丘陵地内に分布する。また、同地域には数条の南上がりの段丘面の撓曲崖が認められるが、いずれも数km以下で、分布は更に断片的である。
讃岐山脈北縁周辺の活断層群は、長尾断層を除いて連続性が悪く分布が断続的・断片的であり、変位の向き、変位様式が一定ではない。MTLは30-40°程度の北傾斜(伊藤ほか,1996)、長尾断層は30-40°南傾斜(香川県,1997)と考えられており、両者が近接(17-18 km程度)していることから、地震発生層深部では収斂している可能性がある。長尾断層の変位速度は南上がり約0.05-0.1 m/千年(香川県,1997)、MTLの変位速度の上下成分は北上がり約1 m/千年(森野ほか,2001;中西ほか,2002)とされており、前者が後者の1/10程度である。以上のことを考慮すると、讃岐山脈北縁周辺の断層群はMTLの副断層的な性質を持つ可能性が考えられる。
長尾断層は東西走向の逆断層で南北方向の圧縮応力場に対応した構造となっているが、長尾断層の東方・西方延長部の活断層群では横ずれ変位が卓越し東西走向の軸を持つ圧縮応力場に対応した構造となっており、近接してほぼ直交する応力場が想定されることになる。また、横ずれ成分を主体とするMTLに平行な走向を持つ副断層(長尾断層)がMTLと直交する南北圧縮の構造であることも直観的には理解し難い。この原因は明確ではないが、一つの可能性として、MTLの右斜めずれ変位が南北成分と東西成分に局所的に分配されていることが考えられる。類似した構造(MTLに平行な走向を持つ南北圧縮応力場に対応した逆断層)は和泉山脈北縁の内畑断層、高縄半島の滝本断層でも認められ、讃岐山脈のみに特異な構造ではない。ただし、これらの南北圧縮構造はいずれも活動度が小さく、更新世中期以降の活動が活発ではないことから、最近の活動はMTLに集中しつつある可能性が考えられる。