10:45 〜 11:00
[STT61-01] 大規模計算を震源の理解につなげるために
★招待講演
キーワード:震源過程、理論波形、沈み込み帯
大地震が発生すると波形データを用いたインバージョン解析が行われ、震源における破壊すべりの時空間発展が推定される。この情報は震源における物理プロセスの理解に役立ち、また将来の地震をイメージする上でも重要なものであるが、解析条件によって結果にかなりのばらつきがあるのも事実である。このばらつきの原因は、たいてい観測データ自体が持つ誤差より、特に複雑な地下構造を正確にとりいれられないモデル誤差による。問題は構造に関する知識不足と、複雑な構造による波動計算の困難に分けられるが、特に後者に関しては最先端の大規模計算が役に立つかもしれない。
現在広く行われているインバージョン解析では、なるべくモデル誤差を小さくするために使えるデータが限られている。代表的なものは震源近傍の一次元速度構造で近似できる(と勝手に思っている)強震動や、PREMなどの一次元構造で計算される震源角距離30度から100度の遠地地震波形である。角距離数度から、30度までのデータは全く利用されていない。この距離範囲のデータは膨大であり、S/N比もかなり良い。但し波が複雑な経路をとるために、ある程度正確な地殻構造が必要で、またそれを用いた波動計算も簡単ではない。
正確な地殻構造と大規模計算機を用いた地震波形計算がこれらの問題を解決するかもしれない。複雑な速度構造を用いて大規模計算するための環境も整いつつある。Tsuboi et al. (2016)は1.2秒までの全地球三次元不均質構造について波形計算を行っているし、Ichimura et al. (2016)では日本周辺約3000kmスケールでの有限要素法により地殻変動場を計算しており、同様に波形計算も可能である。現実的三次元構造での理論波形計算は、利用可能なところまで近づいてきている。
これらの計算は原理的に可能だが、実際に行うには様々な煩雑さがある。例えば地理的座標と数値計算プログラム内部の座標表現のような単純な問題でさえ、実際に取り組む研究者をひるませる。特殊な条件の計算をひとつしただけでは将来展望が開きにくく、やる気のでるテーマが必要である。そこで具体的なターゲットとして興味深い例をいくつか考えてみよう。
全地球三次元不均質構造の波形計算はコストがかかりすぎるが、海溝近傍の地形や沈み込むスラブを取り入れるだけで中間~遠地地震波形の精度はかなり向上する。日本のような密な観測網の下では震源情報だけから、沈み込むスラブの形は明らかであるが、世界の多くの沈み込み帯では詳細な速度構造がわからず、中間距離での地震データを十分活用できていないために、震源位置でさえ誤差が大きい。世界の沈み込み帯を数百km程度の小領域にわけ、各領域について海底地形とスラブを取り入れた地震波形のデータベースが作成できれば、世界各地での地震防災に貢献するとともに、比較沈み込み帯学研究にブレークスルーをもたらす。
一方で日本のような膨大な観測が行われている場所では、より高度なモデリングを目指す価値がある。トモグラフィー、レシーバー関数などの構造情報を取り入れることで、日本全域で日常的に発生する地震の波形をどこまで説明できるのか、実はほとんど知られていない。現実の地震波形と比較し、さらにチューニングしていくことで、近い将来、ある程度低周波であれば、日本周辺の地震の全波動場をすべて説明できるようになるかもしれない。そうすれば巨大地震の破壊すべりモデルの不確定さを大きく減らすことができる。
近年たくさん設置されている海底ケーブル地震計のデータは沈み込み帯の地震の理解に決定的な情報を与えるが、その解析はかなり難易度が高い。海底地形と海水の効果はもちろん、厚い堆積層の影響を適切に見積もることが必要となる。2016年4月1日に熊野灘で起きた地震は、これらの効果を適切に見積もることができなかったために、発生直後それがプレート境界の地震かどうかがわからなかった。幸いDONET1の近辺では日常的な地震に加えて、様々な帯域でスロー地震が発生しており、適切なモデル化と波形インバージョンで正確な理論計算が可能になる。この理論計算波形は防災上の意義はもちろんスロー地震の理解にも役立つ。
現在広く行われているインバージョン解析では、なるべくモデル誤差を小さくするために使えるデータが限られている。代表的なものは震源近傍の一次元速度構造で近似できる(と勝手に思っている)強震動や、PREMなどの一次元構造で計算される震源角距離30度から100度の遠地地震波形である。角距離数度から、30度までのデータは全く利用されていない。この距離範囲のデータは膨大であり、S/N比もかなり良い。但し波が複雑な経路をとるために、ある程度正確な地殻構造が必要で、またそれを用いた波動計算も簡単ではない。
正確な地殻構造と大規模計算機を用いた地震波形計算がこれらの問題を解決するかもしれない。複雑な速度構造を用いて大規模計算するための環境も整いつつある。Tsuboi et al. (2016)は1.2秒までの全地球三次元不均質構造について波形計算を行っているし、Ichimura et al. (2016)では日本周辺約3000kmスケールでの有限要素法により地殻変動場を計算しており、同様に波形計算も可能である。現実的三次元構造での理論波形計算は、利用可能なところまで近づいてきている。
これらの計算は原理的に可能だが、実際に行うには様々な煩雑さがある。例えば地理的座標と数値計算プログラム内部の座標表現のような単純な問題でさえ、実際に取り組む研究者をひるませる。特殊な条件の計算をひとつしただけでは将来展望が開きにくく、やる気のでるテーマが必要である。そこで具体的なターゲットとして興味深い例をいくつか考えてみよう。
全地球三次元不均質構造の波形計算はコストがかかりすぎるが、海溝近傍の地形や沈み込むスラブを取り入れるだけで中間~遠地地震波形の精度はかなり向上する。日本のような密な観測網の下では震源情報だけから、沈み込むスラブの形は明らかであるが、世界の多くの沈み込み帯では詳細な速度構造がわからず、中間距離での地震データを十分活用できていないために、震源位置でさえ誤差が大きい。世界の沈み込み帯を数百km程度の小領域にわけ、各領域について海底地形とスラブを取り入れた地震波形のデータベースが作成できれば、世界各地での地震防災に貢献するとともに、比較沈み込み帯学研究にブレークスルーをもたらす。
一方で日本のような膨大な観測が行われている場所では、より高度なモデリングを目指す価値がある。トモグラフィー、レシーバー関数などの構造情報を取り入れることで、日本全域で日常的に発生する地震の波形をどこまで説明できるのか、実はほとんど知られていない。現実の地震波形と比較し、さらにチューニングしていくことで、近い将来、ある程度低周波であれば、日本周辺の地震の全波動場をすべて説明できるようになるかもしれない。そうすれば巨大地震の破壊すべりモデルの不確定さを大きく減らすことができる。
近年たくさん設置されている海底ケーブル地震計のデータは沈み込み帯の地震の理解に決定的な情報を与えるが、その解析はかなり難易度が高い。海底地形と海水の効果はもちろん、厚い堆積層の影響を適切に見積もることが必要となる。2016年4月1日に熊野灘で起きた地震は、これらの効果を適切に見積もることができなかったために、発生直後それがプレート境界の地震かどうかがわからなかった。幸いDONET1の近辺では日常的な地震に加えて、様々な帯域でスロー地震が発生しており、適切なモデル化と波形インバージョンで正確な理論計算が可能になる。この理論計算波形は防災上の意義はもちろんスロー地震の理解にも役立つ。