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[SVC47-27] JERS-1、ALOS及びALOS-2の干渉SARによってとらえられた屈斜路カルデラ内アトサヌプリ火山群の火山性地殻変動(1993-2016)
キーワード:屈斜路カルデラ、アトサヌプリ、火山性地殻変動、干渉SAR、JERS-1、ALOS、ALOS-2
1.はじめに
北海道東部の屈斜路カルデラ内には、アトサヌプリ火山群と呼ばれる1.5万年前以降に形成された溶岩ドーム群が存在し、アトサヌプリ(溶岩ドーム:別名 硫黄山)周辺では活発な噴気活動が続いている。
筆者らは、1994年に発生したアトサヌプリ直下の群発地震(最大M=3.2)と同期するように同地域において直径十数kmほどの範囲が最大約25cm隆起し、その後徐々に元に戻る現象が人工衛星(JERS-1)を利用した干渉合成開口レーダー(干渉SAR)によって見いだされたことを報告している。本報告では、その後JAXAによって打ち上げられたALOS及びALOS-2のデータを新たに解析するとともに、当初のJERS-1の解析データも含めて総合的に見直し、1993年から2016年に至る屈斜路カルデラ内アトサヌプリ火山群の火山性地殻変動の推移を明らかにする。
2.データと解析手法
下記の3種類のLバンドSARペアを用いてSAR干渉処理を行った。
(1)1993年5月~1998年7月に取得されたJERS-1(ふよう1号:NASDA[現JAXA]打ち上げ)14組
(2)2007年9月~2010年11月に取得されたALOS(だいち)2組
(3)2014年8月~2016年8月に取得されたALOS-2(だいち2号)3組
これらの3種類の相互間では原理的に干渉せず、それぞれの期間内の相対的変動しか得られないため、継続的な総変位量は求めることはできない。
得られたSAR干渉画像からは、以前の報告にある直径十数kmほどの範囲が隆起したものが徐々に収縮していくもののほかに、小スケール(~1km)かつ小変位量(~1㎝/年)ながらも一定スピードで継続的な変位も見つかった。ここで、小スケール・小変位量の継続的な変位を定量化するため、ハイパスフィルターをかけた上で、それらの平均を作成した。また、上記3種類のSAR観測は観測方向や入射角が異なるものの、SAR干渉画像上の空間変位のパターンが似通っているために、水平変位量が十分に小さいと仮定し、鉛直方向の変位量の変化を求め、さらに上記の小スケール・小変位量の変位の平均値を差し引いて全体の膨張‐収縮の時間変化を求めた(Fig. 1:上図)。
3.膨張と引き続く収縮
これまでの報告では、屈斜路湖東岸でアトサヌプリの西南西3km付近を中心とする同心円状の地域で1993年8月から1995年4月の間に最大25cm程度の隆起があり、その後沈降に転じ、1998年までに最大隆起量の半分ほどが元に戻っている。モデルシミュレーションでは、地下にシルを仮定した場合、最大隆起時に、深さ6kmで大きさ8km×2km、シルの開口1.4mが求められており、引き続く収縮も同じシルの収縮で説明できる。
興味深いのは、10年後の(2)のALOSにおいてもこの収縮が捉えられたことである。(1)の時期からの変位量がわからないので推定に過ぎないが、(2)での収縮のスピードが(1)に引き続く収縮過程の延長とするよりは大きい。さらにその後の(3)では期間が短いものの明瞭な収縮は捉えられていない。これらのことから、(1)の後に一定の時定数で自然に収縮が緩和していったとは考えにくく、再度膨張があったか、もしくは収縮のスピードが波を打つような過程をもつ可能性が考えられる。実際、(1)の収縮期間の最後に小さな膨張が捉えられており、膨張‐収縮が複数回あったことを示唆するものである。
4.継続的な小スケールの変位
今回の新たな解析で求めた、小スケール・小変位量の変位の平均値を(1)、(2)及び(3)のそれぞれについてFig.2(下図)に示す。全体で20年もの期間があるが、小スケール・小変位量の変位について、(1)、(2)、(3)のいずれにおいてもほぼ同じ形状・変位スピードのものが存在する。特にアトサヌプリの南西側のリシリ(溶岩ドーム)の収縮とその北側の谷での膨張は極めて一定量で継続していることがわかり、それぞれ地下に力源があるとすると1kmより浅いと推定される。
リシリは5,500年程前に形成されたとされているが、形成以降の活動は明確ではなく、現時点では噴気などの活動は認められていない。今回の解析により、収縮とはいえ、ごく浅いところに力源をもつと考えられる活動が継続していることが判明したことより、今後の活動を予測するためにも、アトサヌプリ火山群での継続した監視が必要である。
北海道東部の屈斜路カルデラ内には、アトサヌプリ火山群と呼ばれる1.5万年前以降に形成された溶岩ドーム群が存在し、アトサヌプリ(溶岩ドーム:別名 硫黄山)周辺では活発な噴気活動が続いている。
筆者らは、1994年に発生したアトサヌプリ直下の群発地震(最大M=3.2)と同期するように同地域において直径十数kmほどの範囲が最大約25cm隆起し、その後徐々に元に戻る現象が人工衛星(JERS-1)を利用した干渉合成開口レーダー(干渉SAR)によって見いだされたことを報告している。本報告では、その後JAXAによって打ち上げられたALOS及びALOS-2のデータを新たに解析するとともに、当初のJERS-1の解析データも含めて総合的に見直し、1993年から2016年に至る屈斜路カルデラ内アトサヌプリ火山群の火山性地殻変動の推移を明らかにする。
2.データと解析手法
下記の3種類のLバンドSARペアを用いてSAR干渉処理を行った。
(1)1993年5月~1998年7月に取得されたJERS-1(ふよう1号:NASDA[現JAXA]打ち上げ)14組
(2)2007年9月~2010年11月に取得されたALOS(だいち)2組
(3)2014年8月~2016年8月に取得されたALOS-2(だいち2号)3組
これらの3種類の相互間では原理的に干渉せず、それぞれの期間内の相対的変動しか得られないため、継続的な総変位量は求めることはできない。
得られたSAR干渉画像からは、以前の報告にある直径十数kmほどの範囲が隆起したものが徐々に収縮していくもののほかに、小スケール(~1km)かつ小変位量(~1㎝/年)ながらも一定スピードで継続的な変位も見つかった。ここで、小スケール・小変位量の継続的な変位を定量化するため、ハイパスフィルターをかけた上で、それらの平均を作成した。また、上記3種類のSAR観測は観測方向や入射角が異なるものの、SAR干渉画像上の空間変位のパターンが似通っているために、水平変位量が十分に小さいと仮定し、鉛直方向の変位量の変化を求め、さらに上記の小スケール・小変位量の変位の平均値を差し引いて全体の膨張‐収縮の時間変化を求めた(Fig. 1:上図)。
3.膨張と引き続く収縮
これまでの報告では、屈斜路湖東岸でアトサヌプリの西南西3km付近を中心とする同心円状の地域で1993年8月から1995年4月の間に最大25cm程度の隆起があり、その後沈降に転じ、1998年までに最大隆起量の半分ほどが元に戻っている。モデルシミュレーションでは、地下にシルを仮定した場合、最大隆起時に、深さ6kmで大きさ8km×2km、シルの開口1.4mが求められており、引き続く収縮も同じシルの収縮で説明できる。
興味深いのは、10年後の(2)のALOSにおいてもこの収縮が捉えられたことである。(1)の時期からの変位量がわからないので推定に過ぎないが、(2)での収縮のスピードが(1)に引き続く収縮過程の延長とするよりは大きい。さらにその後の(3)では期間が短いものの明瞭な収縮は捉えられていない。これらのことから、(1)の後に一定の時定数で自然に収縮が緩和していったとは考えにくく、再度膨張があったか、もしくは収縮のスピードが波を打つような過程をもつ可能性が考えられる。実際、(1)の収縮期間の最後に小さな膨張が捉えられており、膨張‐収縮が複数回あったことを示唆するものである。
4.継続的な小スケールの変位
今回の新たな解析で求めた、小スケール・小変位量の変位の平均値を(1)、(2)及び(3)のそれぞれについてFig.2(下図)に示す。全体で20年もの期間があるが、小スケール・小変位量の変位について、(1)、(2)、(3)のいずれにおいてもほぼ同じ形状・変位スピードのものが存在する。特にアトサヌプリの南西側のリシリ(溶岩ドーム)の収縮とその北側の谷での膨張は極めて一定量で継続していることがわかり、それぞれ地下に力源があるとすると1kmより浅いと推定される。
リシリは5,500年程前に形成されたとされているが、形成以降の活動は明確ではなく、現時点では噴気などの活動は認められていない。今回の解析により、収縮とはいえ、ごく浅いところに力源をもつと考えられる活動が継続していることが判明したことより、今後の活動を予測するためにも、アトサヌプリ火山群での継続した監視が必要である。