JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] [JJ] 活動的火山

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、青木 陽介(東京大学地震研究所)

[SVC47-P34] 干渉SAR解析によって検出される水蒸気噴火発生場の局所的地殻変動

*小林 知勝1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:水蒸気噴火、InSAR、局所的地殻変動

水蒸気噴火はマグマからの加熱に伴う浅部熱水系の過渡的な圧力増加が関連すると考えられる.このことは,地殻変動が地下の圧力増加に伴い進行し,噴火の前兆シグナルとなり得ることを意味する.このとき観測において最も困難な点の1つは,噴火規模が小さくなるにつれ,その前兆シグナルも局所的になり得るということであり,標準的な地上観測から空間スケールの小さな異常を検出することは非常に難しくなる.それゆえ,水蒸気噴火に対する効果的な観測方法が望まれるが,その短所を克服するツールの1つがSARによる観測である.本発表では,最近もしくは歴史的に水蒸気噴火を起こしたことのある火山の地熱地帯で検出された局所的な膨張性地殻変動のSAR観測結果を振り返り,その特徴をまとめ議論する.

箱根山・大涌谷:2015年4月下旬頃からの火山活動の活発化に伴い,SAR干渉解析により大涌谷内の直径200m程度の狭い範囲で膨張性の変動が捉えられた.ほぼ同心円状の分布を示していた地殻変動は,6月末の小規模噴火まで変動域の空間サイズに大きな変化はなかったが,その変位のピークは初期の変動域の南西側に移り,噴火はそのピーク周辺で発生した.このイベントで重要な点は,噴火に前駆して進行する局所的な地殻変動を検出できたこと,そしてまさにその場所で噴火が開始したことである.箱根山では,過去にも火山活動の活発化が見られてきたが,そのときの大涌谷の地殻変動を知ることは,噴火と地殻変動の関連を考察する上でも重要である.過去の活動のうち,2008年後半の活動はALOS(LバンドSAR)による干渉SAR解析が可能である.干渉SAR時系列解析を適用した結果,この時の活動期間中,有意な地殻変動は検出されなかった.大涌谷では2001年,2015年に噴気活動に異常が見られたが,それ以外では特段認められていない.2008年の活動では,地下深部からの熱供給に伴う浅部の圧力増加が進行しなかったことを示唆していると思われる.発表では,海外のSAR衛星(Cバンド)を用いて,他の過去の活動における地殻変動解析の結果についても報告する予定である.

立山・弥陀ヶ原(地獄谷):地獄谷は噴気活動が定常的に活発な場所であるが,2010年に鍛冶屋地獄の硫黄が燃焼・流出し,以降,地表での熱・噴気活動が活発化している.2007年から2010年までのALOSデータを用いた干渉SAR時系列解析の結果,地熱活動の活発な地獄谷の領域で,有意な膨張性地殻変動が検出された.地殻変動は,現在活発な噴気・熱水活動が地表で見られる領域とほぼ一致しており,その値は最大約4cm/yr に達していた.大きな変動が見られる場所は,地表での噴気活動が最も活発な領域(鍛冶屋地獄より東側)に認められ,地表現象と地殻変動の空間的一致が大変良い.これに加えて,ALOS-2による干渉SARを実施したところ,2014年から2016年に至っては,ノイズレベルを超える有意な変動は観測されなかった.現在も地表での熱・噴気活動は活発化した状態のままであるが,加速度的な変化は特段認められておらず,地下浅部の圧力等に大きな変化がなかったことが地殻変動の観測結果に現れているかもしれない.

地表で観測される噴気や熱活動の異常は,地下浅部の熱水系システムの状態変化を直接的に反映していると考えられる.これらの活動変化とSARによる局所的な地殻変動の時空間的な関係は良く対応しているように見える.こうした変動データは,地下の圧力状態等を把握する重要な指標となり,水蒸気噴火に関与する物理パラメータを抽出できることが期待される.発表では,上記以外の火山(霧島山(えびの高原 硫黄山)等)の解析事例も紹介し比較検討を試みる.

謝辞:これらのデータは,だいち2号に関する国土地理院とJAXAの間の協定及び火山噴火予知連絡会衛星解析グループ(火山WG)を通じて,(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供を受けました.ここで使用しただいち2号の原初データの所有権は,JAXAにあります.本研究はJSPS科研費 JP16K17797 and JP25350494の助成を受けたものです。