[SVC51-P05] 伊豆大島1986年噴火の安山岩質メルトを含む斑レイ岩ゼノリス
キーワード:伊豆大島、ゼノリス、斑レイ岩、マグマだまり、安山岩質マグマ、プレ噴火条件
伊豆大島1986年噴火は11月15日,三原山山頂火口(A火口)からの噴火から開始し,21日には三原山北西に割れ目火口(B,C火口)を開いてサブプリニ―式噴火を発生させた。A火口からは玄武岩質マグマが噴出されたのに対し,B・C火口から噴出されたのは主に安山岩質マグマであった。この安山岩質マグマのプレ噴火プロセスについては,未だ十分に理解されていない。ところで,B火口の噴出物にはごく稀に,ガラスを含む斑レイ岩ゼノリスが含まれることが報告されている(千葉ほか,1987)。このような斑レイ岩には,マグマだまりでのプロセスに関する情報が記録されている可能性がある。そこで本研究では, 1986年噴火でB火口より噴出したと考えられる含ガラス斑レイ岩ゼノリスについて微細組織観察・鉱物化学分析の結果について報告し,1986年噴火安山岩質マグマのプレ噴火プロセスについて考察する。
本研究では,B割れ目火口の北東約1㎞の地点で採取した,粒径3㎝程度の斑レイ岩ゼノリスを試料とした。この斑レイ岩は主に自形~半自形の斜長石・オリビンから構成されており,粒間に発泡したガラスを含む。ガラス中には少量の単斜輝石・磁鉄鉱も見られる。斜長石・オリビンとメルトの界面では,約10ミクロン以下の幅で,内部よりも低An値[=100Ca/(Ca+Na)],低Fo値[=100Mg/(Mg+Fe)]のオーバーグロースリムがそれぞれ確認できる。斜長石・オリビン中には,ガラス質のメルト包有物が見られる。
構成鉱物およびガラスの化学組成を,東京大学地震研究所のEPMAを用いて分析した。粒間メルトは均質であり,SiO2~56.6wt.%の安山岩質であった。このメルトの化学組成を,伊豆大島火山の噴出物の既報値と比較したところ,1986年噴火B火口マグマの化学組成範囲と一致した。粒間メルトと接する斜長石のオーバーグロースリムは狭い組成範囲を示し,An値~83であった。斜長石-メルト間のAn分配関係とリキダス関係から,このAn値の斜長石は,粒間メルトとリキダス温度で平衡共存できると考えられる。Putirka (2008)の斜長石リキダス温度計とオリビンリキダス温度計を連立して,粒間メルトが斜長石・オリビンと平衡共存できる温度・含水量条件を見積もったところ,1057℃,3.4wt.%H2Oの値を得た。このメルト含水量は,およそ圧力~118MPa(深さ~4.4㎞)の条件での飽和含水量に相当する.見積もられた温度は,B火口マグマの温度見積もり値(藤井,1988)と同等である。オリビン,斜長石中のメルト包有物も安山岩質(SiO2~55-56wt.%)であったが,粒間メルトと比べると,斜長石中のメルト包有物はMgOに富み,一方でオリビン中のメルト包有物はAl2O3・CaOに富み,FeOに乏しい傾向がみられた。このメルト包有物の化学組成のちがいは,ホスト鉱物-メルト間の元素再分配によると考えられる。
斑レイ岩を構成する斜長石・オリビン中に,粒間メルトとはやや化学組成の異なる安山岩質メルト包有物が見られたことは,この斑レイ岩が安山岩質メルトからのキュムレートであることを示唆する。その形成深度は~4.4㎞以深と見積もられ,このメルトがH2Oに飽和していた場合,地球物理学的に推定される浅部マグマだまりの深さ(Ida, 1995)とほぼ一致する。A火口から噴出した玄武岩質マグマについても,この深度での滞在が示唆されていることから(e.g., Hamada et al., 2011),1986年噴火の際に玄武岩質マグマだまりと安山岩質マグマだまりが深さ4.4㎞付近の至近距離に存在していたと考えられる。このため,玄武岩質マグマだまりへのマグマ供給による増圧の影響を受け,B火口噴火がトリガーされた可能性がある。斜長石・オリビンの薄いオーバーグロースリムは,噴火直前に粒間メルトの状態が変化したことを示唆する。今後,この状態変化について詳細を調べることで,B火口噴火を引き起こしたメカニズムを明らかにできるかもしれない。
本研究では,B割れ目火口の北東約1㎞の地点で採取した,粒径3㎝程度の斑レイ岩ゼノリスを試料とした。この斑レイ岩は主に自形~半自形の斜長石・オリビンから構成されており,粒間に発泡したガラスを含む。ガラス中には少量の単斜輝石・磁鉄鉱も見られる。斜長石・オリビンとメルトの界面では,約10ミクロン以下の幅で,内部よりも低An値[=100Ca/(Ca+Na)],低Fo値[=100Mg/(Mg+Fe)]のオーバーグロースリムがそれぞれ確認できる。斜長石・オリビン中には,ガラス質のメルト包有物が見られる。
構成鉱物およびガラスの化学組成を,東京大学地震研究所のEPMAを用いて分析した。粒間メルトは均質であり,SiO2~56.6wt.%の安山岩質であった。このメルトの化学組成を,伊豆大島火山の噴出物の既報値と比較したところ,1986年噴火B火口マグマの化学組成範囲と一致した。粒間メルトと接する斜長石のオーバーグロースリムは狭い組成範囲を示し,An値~83であった。斜長石-メルト間のAn分配関係とリキダス関係から,このAn値の斜長石は,粒間メルトとリキダス温度で平衡共存できると考えられる。Putirka (2008)の斜長石リキダス温度計とオリビンリキダス温度計を連立して,粒間メルトが斜長石・オリビンと平衡共存できる温度・含水量条件を見積もったところ,1057℃,3.4wt.%H2Oの値を得た。このメルト含水量は,およそ圧力~118MPa(深さ~4.4㎞)の条件での飽和含水量に相当する.見積もられた温度は,B火口マグマの温度見積もり値(藤井,1988)と同等である。オリビン,斜長石中のメルト包有物も安山岩質(SiO2~55-56wt.%)であったが,粒間メルトと比べると,斜長石中のメルト包有物はMgOに富み,一方でオリビン中のメルト包有物はAl2O3・CaOに富み,FeOに乏しい傾向がみられた。このメルト包有物の化学組成のちがいは,ホスト鉱物-メルト間の元素再分配によると考えられる。
斑レイ岩を構成する斜長石・オリビン中に,粒間メルトとはやや化学組成の異なる安山岩質メルト包有物が見られたことは,この斑レイ岩が安山岩質メルトからのキュムレートであることを示唆する。その形成深度は~4.4㎞以深と見積もられ,このメルトがH2Oに飽和していた場合,地球物理学的に推定される浅部マグマだまりの深さ(Ida, 1995)とほぼ一致する。A火口から噴出した玄武岩質マグマについても,この深度での滞在が示唆されていることから(e.g., Hamada et al., 2011),1986年噴火の際に玄武岩質マグマだまりと安山岩質マグマだまりが深さ4.4㎞付近の至近距離に存在していたと考えられる。このため,玄武岩質マグマだまりへのマグマ供給による増圧の影響を受け,B火口噴火がトリガーされた可能性がある。斜長石・オリビンの薄いオーバーグロースリムは,噴火直前に粒間メルトの状態が変化したことを示唆する。今後,この状態変化について詳細を調べることで,B火口噴火を引き起こしたメカニズムを明らかにできるかもしれない。