公益社団法人日本補綴歯科学会第133回学術大会 / The 14th Biennial Congress of the Asian Academy of Prosthodontics (AAP)

講演情報

ポスター発表

現地発表

症例

2024年7月7日(日) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際会議場 2F コンベンションホール B)

[P-147] 下顎顎欠損補綴症例においてCAD/CAMシステムを用いて機能回復を図った症例

*江戸野 大河1、大神 浩一郎1、前田 芙沙1、橋本 玲央名1、上田 貴之2 (1. 東京歯科大学 千葉歯科医療センター総合診療科、2. 東京歯科大学老年歯科補綴学講座)

[Abstract]
【緒言】
 小口症は放射線治療後や術後瘢痕により上下唇の癒着や口裂の縮小が生じ,食物摂取困難や言語障害,歯科治療,義歯の装着困難などの障害を招く.また,歯科治療が著しく困難なため未処置などが存在する場合,口腔内を清潔に保つのが難しい.とくに義歯装着者の場合は,食渣停滞などからデンチャープラークが付着しやすい.今回我々は,多部位の腫瘍切除と再建手術のため術後顎顔面部の瘢痕による小口症症例に対し,CAD/CAMシステムを利用して顎義歯を製作する機会を得たため,その概要を報告する.
【症例の概要・治療内容】
 82歳の女性.2017年に左側肩甲舌骨筋上頸部郭清術・左側頸部に術後放射線照射と化学療法,2021年に再発した左側頬粘膜扁平上皮癌に対して2回腫瘍切除術と皮膚移植術を行ったという.その後,瘢痕拘縮による開口困難と咀嚼困難を主訴として当科を受診した.過去の手術の瘢痕拘縮による開口障害と小口症および多数歯欠損による咀嚼障害と診断した.治療方針は,開口量から上下顎義歯の装着は困難と判断し,上顎には義歯は製作せず,下顎に対してのみ可能な限り小さな義歯を製作し咀嚼機能回復を図ることとした.口裂周囲長が145㎜のため,片側既製トレーを用いてアルジネート印象材で左右側を別々に概形印象した.研究用模型を用いて分割個人トレーを製作し,シリコーンゴム印象材を用いて精密印象採得を行った.ろう義歯試適後,スキャナー(TORIOS4, 3Shape社製)を用いてスキャニングし,デンタルCADソフト(Dental System,3Shape社製)を用いてコンピュータ上で顎義歯の最終設計を行った.このデータを元にCAMシステムを利用して熱可塑性樹脂(KZR-CAD デンチャーPC,YAMAKIN社製)のディスクから補綴装置の切削加工を行い,義歯を完成させた.なお,この発表に際して患者の同意を得た.
【経過ならびに考察】
 顎義歯装着後,OHIP-54は36点から6点,咀嚼能率は84mg/dLから119mg/dLに改善し,口腔関連QOLの向上と咀嚼機能および食形態の改善が認められた。装着1ヶ月の来院時,顎義歯に歯石や着色は認められなかった.これは,ポリカーボネート樹脂の特徴に加え,人工歯と義歯床を一体化させた設計で製作したことにより,従来の顎義歯と比べデンチャープラークが構造的にも付着しにくくなっていると考えられる.