公益社団法人日本補綴歯科学会第133回学術大会 / The 14th Biennial Congress of the Asian Academy of Prosthodontics (AAP)

講演情報

ポスター発表

現地発表

バイオロジー・バイオマテリアル

2024年7月7日(日) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際会議場 2F コンベンションホール B)

[P-89] 抜歯したラットの咀嚼筋におけるカテプシンBとBDNFの遺伝子発現の変化

*原 哲也1、加藤(市川) 知香1、角谷(桑原) 実穂1 (1. 岡山大学 学術研究院 医歯薬学域 咬合・有床義歯補綴学分野)

[Abstract]
【目的】
 抜歯に伴って咬合支持が欠如すると,認知機能が低下することは臨床研究や動物実験で数多く報告されている.その発症機序としては歯根膜などからの刺激の減少であると考察されているが,三叉神経から記憶に関係する海馬への直接的な神経伝達経路は明確にされていない.ランニングによって腓腹筋から分泌されるカテプシンBなどの増加が海馬歯状回での神経新生を活性化することが報告され1),筋肉から分泌される生理活性物質が注目されている.
 本研究では上顎臼歯を抜歯したラッ トの咀嚼筋を対象としてカテプシンBと脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor,以下,BDNF)の発現を確認し,咬合支持の欠如に伴って認知機能が低下するメカニズムの一端を解明することを目的とした.
【方法】
 実験動物には5週齢のWistar系雄性ラット20匹を用いた.6週齢時に半数の動物には麻酔下で上顎臼歯を抜歯(抜歯群)し,残りの半数には麻酔のみの偽手術を施した(対照群).その後は固形食を自由摂取させた.
 15週齢時から受動的回避実験を開始し,電気刺激による嫌悪刺激を獲得させ,翌日に再生試行として明室での待機時間を計測した.その後動物を屠殺して咬筋と側頭筋を採取した. ISOGEN(ニッポンジーン)を用いて,これらの組織からmRNAを抽出し,逆転写反応によってcDNAを作成後,カテプシンBとBDNFの遺伝子発現をリアルタイムPCRによって評価した.
【結果と考察】
 受動的回避実験では,再生試行における抜歯群の待機時間は対照群に比べて有意に短く,抜歯群では認知機能が低下していた.カテプシンBとBDNFの遺伝子発現は咬筋ではいずれも有意に減少した(図)が,側頭筋では有意な差はみられなかった.
 以上の結果から,咬合支持の欠如によってカテプシンBとBDNFの遺伝子発現は,咬筋と側頭筋間に差があり,咬筋でのこれら遺伝子発現の減少は,認知機能の低下に影響する可能性が示唆された.
【参考文献】
1) Moon HY, Becke A, Berron D et al. Running-induced systemic Cathepsin B secretion Is associated with memory function. Cell Metab 2016; 24: 332-40.