[0008] 内包出血後の麻痺肢集中使用による運動野からの軸索投射の再編
キーワード:Constraint induced movement therapy, 脳出血, 赤核
【はじめに,目的】
麻痺肢に対する積極的なリハビリテーションは,使用に伴う中枢神経系の可塑的変化を惹起し,運動機能回復を促進すると考えられている。これまでに我々は内包出血モデルラットを用いて,麻痺側前肢の集中的使用が中枢神経系に及ぼす効果について検討を行っており,その結果出血側の運動野領域で栄養因子発現の増加や体部位表現マップの拡大などの変化が導出されることを見出した。そこで本研究では,麻痺肢集中使用がどのようなマクロ構造の変化を惹起したかを確認するため,同様のモデルを用いて運動野からの軸索投射を解析した。
【方法】
実験動物にはWistar系雄ラット(250-300 g)を用いた。脳出血手術として,利き手と対側の内包にcollagenase(type-IV,15 units/ml,1.4 ul)を注入し出血を生じさせた。出血後1-8日目にラットの非麻痺側前肢をギプス包帯にて拘束し麻痺側前肢のみを使用させた。出血後12日および26日目に運動機能評価(リーチ・ステップ機能)を行った。並行して出血の5日前および1,10,24日後に皮質内微小電流刺激法にて出血側運動野のマッピングを行った。出血後42日目にマッピングにより規定された吻側運動野および尾側運動野にbiotin dextran amine(BDA,10%,0.5 ul)を注入し,3週後に組織学的解析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究における全処置は大学共同利用機関法人自然科学研究機構動物実験規程に従って実施した。
【結果】
内包出血1日後の時点で麻痺肢に重篤な運動麻痺が生じ,運動野における前肢領域の消失を確認した。出血群(n=6)では,術後10,24日目とも尾側運動野の比較的狭い範囲において前肢領域の再出現を確認した。それに対し集中使用群(n=6)では出血のみの群に比して吻側・尾側運動野においてより広範な前肢領域の出現が確認された。前肢運動機能に関しても,集中使用群では出血群に比して良好な改善を認めた。また,これらの前肢領域にmuscimol(1 uM,1 ul)を投与することで運動機能が再度低下することを確認した。同領域にBDAを注入した結果,出血群・集中使用群とも脊髄への投射は殆ど途絶したままであったが,集中使用群では赤核大細胞部への豊富な投射を確認した。
【考察】
以上の結果から,内包出血後の麻痺肢集中使用は出血側運動野における前肢体部位表現マップを拡大していること,また同領域からは赤核への軸索投射が豊富に確認できることが示された。また,この再編により前肢機能回復が促進されていることが示唆された。これらの結果は,麻痺肢の集中的な使用に伴い,皮質から赤核を介した下行性投射路が活用されるようになったことを示すと推測する。
【理学療法学研究としての意義】
損傷後の運動野において電気生理学的手法およい組織学的手法を用い,再編過程を同一個体で縦断的に解析し,行動の変化と関連付けた。一連の研究成果は上肢運動麻痺に対するリハビリテーションが及ぼしうる影響の理解において重要な知見である考える。
麻痺肢に対する積極的なリハビリテーションは,使用に伴う中枢神経系の可塑的変化を惹起し,運動機能回復を促進すると考えられている。これまでに我々は内包出血モデルラットを用いて,麻痺側前肢の集中的使用が中枢神経系に及ぼす効果について検討を行っており,その結果出血側の運動野領域で栄養因子発現の増加や体部位表現マップの拡大などの変化が導出されることを見出した。そこで本研究では,麻痺肢集中使用がどのようなマクロ構造の変化を惹起したかを確認するため,同様のモデルを用いて運動野からの軸索投射を解析した。
【方法】
実験動物にはWistar系雄ラット(250-300 g)を用いた。脳出血手術として,利き手と対側の内包にcollagenase(type-IV,15 units/ml,1.4 ul)を注入し出血を生じさせた。出血後1-8日目にラットの非麻痺側前肢をギプス包帯にて拘束し麻痺側前肢のみを使用させた。出血後12日および26日目に運動機能評価(リーチ・ステップ機能)を行った。並行して出血の5日前および1,10,24日後に皮質内微小電流刺激法にて出血側運動野のマッピングを行った。出血後42日目にマッピングにより規定された吻側運動野および尾側運動野にbiotin dextran amine(BDA,10%,0.5 ul)を注入し,3週後に組織学的解析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究における全処置は大学共同利用機関法人自然科学研究機構動物実験規程に従って実施した。
【結果】
内包出血1日後の時点で麻痺肢に重篤な運動麻痺が生じ,運動野における前肢領域の消失を確認した。出血群(n=6)では,術後10,24日目とも尾側運動野の比較的狭い範囲において前肢領域の再出現を確認した。それに対し集中使用群(n=6)では出血のみの群に比して吻側・尾側運動野においてより広範な前肢領域の出現が確認された。前肢運動機能に関しても,集中使用群では出血群に比して良好な改善を認めた。また,これらの前肢領域にmuscimol(1 uM,1 ul)を投与することで運動機能が再度低下することを確認した。同領域にBDAを注入した結果,出血群・集中使用群とも脊髄への投射は殆ど途絶したままであったが,集中使用群では赤核大細胞部への豊富な投射を確認した。
【考察】
以上の結果から,内包出血後の麻痺肢集中使用は出血側運動野における前肢体部位表現マップを拡大していること,また同領域からは赤核への軸索投射が豊富に確認できることが示された。また,この再編により前肢機能回復が促進されていることが示唆された。これらの結果は,麻痺肢の集中的な使用に伴い,皮質から赤核を介した下行性投射路が活用されるようになったことを示すと推測する。
【理学療法学研究としての意義】
損傷後の運動野において電気生理学的手法およい組織学的手法を用い,再編過程を同一個体で縦断的に解析し,行動の変化と関連付けた。一連の研究成果は上肢運動麻痺に対するリハビリテーションが及ぼしうる影響の理解において重要な知見である考える。