[0068] 急性期病院に勤務する理学療法士の自宅退院患者に対する転倒予防指導
Keywords:急性期病院, 転倒予防, 生活動線
【はじめに,目的】
高齢者の転倒は,健康寿命の延伸を阻む要因である。転倒要因は内的要因と外的要因に分けられ,内的要因への対策は,複合的運動プログラムの有効性が確認されている。一方,外的要因に対する効果も明らかにされており,転倒による入退院を経験した高齢者の,家屋評価・改善による再転倒及びADL低下の有効性が報告されている。
回復期リハビリテーション病院から自宅退院していく患者に関しては,退院する際の家屋環境改善指導の徹底がなされてきている。一方で,急性期病院から直接自宅退院していく患者に対して,適切な転倒予防指導が実施されているかについては明らかにされていない。
そこで本研究目的は,急性期病院の理学療法士が自宅退院患者に対して,どのような視点をもち転倒予防指導を行っているかを明らかにすることとした。
【方法】
平成25年10月に開催された大阪府内の新人症例検討会に参加した理学療法士58名(女性22名)に対してアンケート調査を行い,即日回収した。職歴から,急性期病院のみ勤務経験がある理学療法士(以下,急性期群)と,急性期病院以外(回復期リハ病院,老人保健施設等)にも勤務経験のある理学療法士(以下,その他群)に大別し,比較検討を行った。アンケートには,経験年数・家屋評価の経験回数に加え,1)家屋評価時に生活動線・転倒経験場所を評価するか,2)自宅退院前に転倒予防指導を行なうか,3)転倒予防指導に関する知識への自信があるか,4)自宅内の転倒危険因子(段差,手すり,敷物・マット,コード類,動線内の整理整頓,暗さ)について認知しているか,以上の項目を含んだ。回答方法は,1)家屋評価時の視点については自由記載の内容から「有無」を判断した。その他の項目は「あり・なし」の選択式とした。統計学的解析は,職歴と各項目の比較,またその他群における家屋評価の経験回数と各項目の比較にはχ2検定を,同じくその他群の経験年数と家屋評価の経験回数の関係性については,Spearmanの順位相関分析を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,対象者には本研究の意図を書面上で説明し同意を得た。
【結果】
職歴による分類は,急性期群11名(平均2.4年目:1-7年目),その他群47名(平均4.7年目:1-15年目)であった。職歴と家屋評価の経験の有無の比較では,急性期群で家屋評価の経験があるのは45.5%で,その他群の93.5%と比較して有意に少なかった(p<0.01)。職歴と1)家屋評価時の視点では,急性期群で生活動線に着目しているのは18.2%のみであり,その他群63.8%と比較して有意に少なかった(p<0.01)。職歴と2)転倒予防指導の実践については,その他群の93.3%が転倒予防指導を実践しているのに対し,急性期群では70%にとどまった(p=0.07)。3)知識の自信ありと回答した者は,急性期群の11.1%,その他群の22.5%にすぎなかった(p=0.66)。職歴と4)自宅内の転倒危険因子の認知は,動線内の整理整頓について急性期群の認知が30.0%となり,その他群65.0%と比較して少ない傾向となった(p=0.07)。
その他群において,経験年数と家屋評価の経験回数とに有意な正の相関(r=0.78)がみられた。また,家屋評価の経験と1)家屋評価時の視点との関連では,家屋評価の経験がある者の67.4%が生活動線に着目しているのに対し,経験がない者は全く着目していなかった(p<0.05)。
【考察】
家屋評価の視点として生活動線に着目しているのは急性期群が有意に少なく,また転倒危険因子の認知で,動線内の整理整頓の項目で急性期群が少ない傾向にあったということから,その他群では急性期群と比較して,自宅退院患者に対して,実際の生活に沿った転倒予防指導ができているのではないかと推測される。平成22年度に内閣府が行った調査において,自宅内で転倒した場所は生活動線内が多いことから,急性期病院から直接自宅退院する患者においても,より動線内の転倒指導が重要ではないかと考える。家屋評価の経験の有無が生活動線への着目に影響を与える可能性が明らかにされたものの,急性期病院において実際の家屋評価経験を増すことは難しい。そのため,実践的な評価視点を担保する教育プログラムの開発・提供が望まれる。
【理学療法研究としての意義】
今後ますますの転倒ハイリスク者の自宅退院が見込まれており,急性期病院から自宅退院時に転倒予防を行うことが重要である。本研究においては,施設形態別の退院時転倒予防指導の実態を把握することで,今後の介入研究の基礎資料としてなり得ると考える。
高齢者の転倒は,健康寿命の延伸を阻む要因である。転倒要因は内的要因と外的要因に分けられ,内的要因への対策は,複合的運動プログラムの有効性が確認されている。一方,外的要因に対する効果も明らかにされており,転倒による入退院を経験した高齢者の,家屋評価・改善による再転倒及びADL低下の有効性が報告されている。
回復期リハビリテーション病院から自宅退院していく患者に関しては,退院する際の家屋環境改善指導の徹底がなされてきている。一方で,急性期病院から直接自宅退院していく患者に対して,適切な転倒予防指導が実施されているかについては明らかにされていない。
そこで本研究目的は,急性期病院の理学療法士が自宅退院患者に対して,どのような視点をもち転倒予防指導を行っているかを明らかにすることとした。
【方法】
平成25年10月に開催された大阪府内の新人症例検討会に参加した理学療法士58名(女性22名)に対してアンケート調査を行い,即日回収した。職歴から,急性期病院のみ勤務経験がある理学療法士(以下,急性期群)と,急性期病院以外(回復期リハ病院,老人保健施設等)にも勤務経験のある理学療法士(以下,その他群)に大別し,比較検討を行った。アンケートには,経験年数・家屋評価の経験回数に加え,1)家屋評価時に生活動線・転倒経験場所を評価するか,2)自宅退院前に転倒予防指導を行なうか,3)転倒予防指導に関する知識への自信があるか,4)自宅内の転倒危険因子(段差,手すり,敷物・マット,コード類,動線内の整理整頓,暗さ)について認知しているか,以上の項目を含んだ。回答方法は,1)家屋評価時の視点については自由記載の内容から「有無」を判断した。その他の項目は「あり・なし」の選択式とした。統計学的解析は,職歴と各項目の比較,またその他群における家屋評価の経験回数と各項目の比較にはχ2検定を,同じくその他群の経験年数と家屋評価の経験回数の関係性については,Spearmanの順位相関分析を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,対象者には本研究の意図を書面上で説明し同意を得た。
【結果】
職歴による分類は,急性期群11名(平均2.4年目:1-7年目),その他群47名(平均4.7年目:1-15年目)であった。職歴と家屋評価の経験の有無の比較では,急性期群で家屋評価の経験があるのは45.5%で,その他群の93.5%と比較して有意に少なかった(p<0.01)。職歴と1)家屋評価時の視点では,急性期群で生活動線に着目しているのは18.2%のみであり,その他群63.8%と比較して有意に少なかった(p<0.01)。職歴と2)転倒予防指導の実践については,その他群の93.3%が転倒予防指導を実践しているのに対し,急性期群では70%にとどまった(p=0.07)。3)知識の自信ありと回答した者は,急性期群の11.1%,その他群の22.5%にすぎなかった(p=0.66)。職歴と4)自宅内の転倒危険因子の認知は,動線内の整理整頓について急性期群の認知が30.0%となり,その他群65.0%と比較して少ない傾向となった(p=0.07)。
その他群において,経験年数と家屋評価の経験回数とに有意な正の相関(r=0.78)がみられた。また,家屋評価の経験と1)家屋評価時の視点との関連では,家屋評価の経験がある者の67.4%が生活動線に着目しているのに対し,経験がない者は全く着目していなかった(p<0.05)。
【考察】
家屋評価の視点として生活動線に着目しているのは急性期群が有意に少なく,また転倒危険因子の認知で,動線内の整理整頓の項目で急性期群が少ない傾向にあったということから,その他群では急性期群と比較して,自宅退院患者に対して,実際の生活に沿った転倒予防指導ができているのではないかと推測される。平成22年度に内閣府が行った調査において,自宅内で転倒した場所は生活動線内が多いことから,急性期病院から直接自宅退院する患者においても,より動線内の転倒指導が重要ではないかと考える。家屋評価の経験の有無が生活動線への着目に影響を与える可能性が明らかにされたものの,急性期病院において実際の家屋評価経験を増すことは難しい。そのため,実践的な評価視点を担保する教育プログラムの開発・提供が望まれる。
【理学療法研究としての意義】
今後ますますの転倒ハイリスク者の自宅退院が見込まれており,急性期病院から自宅退院時に転倒予防を行うことが重要である。本研究においては,施設形態別の退院時転倒予防指導の実態を把握することで,今後の介入研究の基礎資料としてなり得ると考える。