[0115] 要支援高齢者の重度化に関連する運動機能について
キーワード:介護予防, 要支援高齢者, 運動機能
【はじめに,目的】介護保険財政上,要介護状態をどのように改善・維持するかという点が政策上,非常に重要になってきている。島田らは,要介護認定者と非認定者の運動機能を比較し,要介護認定の有無に影響を与える要因として握力,chair stand test(CST),開眼片足立ち,6m歩行速度,timed up & go test(TUG)が関連因子であることと,各運動機能のカットオフポイントを報告している。介護予防の観点から,要介護認定者と非認定者での運動機能を比較した研究は多く見られるが,大規模集団で要支援高齢者と要介護高齢者を比較し,カットオフポイントまで報告している研究は数少ない。要支援高齢者の重度化を少しでも延ばすことは理学療法士の重要な責務の一つである。そこで本研究では要支援・要介護高齢者を対象に要支援からの重度化に関連する因子を分析し,介護予防に対する効果的なサービス提供につなげていくことを目的とした。
【方法】対象は,通所介護サービスを利用していた要支援・要介護高齢者15922名(82.6±6.8歳,男性5107名,女性10815名)であった。要介護度の内訳は,要支援1が10.7%,要支援2が15.0%,要介護1が31.6%,要介護2が24.9%,要介護3が13.3%,要介護4が3.8%,要介護5が0.6%であった。対象者は,すべての検査の実施が可能である者とした。認知機能はmental status questionnaire(MSQ)を用い,誤答数が9もしくは10であった者は除外した。測定項目は,運動機能として握力,chair stand test(CST),開眼片足立ち,6m歩行速度,timed up & go test(TUG)を用いた。要支援1,2の対象者を要支援群,要介護1から5までの対象者を要介護群の2群に分けた。要支援群と要介護群の各変数の比較をするために,性別はχ2検定,正規分布する年齢,握力,歩行速度は対応のないt検定,正規分布しないCST-5,開眼片足立ち,TUGはMann-WhitneyのU検定を用いて単変量分析を行った。要介護度を状態変数として各運動機能のcut-off値を求めるためにreceiveroperating characteristic(ROC)曲線を用いた。算出したcut-off値より運動機能の測定結果をcut-off値未満の群,cut-off値以上の群の2群に分類した(cut-off値未満:1,cut-off値以上:2)。そのcut-off値分類5項目を独立変数,要支援群・要介護群を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った(有意水準5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に沿って研究の主旨及び目的の説明を行い,同意を得た。なお本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。
【結果】要支援群は4105名(男1052名,女3053名,年齢82.6±6.4歳),介助群は11817名(男4055名,女7762名,年齢82.6±6.9歳)であった。単変量分析より,握力,開眼片足立ち,6m歩行速度では要支援群に比べ要介護群で有意に低く,CST,TUGでは有意に高かった。性別では要支援群が要介護群に比べ有意に女性の割合が高かった。年齢では群間に有意差は認められなかった。Youden indexから算出したcut-off値は握力13kg,CST-5は13秒,開眼片足立ち2秒,歩行速度0.6m/s,TUG16秒であった。
性別を調整変数として投入し,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,握力(OR:0.56,95%CI:0.51-0.61),CST-5(OR:1.14,95%CI:1.05-1.24,),開眼片足立ち(OR:0.89,95%CI:0.83-0.97),通常歩行速度(OR:0.79,95%CI:0.56-0.82),TUG(OR:1.95,95%CI:1.70-2.21)が抽出された。
【考察】単変量分析およびロジスティック回帰分析の結果から,要介護度の悪化に関連する因子として抽出されたのは,握力,CST-5,開眼片足立ち,歩行速度,TUGのすべてであった。通所介護サービスを利用する要支援高齢者に対して,介護度の悪化を予防していくためには,各運動機能の評価が重要であることが示唆された。島田らの先行研究では,カットオフポイントのAUC,感度,特異度は全ての運動機能において70%以上の値で報告されているが,本研究では最もオッズ比が高かったTUGにおいても,要介護状態への悪化に対する感度は56.6%,特異度は65.5%と低く,AUCも64%にとどまった。これらの値は,要支援から要介護状態への悪化に関連する要因は運動機能だけでは十分な説明ができないことを示唆している。疾患や認知機能,ADL,IADL,世帯構成等も要介護度の悪化に影響を及ぼす因子であることが予想されるため,今後はそれらの要因も踏まえ縦断的に調査していくことが課題である。
【理学療法学研究としての意義】通所介護サービスでは,理学療法士が配置されていない施設が多い中で,本研究で採用した簡便な運動機能検査が要支援から要介護状態への悪化に関連することが明らかになったことは,今後のサービス提供上,有意義であると考える。
【方法】対象は,通所介護サービスを利用していた要支援・要介護高齢者15922名(82.6±6.8歳,男性5107名,女性10815名)であった。要介護度の内訳は,要支援1が10.7%,要支援2が15.0%,要介護1が31.6%,要介護2が24.9%,要介護3が13.3%,要介護4が3.8%,要介護5が0.6%であった。対象者は,すべての検査の実施が可能である者とした。認知機能はmental status questionnaire(MSQ)を用い,誤答数が9もしくは10であった者は除外した。測定項目は,運動機能として握力,chair stand test(CST),開眼片足立ち,6m歩行速度,timed up & go test(TUG)を用いた。要支援1,2の対象者を要支援群,要介護1から5までの対象者を要介護群の2群に分けた。要支援群と要介護群の各変数の比較をするために,性別はχ2検定,正規分布する年齢,握力,歩行速度は対応のないt検定,正規分布しないCST-5,開眼片足立ち,TUGはMann-WhitneyのU検定を用いて単変量分析を行った。要介護度を状態変数として各運動機能のcut-off値を求めるためにreceiveroperating characteristic(ROC)曲線を用いた。算出したcut-off値より運動機能の測定結果をcut-off値未満の群,cut-off値以上の群の2群に分類した(cut-off値未満:1,cut-off値以上:2)。そのcut-off値分類5項目を独立変数,要支援群・要介護群を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った(有意水準5%未満)。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に沿って研究の主旨及び目的の説明を行い,同意を得た。なお本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。
【結果】要支援群は4105名(男1052名,女3053名,年齢82.6±6.4歳),介助群は11817名(男4055名,女7762名,年齢82.6±6.9歳)であった。単変量分析より,握力,開眼片足立ち,6m歩行速度では要支援群に比べ要介護群で有意に低く,CST,TUGでは有意に高かった。性別では要支援群が要介護群に比べ有意に女性の割合が高かった。年齢では群間に有意差は認められなかった。Youden indexから算出したcut-off値は握力13kg,CST-5は13秒,開眼片足立ち2秒,歩行速度0.6m/s,TUG16秒であった。
性別を調整変数として投入し,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,握力(OR:0.56,95%CI:0.51-0.61),CST-5(OR:1.14,95%CI:1.05-1.24,),開眼片足立ち(OR:0.89,95%CI:0.83-0.97),通常歩行速度(OR:0.79,95%CI:0.56-0.82),TUG(OR:1.95,95%CI:1.70-2.21)が抽出された。
【考察】単変量分析およびロジスティック回帰分析の結果から,要介護度の悪化に関連する因子として抽出されたのは,握力,CST-5,開眼片足立ち,歩行速度,TUGのすべてであった。通所介護サービスを利用する要支援高齢者に対して,介護度の悪化を予防していくためには,各運動機能の評価が重要であることが示唆された。島田らの先行研究では,カットオフポイントのAUC,感度,特異度は全ての運動機能において70%以上の値で報告されているが,本研究では最もオッズ比が高かったTUGにおいても,要介護状態への悪化に対する感度は56.6%,特異度は65.5%と低く,AUCも64%にとどまった。これらの値は,要支援から要介護状態への悪化に関連する要因は運動機能だけでは十分な説明ができないことを示唆している。疾患や認知機能,ADL,IADL,世帯構成等も要介護度の悪化に影響を及ぼす因子であることが予想されるため,今後はそれらの要因も踏まえ縦断的に調査していくことが課題である。
【理学療法学研究としての意義】通所介護サービスでは,理学療法士が配置されていない施設が多い中で,本研究で採用した簡便な運動機能検査が要支援から要介護状態への悪化に関連することが明らかになったことは,今後のサービス提供上,有意義であると考える。