[0120] 学生の臨床実習に対するイメージ形成プロセス
Keywords:臨床実習, 質的研究, インタビュー
【はじめに,目的】
近年の養成校増加に伴う大量養成時代は,臨床実習(以下,実習)における様々な問題を顕在化させ,実習を控えた学生にとっては不安を抱えるものに,指導者(以下,SV)にとっては負担を感じるものになっている。本研究の目的は,学生の実習に対するイメージ形成プロセスをモデル化することである。学生の不安感や期待感といった実習に対するイメージが,どのような要因と関係して形成されるのかモデル化することで,実習指導法に関する有益な情報を得たいと考える。
【方法】
研究対象者は,H24年1月現在,2年生(最終学年は3年生)となっている県内養成校1校の理学療法学科学生7名,作業療法学科学生6名とし,半構造化インタビューを実施した。インタビューデータの分析には質的研究法のひとつである修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTA)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
倫理的配慮として研究開始に先立ち,医療法人参篤会の倫理審査委員会の許可を得た。その後,インタビュー前に学生に口頭および文章で研究目的・拒否と中止の自由・プライバシーの保護などについて説明し,書面による同意を得た。なお,対象者は学生であるため学業への支障については特に配慮した。
【結果】
1.実習に対する期待感と不安感を形成するプロセス
文中に,で示したものが最小単位の概念,<>がカテゴリー,≪≫がサブカテゴリーを意味する。
実習は[学内・現場環境相違]があり,学生に独力での患者対応が求められるため≪経験値不足体験≫から≪個別担当不安≫を抱きやすく<実習への不安感>を形成する一方,学内教育とは違った環境下で学べるとあって≪経験値充足期待≫を持ち≪建設的事前準備≫を万全にして実習に臨みたいといった<実習への期待感>も持つ。
学生は,[免許取得通過儀礼]として臨床現場における臨床体験を考えていた。[儀式としての臨床体験]は実習における全ての事象が対象になるが,現行の実習指導法では症例レポート作成が最優先課題となり,担当症例に対する[臨床的思考の表出]の手段として<ツールとしてのレポート>の存在は重要であった。
学生はレポートを≪コミュニケーションツール≫として活用することで[SVの助言]を引き出し,自分の成長が感じられる[成長記録]にしたいという思いがあった。助言を与えてくれるSVは,[理想的セラピスト像]を示す身近なお手本であり≪ロールモデル≫としての期待があった。≪コミュニケーションツール≫としてレポートが意識される場合,SVとの良好な関係を示すものであった。一方,実習で躓くであろうと考える学生は,レポートが[ノルマ的存在]や[成績判定材料]として活用されることに不安を覚え,≪評価対象ツール≫としてのレポートを意識していた。もともとSVと学生の間には強い権威勾配があり,特に≪評定権限者≫としてSVが下す[不合格判定]に対する不安感は強く,[ノルマ的存在]であるレポートが実習に対する不安感の根幹となっていた。
【考察】
今回の結果,学生は実習を無事に乗り越えられることを願いつつ,実習に対するネガティブなイメージを持っていることが示された。つまり,今後の実習を学生やSVにとって有意義なものにするためには,学生の<実習に対するイメージ>をポジティブに変える必要性があり,SVが果たす役割は重要であると考える。
第一に,SVは実習において学生の自信につながるような指導法を模索する必要がある。学生の実習に対する不安感は過去の見学・評価実習などにおける失敗体験が大きく関わっていることから,成功体験の積み重ねが必要であると考える。
第二に,SVはレポート作成の目的を再考し,学生の意識改革や睡眠時間確保に努めなければならない。学生のレポートに関する意識は,≪コミュニケーションツール≫よりも≪評価対象ツール≫としての側面が強い。原因は,レポートが学生評価の材料として扱われるからである。しかも,提出期限や再提出に追われることで生じる睡眠不足がレポート問題を加速化している。
第三に,SVは学生に≪ロールモデル≫として認識されるよう努力しなければならない。しかし,現状はSVを≪評定権限者≫として認識する傾向にある。学生は,多かれ少なかれSVの影響を受けると言われており,SVが学生の行動規範になり≪ロールモデル≫として認識されるよう努力する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
学生の視点から実習に対するイメージ形成プロセスをモデル化することは,実習指導法に関する有益な情報を得るという意味で意義のある研究と考える。
近年の養成校増加に伴う大量養成時代は,臨床実習(以下,実習)における様々な問題を顕在化させ,実習を控えた学生にとっては不安を抱えるものに,指導者(以下,SV)にとっては負担を感じるものになっている。本研究の目的は,学生の実習に対するイメージ形成プロセスをモデル化することである。学生の不安感や期待感といった実習に対するイメージが,どのような要因と関係して形成されるのかモデル化することで,実習指導法に関する有益な情報を得たいと考える。
【方法】
研究対象者は,H24年1月現在,2年生(最終学年は3年生)となっている県内養成校1校の理学療法学科学生7名,作業療法学科学生6名とし,半構造化インタビューを実施した。インタビューデータの分析には質的研究法のひとつである修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下,M-GTA)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
倫理的配慮として研究開始に先立ち,医療法人参篤会の倫理審査委員会の許可を得た。その後,インタビュー前に学生に口頭および文章で研究目的・拒否と中止の自由・プライバシーの保護などについて説明し,書面による同意を得た。なお,対象者は学生であるため学業への支障については特に配慮した。
【結果】
1.実習に対する期待感と不安感を形成するプロセス
文中に,で示したものが最小単位の概念,<>がカテゴリー,≪≫がサブカテゴリーを意味する。
実習は[学内・現場環境相違]があり,学生に独力での患者対応が求められるため≪経験値不足体験≫から≪個別担当不安≫を抱きやすく<実習への不安感>を形成する一方,学内教育とは違った環境下で学べるとあって≪経験値充足期待≫を持ち≪建設的事前準備≫を万全にして実習に臨みたいといった<実習への期待感>も持つ。
学生は,[免許取得通過儀礼]として臨床現場における臨床体験を考えていた。[儀式としての臨床体験]は実習における全ての事象が対象になるが,現行の実習指導法では症例レポート作成が最優先課題となり,担当症例に対する[臨床的思考の表出]の手段として<ツールとしてのレポート>の存在は重要であった。
学生はレポートを≪コミュニケーションツール≫として活用することで[SVの助言]を引き出し,自分の成長が感じられる[成長記録]にしたいという思いがあった。助言を与えてくれるSVは,[理想的セラピスト像]を示す身近なお手本であり≪ロールモデル≫としての期待があった。≪コミュニケーションツール≫としてレポートが意識される場合,SVとの良好な関係を示すものであった。一方,実習で躓くであろうと考える学生は,レポートが[ノルマ的存在]や[成績判定材料]として活用されることに不安を覚え,≪評価対象ツール≫としてのレポートを意識していた。もともとSVと学生の間には強い権威勾配があり,特に≪評定権限者≫としてSVが下す[不合格判定]に対する不安感は強く,[ノルマ的存在]であるレポートが実習に対する不安感の根幹となっていた。
【考察】
今回の結果,学生は実習を無事に乗り越えられることを願いつつ,実習に対するネガティブなイメージを持っていることが示された。つまり,今後の実習を学生やSVにとって有意義なものにするためには,学生の<実習に対するイメージ>をポジティブに変える必要性があり,SVが果たす役割は重要であると考える。
第一に,SVは実習において学生の自信につながるような指導法を模索する必要がある。学生の実習に対する不安感は過去の見学・評価実習などにおける失敗体験が大きく関わっていることから,成功体験の積み重ねが必要であると考える。
第二に,SVはレポート作成の目的を再考し,学生の意識改革や睡眠時間確保に努めなければならない。学生のレポートに関する意識は,≪コミュニケーションツール≫よりも≪評価対象ツール≫としての側面が強い。原因は,レポートが学生評価の材料として扱われるからである。しかも,提出期限や再提出に追われることで生じる睡眠不足がレポート問題を加速化している。
第三に,SVは学生に≪ロールモデル≫として認識されるよう努力しなければならない。しかし,現状はSVを≪評定権限者≫として認識する傾向にある。学生は,多かれ少なかれSVの影響を受けると言われており,SVが学生の行動規範になり≪ロールモデル≫として認識されるよう努力する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
学生の視点から実習に対するイメージ形成プロセスをモデル化することは,実習指導法に関する有益な情報を得るという意味で意義のある研究と考える。