[0187] 脳卒中患者における体重免荷トレッドミル歩行練習の介入効果についての検討
キーワード:脳卒中患者, 体重免荷トレッドミル歩行練習, 変動係数
【はじめに,目的】脳卒中リハビリテーションにおいて,トレッドミルと懸垂装置を組み合わせ,歩行練習を行う,体重免荷トレッドミル歩行練習(Body Weight Supported Treadmill Training:BWST-T)が注目されている。脳卒中治療ガイドライン2009における歩行障害に対するリハビリテーションにおいて,起立―着席訓練や歩行訓練などの下肢訓練の量を多くすることは,歩行能力の改善のために強く勧められる(グレードA)とされ,BWST-TもグレードBと位置付けされており,強く支持を受けている。脳卒中患者に対する歩行能力の改善の為には,歩行安定性を高める介入を行うことが必要不可欠である。歩行の安定性は①速度,②持久性,③恒常性の3要素から構成されている。BWST-Tの介入効果については諸家により,平地歩行困難な時期からの早期歩行練習の開始,歩行速度の増加,立脚時間の対称性の改善,連続歩行時間の延長等,数多く報告されているが,歩行恒常性の改善効果について着目された報告は少ない。近年,三軸加速度計による平地歩行中の1歩行周期毎の時間計測により歩行周期時間変動係数(以下変動係数)を求め,歩行恒常性を定量的に評価する試みがされており,高齢者や脳卒中患者の転倒リスクや歩行自立度と高い相関があることが報告されている。本研究の目的は,脳卒中片麻痺患者を対象に,BWST-Tを実施した際,歩行恒常性を含む各歩行指標がどのように変化するのかを明らかにする事である。
【方法】対象は,10m平地歩行が可能な初発脳卒中患者5名(発症より62.8±19.8日,脳梗塞3名,脳出血2名)とした。介入方法は,ABAデザインによる検討を行い,①A期(水準期)を最大努力下での平地歩行練習,②B期(操作導入期)をBWST-Tとし,さらに③A’期(水準期)を設け介入を行った。両期共に通常の理学療法介入に付加して,一日5分間の歩行練習を10回行った。BWST-Tの介入プロトコルは,免荷量を全体重の30%とし,設定速度はトレッドミル上で下肢の振り出しが可能な最大速度と設定した。評価項目を,各介入期間の前後での①10m最大歩行速度,②変動係数,③BergBalanceScale(以下BBS),④麻痺側下肢伸展筋力(以下伸展筋力)とした。なお変動係数に関しては,小型三軸加速度計を非麻痺側の足背面に設置し,10m快適歩行より算出した。統計処理としては,各期における評価項目をFriedman検定により分析した。
【倫理的配慮,説明と同意】被験者には,本研究に対して書面による説明の後,同意を得た。
【結果】歩行評価指標として,歩行速度はA期,A’期前後において有意な変化を認めず,B期前後において有意に増加した(p<0.001)。また,A期開始時からA’期終了時にかけて有意に増加した(p<0.05)。変動係数も同様にA期,A’期前後において有意な変化を認めず,B期前後において有意に減少した(p<0.05)。また,A期開始時からA’期終了時にかけて有意に減少した(p<0.01)。BBSと伸展筋力に関してはA期,A’期前後において有意に増加したが(p<0.05),B期前後においては有意な変化を認めなかった。また,A期開始時からA’期終了時にかけて有意に増加した。(p<0.001)。
【考察】先行研究と同様に,平地歩行練習と比較しBWST-T介入によって,歩行速度が増加した。また今回着目した変動係数においても,BWST介入においてのみ有意な減少が得られるという結果となった。BWST-Tのみ歩行速度,変動係数が改善された機序としては,懸垂装置により安定性を確保された状態で効率的に歩行練習が行われた事,トレッドミル上での一定した速度設定での歩行練習によりばらつきの無い,より安定した歩行パターンの学習が円滑に行われた事が考えられた。一方歩行能力との相関が高いBBSや伸展筋力において,BWST介入前後における有意な改善が得られなかった要因としては,懸垂装置により安定性が確保されている事,体重免荷による下肢筋活動量の低下により,平地歩行練習と比較すると短期的には十分な介入効果が得られ無かったことが考えられた。今回の検討により,脳卒中患者を対象としたBWST-T介入は,歩行安定性の一要素である歩行速度の増加だけではなく恒常性の改善に特異的な効果がある事が考えられ,BWST-T介入で,より高度な歩行能力を獲得することが示唆された。BWST-Tは歩行恒常性の改善を促す為にも有用な介入方法であるという事が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者を対象とした,BWST-T介入は平地歩行練習と比較し,歩行速度の改善に加え,歩行安定性の1要素である恒常性という側面に対しても効果的に寄与する事が明らかとなった。BWST-Tは脳卒中リハビリテーションにおいて有用なトレーニング方法であることを再確認する事が出来た。
【方法】対象は,10m平地歩行が可能な初発脳卒中患者5名(発症より62.8±19.8日,脳梗塞3名,脳出血2名)とした。介入方法は,ABAデザインによる検討を行い,①A期(水準期)を最大努力下での平地歩行練習,②B期(操作導入期)をBWST-Tとし,さらに③A’期(水準期)を設け介入を行った。両期共に通常の理学療法介入に付加して,一日5分間の歩行練習を10回行った。BWST-Tの介入プロトコルは,免荷量を全体重の30%とし,設定速度はトレッドミル上で下肢の振り出しが可能な最大速度と設定した。評価項目を,各介入期間の前後での①10m最大歩行速度,②変動係数,③BergBalanceScale(以下BBS),④麻痺側下肢伸展筋力(以下伸展筋力)とした。なお変動係数に関しては,小型三軸加速度計を非麻痺側の足背面に設置し,10m快適歩行より算出した。統計処理としては,各期における評価項目をFriedman検定により分析した。
【倫理的配慮,説明と同意】被験者には,本研究に対して書面による説明の後,同意を得た。
【結果】歩行評価指標として,歩行速度はA期,A’期前後において有意な変化を認めず,B期前後において有意に増加した(p<0.001)。また,A期開始時からA’期終了時にかけて有意に増加した(p<0.05)。変動係数も同様にA期,A’期前後において有意な変化を認めず,B期前後において有意に減少した(p<0.05)。また,A期開始時からA’期終了時にかけて有意に減少した(p<0.01)。BBSと伸展筋力に関してはA期,A’期前後において有意に増加したが(p<0.05),B期前後においては有意な変化を認めなかった。また,A期開始時からA’期終了時にかけて有意に増加した。(p<0.001)。
【考察】先行研究と同様に,平地歩行練習と比較しBWST-T介入によって,歩行速度が増加した。また今回着目した変動係数においても,BWST介入においてのみ有意な減少が得られるという結果となった。BWST-Tのみ歩行速度,変動係数が改善された機序としては,懸垂装置により安定性を確保された状態で効率的に歩行練習が行われた事,トレッドミル上での一定した速度設定での歩行練習によりばらつきの無い,より安定した歩行パターンの学習が円滑に行われた事が考えられた。一方歩行能力との相関が高いBBSや伸展筋力において,BWST介入前後における有意な改善が得られなかった要因としては,懸垂装置により安定性が確保されている事,体重免荷による下肢筋活動量の低下により,平地歩行練習と比較すると短期的には十分な介入効果が得られ無かったことが考えられた。今回の検討により,脳卒中患者を対象としたBWST-T介入は,歩行安定性の一要素である歩行速度の増加だけではなく恒常性の改善に特異的な効果がある事が考えられ,BWST-T介入で,より高度な歩行能力を獲得することが示唆された。BWST-Tは歩行恒常性の改善を促す為にも有用な介入方法であるという事が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者を対象とした,BWST-T介入は平地歩行練習と比較し,歩行速度の改善に加え,歩行安定性の1要素である恒常性という側面に対しても効果的に寄与する事が明らかとなった。BWST-Tは脳卒中リハビリテーションにおいて有用なトレーニング方法であることを再確認する事が出来た。