第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習3

Fri. May 30, 2014 1:30 PM - 2:20 PM 第3会場 (3F 301)

座長:大西秀明(新潟医療福祉大学理学療法学科)

基礎 口述

[0196] 二次課題の難易度と異なる指示がDual-Taskの成績に及ぼす影響

大角哲也1,2, 原田亮1, 臼田滋2 (1.榛名荘病院リハビリテーション部, 2.群馬大学大学院保健学研究科)

Keywords:二重課題, 歩行, 運動戦略

【目的】
二重課題(Dual-Task:DT)において,二つの課題のどちらをどのぐらい優先させるかといった戦略は,DTを転倒リスクの評価や転倒予防のための介入に適用する際に重要である。これまで,パーキンソン病患者はposture second strategyを用いること等が報告されているが,脳卒中患者における報告は散見する程度である。また,選択される戦略が,二次課題の難易度や異なる指示によってどのように影響を受けるかは不明である。本研究は予備的検討として,健常若年成人を対象にDTの成績に及ぼす二次課題の難易度と異なる指示の影響を分析することを目的とする。
【方法】
対象は健常若年成人31名とした。一次課題は快適速度でのTimed Up & Go Test(TUG)とし,二次課題は90から100の間の任意の数字から3または7ずつ引く2種類の減算課題(serial 3’s:S3,serial 7’s:S7)とした。減算課題は,安静座位にて30秒間の正答数を記録した。DTは減算課題を行いながらのTUGとし,2種類の減算課題の難易度(S3とS7)および2種類の課題の優先順位づけの指示(「歩行と減算課題の両方ともに集中して下さい」(no priority)と「主に減算課題に集中して下さい」(cognitive priority))の4条件で実施した。各条件はDT3N(S3,no priority),DT3C(S3,cognitive priority),DT7N(S7,no priority)およびDT7C(S7,cognitive priority)とし,減算課題の開始の数字は90から100の間の数字とし,毎回変更した。DTは1回練習後に順番をランダムに各条件1回ずつ実施した。TUGは時間を測定し,減算課題は正答数を記録して1秒当たりの正答数(回/秒)を算出した。さらにTUGおよび減算課題に対する自覚的な注意の配分を,11段階の多段階評価尺度(0~10)にて測定し,最も減算課題に注意した場合を10,TUGに注意した場合を0とした。また,DTのSingle-Task(ST)に対する変化率を(DT-ST)/ST×100として算出した。統計処理はSTおよび各DT条件の比較にはFriedman検定後に多重比較検定(Bonferroniの調整を用いたWilcoxonの符号付順位検定)を行い,STに対するDTの変化率の各条件間の比較には反復測定二元配置分散分析を行った。統計ソフトはSPSS ver. 19.0J for Windowsを使用し,有意水準は5%とした。
【説明と同意】
当院倫理委員会にて承認を受け,研究説明書に基づき対象者に研究内容を説明し,同意署名を得た。
【結果】
対象は男性17名,女性14名,年齢は24.3±2.2(平均±標準偏差)歳であった。各測定項目の平均値±標準偏差(最小値,最大値)は,TUGの時間(秒)はSTで8.0±0.9(6.3,10.8),DT3Nで10.2±2.5(6.3,17.4),DT3Cで12.2±4.2(6.8,22.6),DT7Nで11.2±3.6(5.9,18.7),DT7Cで13.5±5.2(6.7,28.4)であり,STとDTの比較において,S3では,ST-DT3N間,ST-DT3C間,DT3N-DT3C間でいずれも有意差を認め(p<0.001),S7ではST-DT7N間,ST-DT7C間,DT7N-DT7C間でいずれも有意差を認めた(p<0.001)。正答数(回/秒)は,S3のSTで0.7±0.4(0.2,2.0),DT3Nで0.6±0.4(0.3,2.0),DT3Cで0.6±0.3(0.2,1.6)でST-DT3C間でのみ有意差を認め(p<0.05),S7のSTで0.3±0.3(0.0,1.8),DT7Nで0.4±0.3(0,1.2),DT7Cで0.3±0.3(0,1.3)で各条件間に有意差は認めなかった。注意配分はDT3Nで5.5±0.8(4,7),DT3Cで7.8±1.2(6,10),DT7Nで6.1±0.9(4,7),DT7Cで8.2±0.9(6,10)であった。TUGの時間のSTに対するDTの変化率(%)は,DT3Nで27.3±27.1(-6.7,98.9),DT3Cで50.8±46.2(-13.4,167.7),DT7Nで39.6±40.6(-11.9,137.3),DT7Cで66.6±59.8(-6.7,238.2)であり,二元配置分散分析の結果,課題の優先順位づけの違いの主効果のみ有意であった(p<0.01)。
【考察】
STに対してDTにてS3,S7のいずれの条件においても有意なTUGの時間の低下が認められたことから,健常若年成人においても減算課題が付加された場合,さらに主に減算課題に集中するように指示した場合に歩行の安定性を優先するposture first strategyを用いる者が多いと考えられた。また,歩行時間のSTに対するDTの変化率は課題の難易度よりも課題の優先順位づけによる影響を受けやすいことが示唆された。さらに,歩行時間のSTに対するDTの変化率から,歩行能力や認知機能に問題のない健常若年成人においても歩行をどの程度犠牲にするかについて個人差があるということは興味深い点である。今後は脳卒中患者においても同様の検討を実施し,DTの戦略の特性や個別性の確認,戦略と歩行能力や機能障害との関連性を検討していきたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】
DTの戦略について検討することにより,DTの評価指標や介入方法としての有用性の向上の一助になると考えられる。さらに,脳卒中患者に応用してDTの戦略の特性を検討する事ができる。