第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

運動制御・運動学習3

2014年5月30日(金) 13:30 〜 14:20 第3会場 (3F 301)

座長:大西秀明(新潟医療福祉大学理学療法学科)

基礎 口述

[0197] 運動イメージと電気刺激の併用による大脳皮質可塑性の変化の検討

立本将士1, 山口智史1,2, 田辺茂雄3, 近藤国嗣1, 大高洋平1,2, 田中悟志4 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室, 3.藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科, 4.浜松医科大学医学部心理学教室)

キーワード:運動想起, 電気刺激療法, 経頭蓋磁気刺激

【はじめに,目的】
運動イメージは,実際の運動と類似した中枢神経系の活動を引き起こすことが報告されており(Facchini et al. 2002),脳損傷後患者の運動機能回復に有効な手法であると考えられている(Braun et al. 2006)。またYamaguchiら(2012)は運動イメージと末梢神経から感覚閾値の電気刺激を組み合わせた最中の大脳皮質の興奮性が,それぞれ単独の介入と比較し,有意に増加することを報告している。しかしながら,運動イメージと電気刺激の組み合わせによって,持続的な大脳皮質の可塑的変化が生じるかは明らかではない。大脳皮質の可塑的変化は脳卒中患者の機能回復に重要性な役割を果たすことが知られている(Sharma et al. 2012)。本研究では,運動イメージと電気刺激の組み合わせの反復による大脳皮質興奮性の可塑的変化について検討することを目的とした。
【方法】
健常成人7名(平均年齢25.0±3.7歳)を対象とした。実験条件は(1)運動イメージ課題のみ実施する条件(運動イメージ単独条件),(2)電気刺激のみ実施する条件(電気刺激単独条件),(3)運動イメージ課題と電気刺激を組み合わせて実施する条件(併用条件)の3つを行い,それぞれの条件で誘導される大脳皮質の可塑的変化の違いを比較した。実験条件は,2日以上の間隔で実施した。運動イメージ課題では,対象者は右手指の屈伸課題(3秒屈曲,2秒伸展)を10分間,計120回の屈伸イメージを行った。対象者の正面のモニタ上に課題ビデオを提示し,ビデオの動きに合わせてイメージするよう教示した。課題中は,筋電図を記録し,イメージ中に実際の筋活動は起こっていないことを確認した。電気刺激には,trio 300(伊藤超短波社製)を使用した。電極位置は,右手関節前面にて正中神経と尺骨神経部に貼付した。刺激強度は刺激を知覚できる最小強度の1.2倍,刺激周波数は10 Hz,パルス幅は100μsとし,10分間を持続的に通電した。電気刺激単独条件では,視覚入力を他の条件と統一するため,課題ビデオを同様に目視させ,かつ運動イメージは行わないよう教示した。
大脳皮質の可塑的変化の指標には,経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation:TMS)による運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)を用いた。TMSは,左一次運動野を刺激し,右上肢第一背側骨間筋からMEPを記録した。TMSの安静時運動閾値は,50μVのMEPが50%の確率で誘発される強度とした。評価は介入前(PRE),介入終了直後(POST0),介入終了から15分後(POST15)の3回行った。それぞれの評価で,TMSにて10回刺激しMEPを測定した。
データ解析は,MEPの最大振幅値の平均値を算出し,介入前の値との変化率にて比較した。先行研究(Yamaguchi et al. 2012)より,運動イメージと電気刺激を組み合わせることでMEPが増加するという仮説を持った。上記の仮説を検証するため,POST0およびPOST15において,条件間の比較を多重比較検定(Bonferroni法)にて実施した。有意確率は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理審査会の承認後,ヘルシンキ宣言に基づき,全対象者に研究内容を十分に説明し,書面にて同意を得た。
【結果】
介入前と比較しPOST0におけるMEPの変化率は,運動イメージと電気刺激の併用条件では1.40±0.24,運動イメージ単独条件では0.94±0.25,電気刺激単独条件では0.98±0.41であった。POST15においては併用条件では1.30±0.74,運動イメージ単独条件では1.19±0.45,電気刺激単独条件では0.94±0.45であった。多重比較検定の結果,運動イメージと電気刺激の併用条件において,それぞれの単独条件と比較し,介入直後で有意にMEPの増大を認めた(p<0.05)。しかし,POST15では,併用条件と運動イメージ単独条件(p=0.76),併用条件と電気刺激単独条件(p=0.23)で有意な差を認めなかった。
【考察】
本研究の結果から,運動イメージと電気刺激を組み合わせることにより,それぞれ単独条件と比較し介入終了直後に有意な大脳皮質興奮性の可塑的変化を誘導することが明らかとなった。運動イメージにより皮質興奮性が高まっている最中に,電気刺激による末梢から感覚入力が入力されることで,より大きな大脳皮質の可塑性が誘導されたと考えられる。一方で,運動イメージと電気刺激による皮質興奮性の増大は15分後には条件間で有意な差がなくなっていた。今回の実験では,10分間という短い時間の介入であったため,比較的短時間で介入の効果が消失したと考えられる。今後,より効果的な介入時間や電気刺激のパラメータを検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
運動イメージと電気刺激の組み合わせによる大脳皮質興奮性の可塑的変化を初めて明らかにした。今後,中枢神経疾患に対するリハビリテーションに応用するための基礎的研究として意義がある。