[0203] 温熱刺激によるステロイド筋症の進行抑制効果のメカニズムを探る
Keywords:ステロイド, 筋線維萎縮, 温熱刺激
【目的】
これまで我々は温熱刺激がステロイド筋症に及ぼす影響について検討してきた。その結果,温熱刺激によって筋線維萎縮の進行抑制効果が認められること,ならびにそのメカニズムにはHeat shock protein(Hsp)72の発現増加や毛細血管数の減少が抑制されることが関与することを明らかにしてきた。一方,先行研究ではHsp72の発現増加がubiquitin-proteasome system(UPS)の亢進を抑制し,筋タンパク質の分解を抑制するといわれており,温熱刺激によるステロイド筋症の進行抑制効果のメカニズムにもUPSの亢進抑制が関与している可能性がある。また,ステロイド投与に伴う骨格筋内の毛細血管数の減少が温熱刺激によって抑制されるメカニズムについては,血管新生促進因子が関与していると推測しているが,この点についても課題となっていた。そこで,本研究では筋特異的ユビキチンリガーゼであるMuRF1とatrogin-1ならびに血管新生促進因子であるVEGFとeNOSを追加検索し,温熱刺激によるステロイド筋症の進行抑制効果のメカニズムをさらに詳細に検討した。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット32匹を用い,ステロイドを投与するSteroid群(S群,n=10),ステロイド投与と温熱刺激の曝露を行うSteroid&Heat群(SH群,n=12),生理食塩水を投与するControl群(C群,n=10)の3群に無作為に振り分けた。ステロイド投与はリン酸デキサメタゾンナトリウムを傍脊柱に皮下注射(2mg/kg,6回/週)し,C群に対しては同様に生理食塩水を皮下注射した。また,温熱刺激は42℃に設定した温水浴内に後肢を60分間浸漬する方法(1回/3日)で行った。2週間の実験期間終了後は速筋線維主体の長指伸筋を採取し,以下の検索に供した。具体的には,組織化学的検索として凍結横断切片に対してATPase染色(pH4.5)とアルカリフォスファターゼ染色を施し,タイプI・IIa・IIb線維の平均筋線維直径と筋線維一本当たりの毛細血管数を計測した。生化学的検索としては,ELISA法でIGF-1含有量を,Western blot法でHsp72発現量を測定した。また,分子生物学的検索としてReal-Time PCR法を用い,MuRF1,atrogin-1,VEGF,eNOSのmRNA量を相対定量解析にて算出した。統計処理には一元配置分散分析とその事後検定にBonferroni法を用い,危険率5%未満をもって有意差を判定した。
【同意と説明】
本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に準じて実施した。
【結果】
各タイプの平均筋線維直径はS群がC群より有意に低値で,SH群はS群より有意に高値を示した。IGF-1含有量はS群とSH群がC群より有意に低値で,S群とSH群の間には有意差を認めなかった。また,Hsp72発現量はC群とS群の間には有意差を認めず,SH群はC群,SH群より有意に高値を示した。筋線維一本当たりの毛細血管数はS群がC群より有意に低値で,SH群はS群より有意に高値を示した。次に,MuRF1ならびにatrogin-1のmRNA量はいずれもS群がC群より有意に高値で,SH群はS群より有意に低値を示した。一方,VEGF mRNA量はS群とSH群がC群より有意に低値で,S群とSH群の間には有意差を認めなかった。さらに,eNOS mRNA量はC群とS群の間に有意差を認めなかったが,SH群はこの2群より有意に高値を示した。
【考察】
今回の結果,ステロイドを投与することで骨格筋内のIGF-1含有量が減少し,MuRF1,atrogin-1それぞれのmRNAの発現が増加するとともに,VEGFmRNAは発現が低下することが明らかとなった。つまり,ステロイド筋症における筋線維萎縮の発生には骨格筋内のIGF-1の減少とUPSの亢進に伴う筋タンパク質の分解促進が関与し,毛細血管数の減少はVEGFの発現低下が影響していると推察される。一方,ステロイド投与の過程で温熱刺激を暴露すると,Hsp72の発現増加とともにMuRF1やatrogin-1のmRNAの発現増加が抑制された。つまり,このことは温熱刺激によるHsp72の誘導がUPSの亢進抑制と,それに伴う筋タンパク質の分解抑制をもたらすことを示唆しており,その結果として,すべてのタイプで筋線維萎縮の進行が抑制されたのではないかと思われる。また,温熱刺激はVEGFmRNAの発現には影響を及ぼさないものの,eNOSmRNAには発現増加を引き起こしており,このことが,ステロイド投与に伴う骨格筋内の毛細血管数の減少が温熱刺激によって抑制されるメカニズムに関与していると推察される。加えて,筋線維サイズと毛細血管数には密接な関連があり,温熱刺激によって毛細血管数の減少が抑制された今回の結果は,筋線維萎縮の進行抑制効果にも影響していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は温熱刺激によるステロイド筋症の進行抑制効果のメカニズムの一端を明らかにしており,エビデンスに基づいた新たな治療戦略の開発の一助になると考える。
これまで我々は温熱刺激がステロイド筋症に及ぼす影響について検討してきた。その結果,温熱刺激によって筋線維萎縮の進行抑制効果が認められること,ならびにそのメカニズムにはHeat shock protein(Hsp)72の発現増加や毛細血管数の減少が抑制されることが関与することを明らかにしてきた。一方,先行研究ではHsp72の発現増加がubiquitin-proteasome system(UPS)の亢進を抑制し,筋タンパク質の分解を抑制するといわれており,温熱刺激によるステロイド筋症の進行抑制効果のメカニズムにもUPSの亢進抑制が関与している可能性がある。また,ステロイド投与に伴う骨格筋内の毛細血管数の減少が温熱刺激によって抑制されるメカニズムについては,血管新生促進因子が関与していると推測しているが,この点についても課題となっていた。そこで,本研究では筋特異的ユビキチンリガーゼであるMuRF1とatrogin-1ならびに血管新生促進因子であるVEGFとeNOSを追加検索し,温熱刺激によるステロイド筋症の進行抑制効果のメカニズムをさらに詳細に検討した。
【方法】
実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット32匹を用い,ステロイドを投与するSteroid群(S群,n=10),ステロイド投与と温熱刺激の曝露を行うSteroid&Heat群(SH群,n=12),生理食塩水を投与するControl群(C群,n=10)の3群に無作為に振り分けた。ステロイド投与はリン酸デキサメタゾンナトリウムを傍脊柱に皮下注射(2mg/kg,6回/週)し,C群に対しては同様に生理食塩水を皮下注射した。また,温熱刺激は42℃に設定した温水浴内に後肢を60分間浸漬する方法(1回/3日)で行った。2週間の実験期間終了後は速筋線維主体の長指伸筋を採取し,以下の検索に供した。具体的には,組織化学的検索として凍結横断切片に対してATPase染色(pH4.5)とアルカリフォスファターゼ染色を施し,タイプI・IIa・IIb線維の平均筋線維直径と筋線維一本当たりの毛細血管数を計測した。生化学的検索としては,ELISA法でIGF-1含有量を,Western blot法でHsp72発現量を測定した。また,分子生物学的検索としてReal-Time PCR法を用い,MuRF1,atrogin-1,VEGF,eNOSのmRNA量を相対定量解析にて算出した。統計処理には一元配置分散分析とその事後検定にBonferroni法を用い,危険率5%未満をもって有意差を判定した。
【同意と説明】
本実験は所属大学の動物実験委員会で承認を受けた後,同委員会が定める動物実験指針に準じて実施した。
【結果】
各タイプの平均筋線維直径はS群がC群より有意に低値で,SH群はS群より有意に高値を示した。IGF-1含有量はS群とSH群がC群より有意に低値で,S群とSH群の間には有意差を認めなかった。また,Hsp72発現量はC群とS群の間には有意差を認めず,SH群はC群,SH群より有意に高値を示した。筋線維一本当たりの毛細血管数はS群がC群より有意に低値で,SH群はS群より有意に高値を示した。次に,MuRF1ならびにatrogin-1のmRNA量はいずれもS群がC群より有意に高値で,SH群はS群より有意に低値を示した。一方,VEGF mRNA量はS群とSH群がC群より有意に低値で,S群とSH群の間には有意差を認めなかった。さらに,eNOS mRNA量はC群とS群の間に有意差を認めなかったが,SH群はこの2群より有意に高値を示した。
【考察】
今回の結果,ステロイドを投与することで骨格筋内のIGF-1含有量が減少し,MuRF1,atrogin-1それぞれのmRNAの発現が増加するとともに,VEGFmRNAは発現が低下することが明らかとなった。つまり,ステロイド筋症における筋線維萎縮の発生には骨格筋内のIGF-1の減少とUPSの亢進に伴う筋タンパク質の分解促進が関与し,毛細血管数の減少はVEGFの発現低下が影響していると推察される。一方,ステロイド投与の過程で温熱刺激を暴露すると,Hsp72の発現増加とともにMuRF1やatrogin-1のmRNAの発現増加が抑制された。つまり,このことは温熱刺激によるHsp72の誘導がUPSの亢進抑制と,それに伴う筋タンパク質の分解抑制をもたらすことを示唆しており,その結果として,すべてのタイプで筋線維萎縮の進行が抑制されたのではないかと思われる。また,温熱刺激はVEGFmRNAの発現には影響を及ぼさないものの,eNOSmRNAには発現増加を引き起こしており,このことが,ステロイド投与に伴う骨格筋内の毛細血管数の減少が温熱刺激によって抑制されるメカニズムに関与していると推察される。加えて,筋線維サイズと毛細血管数には密接な関連があり,温熱刺激によって毛細血管数の減少が抑制された今回の結果は,筋線維萎縮の進行抑制効果にも影響していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は温熱刺激によるステロイド筋症の進行抑制効果のメカニズムの一端を明らかにしており,エビデンスに基づいた新たな治療戦略の開発の一助になると考える。