[0228] 転移性脊椎腫瘍症例における離床リスク評価の検討
Keywords:転移性脊椎腫瘍, 離床判断, Spinal Instability Neoplastic Score
【はじめに,目的】
現在,転移性脊椎腫瘍症例の明確な離床基準は存在しない。ゆえに各病院および施設において,個別に対応を行っているのが現状である。また,転移性脊椎腫瘍症例のうち,5~20%の割合で脊髄圧迫を生じ,骨折や骨片の脊柱管への突出,硬膜内への転移による過程で起こるとされている。リハビリテーション(以下リハ)アプローチとして離床する際,脊髄圧迫リスクを把握することは重要と考える。2011年から2013年,当院では整形外科医以外からの転移性脊椎腫瘍症例の離床依頼に際し,整形外科医に離床判断を依頼した症例が存在した。その結果,主治医による病棟安静度の指示は制限なしであるにもかかわらず,整形外科医より離床延期の評価を受けた症例を多数経験した。この事実は,より適切な安静度の決定がなされなかった可能性を示唆していると考えた。本研究は,Spinal Instability Neoplastic Score(以下SINS)が,転移性脊椎腫瘍症例の離床リスクスクリーニング評価の一助となるか検討したので報告する。
【方法】
2011年4月から2013年9月までに,当院リハ科に座位・静止立位・立位動作を含んだ離床アプローチ依頼があり,離床判断を整形外科医に依頼した転移性脊椎腫瘍症例35例(男性20例,女性15例,平均年齢69.14±10.99歳)を対象とした。整形外科医の判断によって,離床時の装具装着を指示された症例を含む離床延期症例(以下A群)は19症例(男性11例,女性8例,平均年齢69.10±13.00歳)。離床許可症例(以下B群)は16症例(男性9例,女性7例,平均年齢69.18±8.43歳)であった。
A群とB群に対して,SINSの評価を行い,以下の項目を調査した。
①脊椎不安定性の可能性あり・外科的な処置を検討するといわれるSINSの点数7点で区分すると,A群とB群の関係には統計的な差は生じているのか
②A群とB群のSINS各項目にはどのような関係があったか
SINSの評価は,後方視的にカルテや画像所見を用いて,筆頭演者が行った。富士通社製Doctor Ableを用いて画像を評価した。評価に用いた画像は,リハ科依頼日の直近の画像を用いた。脊椎多発転移症例は,最もSINSの点数が高い椎体を採用した。罹患椎体の選定および骨病変の性状,そして脊椎亜脱臼・転位の評価に関しては,当院放射線科読影医コメントを参考にして,画像評価を行った。また椎体圧潰と脊椎アライメントの項ではCT画像を基本としながら,矢状面のレントゲン画像を参考にした。椎体圧潰度の評価は定量的評価法(QM法)を用いた。採用椎体の圧潰による脊椎後弯に関しては,椎体上縁と隣接椎体下縁との角度を評価した。側弯の評価は,cobb法を用いた。統計方法は,Fisher直接確率検定(P<0.05)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
①の結果は,A群の症例は有意にSINSが7点以上であり,B群の症例は7点未満であった。②の結果は,SINS各項目において,A群とB群を比較すると疼痛の有無,椎体圧潰の有無,そして後側方浸潤の有無の項目において有意差を認めた。その他の項目に有意差を認めなかった。
【考察】
SINSの点数7点以上は,脊椎不安定性の可能性があり,外科的な治療を検討すると定義されている。また我々は第18回日本緩和医療学会学術大会において,SINS7点以上の症例は有意に運動麻痺を認めた事を報告した。以上の事からSINS7点以上の症例は癌の脊椎転移が進んだ状態であり,SINS7点という点数によって症例選別を行うことは,一定の根拠があると考えられる。そして今回の結果より,SINSの点数が7点以上の症例は,離床する際には十分な検討が必要であり,慎重な対応が必要であると考えられた。さらにA群とB群のSINS各項目の比較において有意差を認めた項目は,病的骨折(椎体圧潰)を認める項目や,離床に際して注意すべき徴候としてあげられた過去の報告と一致する。以上より,SINSは転移性脊椎腫瘍症例の離床リスクに対するスクリーニングとしての有効性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
転移性脊椎腫瘍症例の離床リスクに対するスクリーニングの提案と有効性の検証
現在,転移性脊椎腫瘍症例の明確な離床基準は存在しない。ゆえに各病院および施設において,個別に対応を行っているのが現状である。また,転移性脊椎腫瘍症例のうち,5~20%の割合で脊髄圧迫を生じ,骨折や骨片の脊柱管への突出,硬膜内への転移による過程で起こるとされている。リハビリテーション(以下リハ)アプローチとして離床する際,脊髄圧迫リスクを把握することは重要と考える。2011年から2013年,当院では整形外科医以外からの転移性脊椎腫瘍症例の離床依頼に際し,整形外科医に離床判断を依頼した症例が存在した。その結果,主治医による病棟安静度の指示は制限なしであるにもかかわらず,整形外科医より離床延期の評価を受けた症例を多数経験した。この事実は,より適切な安静度の決定がなされなかった可能性を示唆していると考えた。本研究は,Spinal Instability Neoplastic Score(以下SINS)が,転移性脊椎腫瘍症例の離床リスクスクリーニング評価の一助となるか検討したので報告する。
【方法】
2011年4月から2013年9月までに,当院リハ科に座位・静止立位・立位動作を含んだ離床アプローチ依頼があり,離床判断を整形外科医に依頼した転移性脊椎腫瘍症例35例(男性20例,女性15例,平均年齢69.14±10.99歳)を対象とした。整形外科医の判断によって,離床時の装具装着を指示された症例を含む離床延期症例(以下A群)は19症例(男性11例,女性8例,平均年齢69.10±13.00歳)。離床許可症例(以下B群)は16症例(男性9例,女性7例,平均年齢69.18±8.43歳)であった。
A群とB群に対して,SINSの評価を行い,以下の項目を調査した。
①脊椎不安定性の可能性あり・外科的な処置を検討するといわれるSINSの点数7点で区分すると,A群とB群の関係には統計的な差は生じているのか
②A群とB群のSINS各項目にはどのような関係があったか
SINSの評価は,後方視的にカルテや画像所見を用いて,筆頭演者が行った。富士通社製Doctor Ableを用いて画像を評価した。評価に用いた画像は,リハ科依頼日の直近の画像を用いた。脊椎多発転移症例は,最もSINSの点数が高い椎体を採用した。罹患椎体の選定および骨病変の性状,そして脊椎亜脱臼・転位の評価に関しては,当院放射線科読影医コメントを参考にして,画像評価を行った。また椎体圧潰と脊椎アライメントの項ではCT画像を基本としながら,矢状面のレントゲン画像を参考にした。椎体圧潰度の評価は定量的評価法(QM法)を用いた。採用椎体の圧潰による脊椎後弯に関しては,椎体上縁と隣接椎体下縁との角度を評価した。側弯の評価は,cobb法を用いた。統計方法は,Fisher直接確率検定(P<0.05)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
①の結果は,A群の症例は有意にSINSが7点以上であり,B群の症例は7点未満であった。②の結果は,SINS各項目において,A群とB群を比較すると疼痛の有無,椎体圧潰の有無,そして後側方浸潤の有無の項目において有意差を認めた。その他の項目に有意差を認めなかった。
【考察】
SINSの点数7点以上は,脊椎不安定性の可能性があり,外科的な治療を検討すると定義されている。また我々は第18回日本緩和医療学会学術大会において,SINS7点以上の症例は有意に運動麻痺を認めた事を報告した。以上の事からSINS7点以上の症例は癌の脊椎転移が進んだ状態であり,SINS7点という点数によって症例選別を行うことは,一定の根拠があると考えられる。そして今回の結果より,SINSの点数が7点以上の症例は,離床する際には十分な検討が必要であり,慎重な対応が必要であると考えられた。さらにA群とB群のSINS各項目の比較において有意差を認めた項目は,病的骨折(椎体圧潰)を認める項目や,離床に際して注意すべき徴候としてあげられた過去の報告と一致する。以上より,SINSは転移性脊椎腫瘍症例の離床リスクに対するスクリーニングとしての有効性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
転移性脊椎腫瘍症例の離床リスクに対するスクリーニングの提案と有効性の検証