[0289] 片麻痺者の共同運動がtimed up and goに与える影響
キーワード:片麻痺, 共同運動, TUG
【はじめに】
脳血管障害後片麻痺者(以下,片麻痺者)は,皮質脊髄路からの下行性出力の減少や廃用性の筋萎縮などの原因により目的とした運動を行うことが困難となっている。片麻痺者では単関節の運動を他関節の運動と分離して行うことが出来ず,本来必要でない関節の運動が生じてしまうという異常な共同運動が観察される。異常な共同運動は,歩行や日常生活動作に悪影響すると捉えられることが多いことから,その関係を明らかにすることが重要であると考えられる。
共同運動を主動筋の働きに付随して生じるトルクとして捉え,主動筋によって発揮されるトルクをprimary torque(以下,PTo),それに付随して生じるトルクをsecondary torque(以下,STo)として測定し,共同運動を定量化する方法がある。この方法を用いて,これまでに,片麻痺者のPToは健常者よりも小さく,SToが生じないようトルク発揮を行わせるとPToが小さくなりやすいことが報告されている。このことから,随意トルクの低下を補うために共同運動が生じる神経機構を動員してトルク発揮を行っている結果,異常な共同運動が観察されていると推測された。しかし,SToと動作能力との関係は明らかになっていない。
【目的】
本研究では片麻痺者の共同運動の特徴を調べ,共同運動と動作能力との関係を明らかにすることを目的とした。随意トルクの低下を補うために共同運動を利用していれば,共同運動と動作能力に関係を認めると推測した。
【方法】
歩行可能な地域在住の片麻痺者13名(発症後期間76.4±72.3月,Brunnstrom Recovery StageIII3名,IV5名,V3名,VI2名,50.8±12.0歳,164.5±7.0cm,59.3±8.5kg)と健常者13名(51.1±9.6歳,169.0±6.3cm,67.6±10.9kg)を対象とした。
初めに,股関節伸展トルクを生じずに発揮できる足関節底屈トルク(PTo)と最大等尺性股関節伸展トルク発揮時に付随的に生じた足関節底屈トルク(STo)を測定した。PToとSToの測定には,短下肢装具の継手部分に付属したload cellでトルク測定が可能な装具型底屈トルク測定装置を用いた。対象者に背臥位をとらせ,大腿部の下部に設置した徒手筋力計で股関節伸展トルクも同時に測定した。PTo,STo計測中の腓腹筋とヒラメ筋,前脛骨筋の筋活動も表面筋電図で測定した。
次に,片麻痺者において,最大等尺性股関節伸展トルクを変化させ,最大の25%,50%,75%,100%発揮時に生じたSToを測定した。
最後に,片麻痺者において,10m歩行速度とtimed up and go(以下,TUG)を測定した。
足関節底屈トルクと筋活動における,PToとSToの違いをWilcoxonの符号付順位和検定を用いて調べた。次に,股関節伸展トルクの違いがSToに与える影響をFriedman検定と事後検定で調べた。最後に,従属変数を歩行速度もしくはTUG,独立変数をPToとSToとしたステップワイズ重回帰分析を行った。
【倫理的配慮】
本学医の倫理委員会の承認を得て行われ,口頭にて説明し,同意が得られた者を対象者とした。
【結果】
健常者ではSToよりPToが大きく,STo測定時よりPTo測定時で腓腹筋とヒラメ筋の筋活動が大きかったが,片麻痺者では差を認めなかった。また,股関節伸展トルク発揮に伴いSToが増加し,25%より50%,50%より100%でSToが大きかった。ステップワイズ重回帰分析により,TUGに影響する変数としてSToが抽出された。歩行速度に影響する変数は抽出されなかった。
【考察】
健常者は,足関節底屈筋を動員して共同運動よりも大きな選択的随意トルクを発揮することが可能であった。しかし,片麻痺者では,選択的に足関節底屈筋を動員して共同運動よりも大きな随意トルクを発揮することが困難であった。このことから,共同運動が大きく生じているからではなく,共同運動を生じずに随意トルクの発揮が困難であることが,片麻痺者の共同運動が異常に見える要因の1つと考えられた。SToは股関節伸展トルクの発揮に伴い増加したため,股関節伸展に伴う共同運動の特徴を反映していると考えられた。
今回,TUGに影響する変数としてSToが抽出されたことから,動作に必要なトルクを補完するために共同運動を利用している可能性が示唆された。
【結論】
片麻痺者の共同運動は,動作を阻害するというより,動作を補完している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,選択的随意トルクの発揮が困難な片麻痺者は,共同運動を用いて動作に必要なトルクを補完している場合があると考えられた。
脳血管障害後片麻痺者(以下,片麻痺者)は,皮質脊髄路からの下行性出力の減少や廃用性の筋萎縮などの原因により目的とした運動を行うことが困難となっている。片麻痺者では単関節の運動を他関節の運動と分離して行うことが出来ず,本来必要でない関節の運動が生じてしまうという異常な共同運動が観察される。異常な共同運動は,歩行や日常生活動作に悪影響すると捉えられることが多いことから,その関係を明らかにすることが重要であると考えられる。
共同運動を主動筋の働きに付随して生じるトルクとして捉え,主動筋によって発揮されるトルクをprimary torque(以下,PTo),それに付随して生じるトルクをsecondary torque(以下,STo)として測定し,共同運動を定量化する方法がある。この方法を用いて,これまでに,片麻痺者のPToは健常者よりも小さく,SToが生じないようトルク発揮を行わせるとPToが小さくなりやすいことが報告されている。このことから,随意トルクの低下を補うために共同運動が生じる神経機構を動員してトルク発揮を行っている結果,異常な共同運動が観察されていると推測された。しかし,SToと動作能力との関係は明らかになっていない。
【目的】
本研究では片麻痺者の共同運動の特徴を調べ,共同運動と動作能力との関係を明らかにすることを目的とした。随意トルクの低下を補うために共同運動を利用していれば,共同運動と動作能力に関係を認めると推測した。
【方法】
歩行可能な地域在住の片麻痺者13名(発症後期間76.4±72.3月,Brunnstrom Recovery StageIII3名,IV5名,V3名,VI2名,50.8±12.0歳,164.5±7.0cm,59.3±8.5kg)と健常者13名(51.1±9.6歳,169.0±6.3cm,67.6±10.9kg)を対象とした。
初めに,股関節伸展トルクを生じずに発揮できる足関節底屈トルク(PTo)と最大等尺性股関節伸展トルク発揮時に付随的に生じた足関節底屈トルク(STo)を測定した。PToとSToの測定には,短下肢装具の継手部分に付属したload cellでトルク測定が可能な装具型底屈トルク測定装置を用いた。対象者に背臥位をとらせ,大腿部の下部に設置した徒手筋力計で股関節伸展トルクも同時に測定した。PTo,STo計測中の腓腹筋とヒラメ筋,前脛骨筋の筋活動も表面筋電図で測定した。
次に,片麻痺者において,最大等尺性股関節伸展トルクを変化させ,最大の25%,50%,75%,100%発揮時に生じたSToを測定した。
最後に,片麻痺者において,10m歩行速度とtimed up and go(以下,TUG)を測定した。
足関節底屈トルクと筋活動における,PToとSToの違いをWilcoxonの符号付順位和検定を用いて調べた。次に,股関節伸展トルクの違いがSToに与える影響をFriedman検定と事後検定で調べた。最後に,従属変数を歩行速度もしくはTUG,独立変数をPToとSToとしたステップワイズ重回帰分析を行った。
【倫理的配慮】
本学医の倫理委員会の承認を得て行われ,口頭にて説明し,同意が得られた者を対象者とした。
【結果】
健常者ではSToよりPToが大きく,STo測定時よりPTo測定時で腓腹筋とヒラメ筋の筋活動が大きかったが,片麻痺者では差を認めなかった。また,股関節伸展トルク発揮に伴いSToが増加し,25%より50%,50%より100%でSToが大きかった。ステップワイズ重回帰分析により,TUGに影響する変数としてSToが抽出された。歩行速度に影響する変数は抽出されなかった。
【考察】
健常者は,足関節底屈筋を動員して共同運動よりも大きな選択的随意トルクを発揮することが可能であった。しかし,片麻痺者では,選択的に足関節底屈筋を動員して共同運動よりも大きな随意トルクを発揮することが困難であった。このことから,共同運動が大きく生じているからではなく,共同運動を生じずに随意トルクの発揮が困難であることが,片麻痺者の共同運動が異常に見える要因の1つと考えられた。SToは股関節伸展トルクの発揮に伴い増加したため,股関節伸展に伴う共同運動の特徴を反映していると考えられた。
今回,TUGに影響する変数としてSToが抽出されたことから,動作に必要なトルクを補完するために共同運動を利用している可能性が示唆された。
【結論】
片麻痺者の共同運動は,動作を阻害するというより,動作を補完している可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,選択的随意トルクの発揮が困難な片麻痺者は,共同運動を用いて動作に必要なトルクを補完している場合があると考えられた。