第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 教育・管理理学療法 口述

管理運営系1

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 第8会場 (4F 411+412)

座長:新井和博(亀田リハビリテーション病院リハビリテーション室)

教育・管理 口述

[0313] 筑波記念病院の入院部門における理学療法士によるインシデントの分析

内藤幾愛1,2, 斉藤秀之1, 柳久子2, 田中直樹1, 金森毅繁1, 長澤俊郎3, 小関迪4 (1.筑波記念病院リハビリテーション部, 2.筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻, 3.筑波記念病院血液内科, 4.つくば総合リハビリテーションセンター)

キーワード:理学療法士, インシデント, 医療安全

【はじめに,目的】公益財団法人日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業において,2007年年報で初めて「リハビリテーションに関連した医療事故」を取り上げ,19事例が報告された。2011年には竹内が1施設の42件のアクシデントについて報告した。今日までの報告は,内容の分類項目が統一されておらず,インシデントの影響度も明記されていないものが大多数である。鮎澤は,リスクマネジメントは科学的であり,事故の現状や傾向をデータとして把握し,エビデンスに基づいた再発防止策の策定を提唱している。当院リハビリテーション部においても,多種多様なインシデントが発生しているが,過去のインシデントから系統的な対策を講じるまでに至ってない。そこで,本研究の目的は,理学療法士による重大事故の予防の一助とするため,インシデント報告書の内容を分析して,影響度分類と内容の傾向を明らかにすることとした。
【方法】資料は,リハビリテーション部の日報と連結不可能匿名化された入院部門の理学療法士によるインシデント報告書を用いた。対象は,2008年4月1日から2013年3月31日の期間に発生したインシデントとした。当院は,介護老人保健施設と健康増進施設を併設しており,リハビリテーション部の職員は病院の入院部門と外来部門,介護老人保健施設,健康増進施設にそれぞれ配属され,毎年6月と12月に人事異動を行うローテートシステムをとっている。日報から,各ローテート期間の入院部門における理学療法士の配属人数と診療件数を抽出し,5年間の累計人数から理学療法士の各経験年数の割合を算出した。報告書からは,経験年数,発生内容,発生日時,発生場所を抽出して,記述統計を行った。全てのインシデント報告書の内容について国立大学付属病院医療安全管理協議会の定める影響度分類を用いて分類を行い,患者に何らかの傷害を与えたとされるレベル2以上を対象として,内容の分類を行った。分類項目は,リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドラインに明記されている“リハビリテーション中に起こりうるアクシデント”11項目に,「その他」を追加した全12項目とした。また,1事例に対する複数の報告を1件とみなし,発生件数をもとめた。さらに,レベル2以上のインシデント件数を延べ理学療法診療件数で除し,インシデント発生率を算出した。
【倫理的配慮】本研究は筑波大学医の倫理委員会にて承認を得ている(第730号)。
【結果】入院部門の理学療法士数は,5年間の平均で76.3±9.9人であった。経験年数別の割合は,1年目26.0%,2年目22.9%,3年目15.7%,4年目8.3%,5年目8.4%,6年目以上18.7%であった。総報告件数は182件であり,発生件数は172件であった。総報告件数182件における影響度分類の結果は,レベル0が24件,レベル1が52件,レベル2が61件,レベル3aが44件,レベル3bが1件であった。レベル2以上の報告には,重複報告は認めなかった。内容分類別の件数は,第1位が「転倒・転落・打撲・その他の外傷」66件,第2位が「接続チューブのはずれ」14件,第3位が「誤嚥・悪心・嘔吐」12件であった。「転倒・転落・打撲・その他の外傷」の内訳は,転倒・転落が42件,皮膚損傷が19件であった。転倒・転落の発生状況は,歩行練習中が42.9%,次いで移乗動作中14.3%であり,発生場所は病棟とリハビリテーション室ともに40.5%であった。皮膚損傷の発生状況は,移乗動作が73.7%であり,発生場所は病棟が78.9%を占めた。また,5年間の延べ理学療法診療件数は,436,682件であり,レベル2以上のインシデント発生率は0.02%であった。
【考察】医療事故情報等事業では,2009年1月から2013年3月の入院患者における理学療法士による報告は88件あり,レベル2以上は68件であった。そのうち,「転倒・転落・打撲・その他の外傷」は52件で第1位であり,今回の結果もこれを支持する結果であった。当院のリハビリテーション部では,病棟での移乗動作に伴う転倒・転落や皮膚損傷の発生リスクが高いことが推察され,予防のためにも臨床教育として十分に配慮が必要であると考えられる。また,理学療法の実施に伴うインシデント発生率は,理学療法の安全管理に関する研究を行う上で,1つの指標となり得るのではないかと考える。本研究の限界は,1施設のデータであることと,個人がインシデント報告を怠っている可能性である。
【理学療法学研究としての意義】理学療法士によるインシデントの内容や発生状況を明らかにすることは,重大事故の発生予防や技能教育内容を構築する一助となり,理学療法の安全性を向上させるためには重要と考える。