[0323] 超音波画像診断装置を用いた肩峰下における大結節通過時の肩甲上腕関節角度の検討
Keywords:超音波, 肩峰下インピンジメント, 挙上角度
【はじめに,目的】
腱板修復術後の症例では,疼痛の残存や再断裂が問題となることが多い。その要因として肩甲上腕関節(以下,GHJ)における拘縮や肩峰下インピンジメントがある。腱板修復術後のリハビリテーションにおいて,肩峰下インピンジメントに配慮した可動域練習を行うことは拘縮予防という観点から重要である。Sohierは肩関節の挙上角度が80°から120°で大結節が肩峰下を通過すると報告し,この範囲で肩峰下インピンジメントが生じやすいと述べている。術後早期の可動域練習において,大結節が肩峰下を通過する際に修復腱板に対する負荷が高まる可能性がある。しかしながら,大結節が肩峰下を通過する際のGHJにおける上肢挙上角度については不明な点が多い。腱板修復術後のリハビリテーションプロトコールは各施設によって異なっており,GHJの屈曲角度や外転角度の設定に統一した見解は得られていない。今回,臨床における他動可動域練習を想定し,用徒手的に肩甲骨を固定した状態でGHJの屈曲運動時と外転運動時に大結節が肩峰下を通過する上肢挙上角度を調べ,それぞれの角度に差があるかを検討した。
【対象と方法】
対象は,肩関節に整形外科疾患の既往がない健常人10名20肩(男性6名,女性4名)平均年齢22.5±6.5歳とした。対象の選定基準として,年齢は腱板断裂の可能性が低いとされる40歳未満とし,上肢挙上角度が160°以上可能であることと,Howkins testおよびNeer testが陰性であることとした。方法は,用徒手的に肩甲骨を固定した状態として,他動的に上肢を屈曲および外転させた。超音波画像診断装置を用いて,大結節が肩峰下を通過した時点での上肢挙上角度を計測した。上肢挙上角度の計測にはゴニオメーターを用い,超音波画像診断装置はEsaote社製MyLab25を用いた。超音波画像の描出方法は,プローブを短軸走査として大結節の上関節面と中関節面の移行部を確認し,大結節が肩峰の前方角の直下に来る位置に肩関節回旋角度を設定した。次に肩峰前方角と大結節の上関節面および中関節面の移行部を結ぶ線上にプローブを長軸走査とし,その延長線上で屈曲運動と外転運動をそれぞれ行った。屈曲と外転の運動を被験者1人につき3回ずつ順番をランダマイズして行い,各平均値を上肢屈曲角度および上肢外転角度の測定値とした。統計学的検定はWilcoxon符合順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うに際して,ヘルシンキ条約に基づき,被験者に対して研究の趣旨と意義を十分に説明した上で同意を得た。
【結果】
大結節が肩峰下を通過する上肢屈曲角度は68.2±4.5°であり,上肢外転角度は57.1±4.9°であった。Wilcoxon符号順位和検定による比較では,両群間に有意差が見られ,上肢屈曲角度が上肢外転角度に対して有意に大きかった(P<0.0001)。
【考察】
肩関節運動時の大結節が肩峰下を通過する方向についてSohierは,屈曲方向のAnterior passと外転方向のPostero-lateral passが存在すると報告している。また,肩峰下を通過する角度をrotational glideとして,上肢挙上80°から120°の範囲で大結節が肩峰下を通過するとし,一般に肩関節運動時の基礎的なデータとして参考とされている。本研究の結果はSohierの報告と比較して,屈曲角度,外転角度ともに低値となった。これは肩甲骨を用徒手的に固定したことでGHJでの肩関節角度を反映しているためと考えられた。本研究の結果から,大結節が肩峰下を通過する際の上肢挙上角度は屈曲角度が外転角度と比較して大きいことがわかった。これは矢状面における解剖学的な肩峰の位置が上腕骨頭の位置よりも後方にあることが要因として考えられる。今回の研究を通して,腱板修復術後の症例に対して,GHJでの他動運動を行う際に,屈曲は65°から70°,外転は55°から60°で修復腱板への負荷が高まる可能性が考えられた。また,術後早期の可動域練習はAnterior passを利用することで,より安全に行えると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
GHJにおける肩峰下インピンジメントについて,本研究における健常人の値は参考値として有用であり,今後腱板断裂症例と比較を行うことで,可動域練習時の術後リハビリテーションプロトコールに反映できるものと考える。
腱板修復術後の症例では,疼痛の残存や再断裂が問題となることが多い。その要因として肩甲上腕関節(以下,GHJ)における拘縮や肩峰下インピンジメントがある。腱板修復術後のリハビリテーションにおいて,肩峰下インピンジメントに配慮した可動域練習を行うことは拘縮予防という観点から重要である。Sohierは肩関節の挙上角度が80°から120°で大結節が肩峰下を通過すると報告し,この範囲で肩峰下インピンジメントが生じやすいと述べている。術後早期の可動域練習において,大結節が肩峰下を通過する際に修復腱板に対する負荷が高まる可能性がある。しかしながら,大結節が肩峰下を通過する際のGHJにおける上肢挙上角度については不明な点が多い。腱板修復術後のリハビリテーションプロトコールは各施設によって異なっており,GHJの屈曲角度や外転角度の設定に統一した見解は得られていない。今回,臨床における他動可動域練習を想定し,用徒手的に肩甲骨を固定した状態でGHJの屈曲運動時と外転運動時に大結節が肩峰下を通過する上肢挙上角度を調べ,それぞれの角度に差があるかを検討した。
【対象と方法】
対象は,肩関節に整形外科疾患の既往がない健常人10名20肩(男性6名,女性4名)平均年齢22.5±6.5歳とした。対象の選定基準として,年齢は腱板断裂の可能性が低いとされる40歳未満とし,上肢挙上角度が160°以上可能であることと,Howkins testおよびNeer testが陰性であることとした。方法は,用徒手的に肩甲骨を固定した状態として,他動的に上肢を屈曲および外転させた。超音波画像診断装置を用いて,大結節が肩峰下を通過した時点での上肢挙上角度を計測した。上肢挙上角度の計測にはゴニオメーターを用い,超音波画像診断装置はEsaote社製MyLab25を用いた。超音波画像の描出方法は,プローブを短軸走査として大結節の上関節面と中関節面の移行部を確認し,大結節が肩峰の前方角の直下に来る位置に肩関節回旋角度を設定した。次に肩峰前方角と大結節の上関節面および中関節面の移行部を結ぶ線上にプローブを長軸走査とし,その延長線上で屈曲運動と外転運動をそれぞれ行った。屈曲と外転の運動を被験者1人につき3回ずつ順番をランダマイズして行い,各平均値を上肢屈曲角度および上肢外転角度の測定値とした。統計学的検定はWilcoxon符合順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うに際して,ヘルシンキ条約に基づき,被験者に対して研究の趣旨と意義を十分に説明した上で同意を得た。
【結果】
大結節が肩峰下を通過する上肢屈曲角度は68.2±4.5°であり,上肢外転角度は57.1±4.9°であった。Wilcoxon符号順位和検定による比較では,両群間に有意差が見られ,上肢屈曲角度が上肢外転角度に対して有意に大きかった(P<0.0001)。
【考察】
肩関節運動時の大結節が肩峰下を通過する方向についてSohierは,屈曲方向のAnterior passと外転方向のPostero-lateral passが存在すると報告している。また,肩峰下を通過する角度をrotational glideとして,上肢挙上80°から120°の範囲で大結節が肩峰下を通過するとし,一般に肩関節運動時の基礎的なデータとして参考とされている。本研究の結果はSohierの報告と比較して,屈曲角度,外転角度ともに低値となった。これは肩甲骨を用徒手的に固定したことでGHJでの肩関節角度を反映しているためと考えられた。本研究の結果から,大結節が肩峰下を通過する際の上肢挙上角度は屈曲角度が外転角度と比較して大きいことがわかった。これは矢状面における解剖学的な肩峰の位置が上腕骨頭の位置よりも後方にあることが要因として考えられる。今回の研究を通して,腱板修復術後の症例に対して,GHJでの他動運動を行う際に,屈曲は65°から70°,外転は55°から60°で修復腱板への負荷が高まる可能性が考えられた。また,術後早期の可動域練習はAnterior passを利用することで,より安全に行えると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
GHJにおける肩峰下インピンジメントについて,本研究における健常人の値は参考値として有用であり,今後腱板断裂症例と比較を行うことで,可動域練習時の術後リハビリテーションプロトコールに反映できるものと考える。