[0324] 肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者を対象とした肩甲骨周囲筋の筋電図解析
Keywords:腱板断裂, 肩峰下インピンジメント, 肩甲骨周囲筋
【はじめに,目的】
腱板断裂患者における動作時痛の原因のひとつに肩峰下インピンジメントがある。肩峰下インピンジメントの誘発因子として,上肢挙上時における肩甲骨の上方回旋角度の減少が挙げられる。肩甲骨の上方回旋では,肩甲骨周囲筋の協調した活動が重要であり,これらの筋活動に不均衡が生じると上方回旋が阻害されると考えられている。そのため,腱板断裂患者では肩甲骨周囲筋に対する治療が重要視されている。しかし,肩峰下インピンジメント徴候を有する腱板断裂患者において肩甲骨周囲筋の活動がどのような問題を有しているのか明らかでなく,治療の指針となる具体的な知見も欠如している。そこで本研究では,肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者を対象として,上肢挙上時における肩甲骨周囲筋の活動特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
成人女性20名[腱板断裂患者8名(67±10.4歳),健常者12名(68±11.7歳)]を対象とした。腱板断裂患者は障害側,健常者は利き手側を対象側とした。腱板断裂患者の取り込み基準は1)棘上筋の不全断裂を有する,2)肩峰下インピンジメント徴候が陽性,3)自動上肢挙上可動域が120°以上とした。筋活動の計測機器は,無線筋電計マルチテレメータシステム(日本光電社製)を用いた。被験筋は,僧帽筋上部・僧帽筋下部・前鋸筋とした。測定肢位は端座位とし,測定位置は肩甲骨面上での挙上角度(30°,60°,90°,120°)とした。測定は検者が上肢を測定位置まで誘導し,等尺性収縮にて5秒間保持した。各施行後に休憩を取り計3回実施した。筋電図信号の処理は1000Hzにてデジタル変換後に,バンドパスフィルター(10-350Hz)にてフィルター処理を行い全波整流した。平滑化には,二乗平均平方根[(root mean square:RMS)(時定数100msec)]を用いて整流平滑化した。筋電図データは,一回の施行である5秒間のうち3秒間を解析対象とした。解析区間の筋電図データは平均振幅を用いた。筋電図の正規化は上肢挙上15°での測定値を基準として,測定角度4か所それぞれのデータを除して百分率(%)に変換した。統計処理は二元配置分散分析を実施し,事後検定としてTukey法による多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た。なお本研究は筆者が所属する施設に設置されている倫理委員会の承認を得ている。
【結果】
僧帽筋上部と前鋸筋の活動では,測定角度全てで有意差はみられなかった。僧帽筋下部の活動は,健常者が60°から筋活動の上昇が緩やかになったのに対して,腱板断裂患者は測定角度が高くなるに伴い筋活動が上昇し120°位で有意差を認めた(p<0.01)。
【考察】
肩峰下インピンジメント症候群単独の患者において,僧帽筋上部と僧帽筋下部の活動が亢進し,前鋸筋の活動は低下すると報告されている(Ludewig,2000)。それに対して,本研究の対象である肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者は,僧帽筋下部の活動亢進は共通してみられたが,僧帽筋上部の亢進と前鋸筋の活動低下はみられず異なる筋活動を示していた。Reddyら(2000)は肩峰下インピンジメント症候群単独の患者において三角筋や腱板筋群の筋活動が低下していると報告している。それに加え,腱板断裂患者では除痛された状態でも上肢挙上筋力が低下することが知られており(Itoi,1997),肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者は肩峰下インピンジメント症候群単独の患者よりも肩甲上腕関節の機能低下が大きいと考えられる。したがって,上肢挙上時における肩甲骨周囲筋の活動の違いは,肩甲上腕関節の機能低下を肩甲骨運動で代償するために起きている可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
肩峰下インピンジメント症候群において報告されている,肩甲骨の上方回旋を促す前鋸筋の筋力トレーニングが,肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者に対して効果的であるのか検討する必要がある。
腱板断裂患者における動作時痛の原因のひとつに肩峰下インピンジメントがある。肩峰下インピンジメントの誘発因子として,上肢挙上時における肩甲骨の上方回旋角度の減少が挙げられる。肩甲骨の上方回旋では,肩甲骨周囲筋の協調した活動が重要であり,これらの筋活動に不均衡が生じると上方回旋が阻害されると考えられている。そのため,腱板断裂患者では肩甲骨周囲筋に対する治療が重要視されている。しかし,肩峰下インピンジメント徴候を有する腱板断裂患者において肩甲骨周囲筋の活動がどのような問題を有しているのか明らかでなく,治療の指針となる具体的な知見も欠如している。そこで本研究では,肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者を対象として,上肢挙上時における肩甲骨周囲筋の活動特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
成人女性20名[腱板断裂患者8名(67±10.4歳),健常者12名(68±11.7歳)]を対象とした。腱板断裂患者は障害側,健常者は利き手側を対象側とした。腱板断裂患者の取り込み基準は1)棘上筋の不全断裂を有する,2)肩峰下インピンジメント徴候が陽性,3)自動上肢挙上可動域が120°以上とした。筋活動の計測機器は,無線筋電計マルチテレメータシステム(日本光電社製)を用いた。被験筋は,僧帽筋上部・僧帽筋下部・前鋸筋とした。測定肢位は端座位とし,測定位置は肩甲骨面上での挙上角度(30°,60°,90°,120°)とした。測定は検者が上肢を測定位置まで誘導し,等尺性収縮にて5秒間保持した。各施行後に休憩を取り計3回実施した。筋電図信号の処理は1000Hzにてデジタル変換後に,バンドパスフィルター(10-350Hz)にてフィルター処理を行い全波整流した。平滑化には,二乗平均平方根[(root mean square:RMS)(時定数100msec)]を用いて整流平滑化した。筋電図データは,一回の施行である5秒間のうち3秒間を解析対象とした。解析区間の筋電図データは平均振幅を用いた。筋電図の正規化は上肢挙上15°での測定値を基準として,測定角度4か所それぞれのデータを除して百分率(%)に変換した。統計処理は二元配置分散分析を実施し,事後検定としてTukey法による多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た。なお本研究は筆者が所属する施設に設置されている倫理委員会の承認を得ている。
【結果】
僧帽筋上部と前鋸筋の活動では,測定角度全てで有意差はみられなかった。僧帽筋下部の活動は,健常者が60°から筋活動の上昇が緩やかになったのに対して,腱板断裂患者は測定角度が高くなるに伴い筋活動が上昇し120°位で有意差を認めた(p<0.01)。
【考察】
肩峰下インピンジメント症候群単独の患者において,僧帽筋上部と僧帽筋下部の活動が亢進し,前鋸筋の活動は低下すると報告されている(Ludewig,2000)。それに対して,本研究の対象である肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者は,僧帽筋下部の活動亢進は共通してみられたが,僧帽筋上部の亢進と前鋸筋の活動低下はみられず異なる筋活動を示していた。Reddyら(2000)は肩峰下インピンジメント症候群単独の患者において三角筋や腱板筋群の筋活動が低下していると報告している。それに加え,腱板断裂患者では除痛された状態でも上肢挙上筋力が低下することが知られており(Itoi,1997),肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者は肩峰下インピンジメント症候群単独の患者よりも肩甲上腕関節の機能低下が大きいと考えられる。したがって,上肢挙上時における肩甲骨周囲筋の活動の違いは,肩甲上腕関節の機能低下を肩甲骨運動で代償するために起きている可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
肩峰下インピンジメント症候群において報告されている,肩甲骨の上方回旋を促す前鋸筋の筋力トレーニングが,肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者に対して効果的であるのか検討する必要がある。