[0355] 虚弱高齢者の日常生活動作能力の差異は理学療法プログラムの効果に差を生じさせるか?
~6ヵ月間の縦断的分析からの検証~
キーワード:地域在住高齢者, 日常生活活動動作, 機能的自立度評価表
【はじめに,目的】
近年,虚弱高齢者に対する健康支援事業は,個別型あるいは集団型,施設型あるいは地域型など様々の形態で実施されている。その中で,理学療法士が活躍する場面は,益々,増加傾向にあり,理学療法士の責務と社会的期待は大きくなっている。しかし,それら事業では,高齢者の機能的予後を予測,念頭においた理学療法(PT)プログラムが実施されていることは少なく,まだまだ画一的なもので提供されることが多い。
そこで,本研究の目的は,現有する日常生活動作(ADL)能力の高い虚弱高齢者と低い虚弱高齢者とでは,どちらがPTプログラムに対して奏効するかを,6か月間の縦断的分析から検証すること。
【方法】
研究デザインは,前向きコホート研究とした。セティングは,老人保健施設通所リハビリテーション部門とし,調査期間は平成24年1月から平成25年11月とした。対象者は,通所リハビリテーションにて理学療法実施中の地域在住虚弱高齢者30名(男性9名,女性21名,年齢81±6歳)とした。対象者の申請時介護度は,要支援が9名,要介護1が11名,要介護2が6名,要介護3が3名,要介護4が1名であった。
主要測定指標は,Functional Independence Measure(FIM)(合計)とし,説明測定指標は,FIM(運動),FIM(認知),握力,大腿四頭筋力体重比(%QF),上体起こし回数,長坐位体前屈,Functional Reach距離(FR),片脚立位時間,Timed up go時間(TUG),最速歩行時間,6分間歩行距離(6MWD),老研式活動能力指標とした。
研究のプロトコールは,理学療法初期評価時をベースラインとし,FIM(合計)118点以下を低ADL群(男性5名,女性10名,年齢83±5歳,FIM109±9点),119点以上を高ADL群(男性4名,女性11名,年齢80±7歳,FIM122±2点)の2群に分類した。そして,理学療法プログラム実施6か月後に再評価した。理学療法プログラムは,関節可動域トレーニング,筋力トレーニング,運動耐容能トレーニング,日常生活動作トレーニングを中心に実施した。統計学的分析方法は,ベースラインの2群の比較を対応のないt検定,経時的変化と2群の比較は,ベースラインで有意差が認められた指標を群と期間を要因とした分割プロットデザイン共分散分析,有意差が認められなかった指標を群と期間を要因とした分割プロットデザイン分散分析で分析した。多重比較検定はBonferroni法を用いて分析した。統計解析ソフトはSPSS(v20)を使用し,統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した。対象者への説明と同意の方法は,研究の概要,参加は任意であること,同意しなくても何ら不利益を受けないこと,同意後も常時撤回できること,撤回後も何ら不利益を受けないことを説明し,同意を得た。
【結果】
FIM(合計)は,期間の主効果(p=0.03),交互作用共に有意であり,6か月後で高ADL群が有意に高値であった(p=0.03)。%QFは,有意な期間の主効果は認めなかったものの,交互作用は有意であり,6か月後で高ADL群が有意に高値であった(p=0.04)。握力(p=0.03),長坐位体前屈(p=0.02),FR(p=0.004),TUG(p=0.005),最速歩行時間(p<0.001),6MWD(p=0.048),FIM(運動)(p=0.02)は有意な期間の主効果を認めたものの,有意な交互作用を認めなかった。MMSE,上体起こし回数,片脚立位時間,FIM(認知),老研式活動能力指標は,有意な期間の主効果,交互作用共に認めなかった。
【考察】
握力,長坐位体前屈,FR,TUG,最速歩行時間,6MWD,FIM(合計),FIM(運動)は,有意な期間の主効果を認めており,上肢筋力,柔軟性,動的バランス,瞬発的歩行能力,運動耐容能,ADLの改善にはPTプログラムは有効であるかもしれないが,それはベースラインのADLが高い,あるいは低いことには依存しない可能性が示唆された。FIM(全体合計),%QFは,高ADL群で6か月後に有意なPTプログラム効果が認められ,ADL,下肢筋力については,高いADLにある虚弱高齢者の方が,PTプログラムが奏効する可能性が示唆された。しかし,MMSE,上体起こし回数,片脚立位時間,FIM(認知)は,PTプログラムが有効でない可能性が示唆され,これら指標の改善には,多職種による包括的支援,家族の協力や社会資源の活用など多角的なアプローチが必要ではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,現有するADL能力の差異による6か月間のPTプログラムの効果について客観的に分析することができ,そのことはほとんどの能力に差を生じさせないことが判明した。また,PTプログラムの有効性,PTプログラムのみでは奏効しない能力について提言することができた。
近年,虚弱高齢者に対する健康支援事業は,個別型あるいは集団型,施設型あるいは地域型など様々の形態で実施されている。その中で,理学療法士が活躍する場面は,益々,増加傾向にあり,理学療法士の責務と社会的期待は大きくなっている。しかし,それら事業では,高齢者の機能的予後を予測,念頭においた理学療法(PT)プログラムが実施されていることは少なく,まだまだ画一的なもので提供されることが多い。
そこで,本研究の目的は,現有する日常生活動作(ADL)能力の高い虚弱高齢者と低い虚弱高齢者とでは,どちらがPTプログラムに対して奏効するかを,6か月間の縦断的分析から検証すること。
【方法】
研究デザインは,前向きコホート研究とした。セティングは,老人保健施設通所リハビリテーション部門とし,調査期間は平成24年1月から平成25年11月とした。対象者は,通所リハビリテーションにて理学療法実施中の地域在住虚弱高齢者30名(男性9名,女性21名,年齢81±6歳)とした。対象者の申請時介護度は,要支援が9名,要介護1が11名,要介護2が6名,要介護3が3名,要介護4が1名であった。
主要測定指標は,Functional Independence Measure(FIM)(合計)とし,説明測定指標は,FIM(運動),FIM(認知),握力,大腿四頭筋力体重比(%QF),上体起こし回数,長坐位体前屈,Functional Reach距離(FR),片脚立位時間,Timed up go時間(TUG),最速歩行時間,6分間歩行距離(6MWD),老研式活動能力指標とした。
研究のプロトコールは,理学療法初期評価時をベースラインとし,FIM(合計)118点以下を低ADL群(男性5名,女性10名,年齢83±5歳,FIM109±9点),119点以上を高ADL群(男性4名,女性11名,年齢80±7歳,FIM122±2点)の2群に分類した。そして,理学療法プログラム実施6か月後に再評価した。理学療法プログラムは,関節可動域トレーニング,筋力トレーニング,運動耐容能トレーニング,日常生活動作トレーニングを中心に実施した。統計学的分析方法は,ベースラインの2群の比較を対応のないt検定,経時的変化と2群の比較は,ベースラインで有意差が認められた指標を群と期間を要因とした分割プロットデザイン共分散分析,有意差が認められなかった指標を群と期間を要因とした分割プロットデザイン分散分析で分析した。多重比較検定はBonferroni法を用いて分析した。統計解析ソフトはSPSS(v20)を使用し,統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した。対象者への説明と同意の方法は,研究の概要,参加は任意であること,同意しなくても何ら不利益を受けないこと,同意後も常時撤回できること,撤回後も何ら不利益を受けないことを説明し,同意を得た。
【結果】
FIM(合計)は,期間の主効果(p=0.03),交互作用共に有意であり,6か月後で高ADL群が有意に高値であった(p=0.03)。%QFは,有意な期間の主効果は認めなかったものの,交互作用は有意であり,6か月後で高ADL群が有意に高値であった(p=0.04)。握力(p=0.03),長坐位体前屈(p=0.02),FR(p=0.004),TUG(p=0.005),最速歩行時間(p<0.001),6MWD(p=0.048),FIM(運動)(p=0.02)は有意な期間の主効果を認めたものの,有意な交互作用を認めなかった。MMSE,上体起こし回数,片脚立位時間,FIM(認知),老研式活動能力指標は,有意な期間の主効果,交互作用共に認めなかった。
【考察】
握力,長坐位体前屈,FR,TUG,最速歩行時間,6MWD,FIM(合計),FIM(運動)は,有意な期間の主効果を認めており,上肢筋力,柔軟性,動的バランス,瞬発的歩行能力,運動耐容能,ADLの改善にはPTプログラムは有効であるかもしれないが,それはベースラインのADLが高い,あるいは低いことには依存しない可能性が示唆された。FIM(全体合計),%QFは,高ADL群で6か月後に有意なPTプログラム効果が認められ,ADL,下肢筋力については,高いADLにある虚弱高齢者の方が,PTプログラムが奏効する可能性が示唆された。しかし,MMSE,上体起こし回数,片脚立位時間,FIM(認知)は,PTプログラムが有効でない可能性が示唆され,これら指標の改善には,多職種による包括的支援,家族の協力や社会資源の活用など多角的なアプローチが必要ではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,現有するADL能力の差異による6か月間のPTプログラムの効果について客観的に分析することができ,そのことはほとんどの能力に差を生じさせないことが判明した。また,PTプログラムの有効性,PTプログラムのみでは奏効しない能力について提言することができた。