第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 教育・管理理学療法 ポスター

臨床教育系4

2014年5月30日(金) 14:25 〜 15:15 ポスター会場 (教育・管理)

座長:平野孝行(名古屋学院大学リハビリテーション学部理学療法学科)

教育・管理 ポスター

[0366] 卒前教育から職場適応に至るまでの連続性の検討

矢澤浩成1, 米澤久幸1, 宮本靖義1, 武田明2, 福田信吾2, 藤部百代3 (1.中部大学生命健康科学部理学療法学科, 2.中部大学生命健康科学部臨床工学科, 3.国立病院機構東尾張病院)

キーワード:質的研究, 職場適応, アンケート

【はじめに,目的】
医療専門職の養成過程を卒業した新人が臨床現場で適応していくことは,医療の進歩や社会の変遷とともに努力を要するものになっている。我々は2009年より卒後1年目の新人に対し,臨床適応力や臨床実習のあり方を検討する目的で質的事例研究を継続して行っている。今回,我々は新人の職場適応に注目し,質的事例研究を根拠とするアンケート作成を試みたので,その過程とアンケート内容について報告する。
【方法】
本研究は作業療法士,臨床工学技士,理学療法士の有資格者6名で行った。
はじめに我々が行った質的事例研究の方法について説明する。対象は卒後1年目の作業療法士,臨床工学技士,理学療法士の合計16名であった。最初に半構造化形式の個人面接を行った。主な面接内容は,(1)職場の状況,(2)臨床実習の体験,(3)学生時代に必要だと思うこと,(4)臨床実習に必要だと思うこと,とした。次に録音した面接内容を書き起こし,質的研究方法であるグラウンデッドセオリーに基づいて分析(断片化・コード化・図式化)後,文章化した。
今回我々は,医療専門職の新人が職場適応していくまでの状況や因子等を調査するためのアンケートについて,上記の事例研究から得られた結果を基盤として作成することとした。アンケート作成は以下の過程で行った。1.事例研究の結果から,卒前と卒後の比較という観点でキーワードを抽出する。2.各事例に共通または特徴的な概念を分析し,調査の軸となる概念に絞り込んでまとめる。3.概念ごとのアンケート項目および質問形式を構成する。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,研究者の所属機関における倫理委員会に承認を得た後に実施した。なお事例研究の対象者には研究内容の説明を口頭および紙面上にて行い,同意を得た上で研究に参加してもらった。
【結果】
アンケート作成の過程ごとに結果を示す。
1.事例研究結果より「患者さんと接することは楽しい」,「実習では積極性が足りなかった」,「上司とうまくいかない」,「勉強不足を感じている」など,52のキーワードが抽出され,各キーワードを15項目に分類した。
2.各事例を複数名で振り返りながら分類したキーワードを客観的に分析した結果,「励み」・「社会性」・「ギャップ」・「人間関係」・「レポート」の5つの概念に絞り込まれた。さらに5つの概念ごとに必要に応じて各事例に立ち戻ることを繰り返し,事例研究の分析結果やアンケートで聞き取りたい内容について,KJ法を用いて図式化した。
3.図式化を元に5つの概念の中で職場適応に関わる「励み」と「社会性」からアンケートを構成した。
「励み」に関するアンケート項目は,(1)現在,自覚的に職場適応が出来ているかどうか,(2)実習を含めた学生時代をどのように過ごし,どのような励みがあったか,(3)現在の仕事における励みはどのようなものか,を問う項目とし,Visual Analog Scaleにて程度を判定する内容とした。
「社会性」に関するアンケート項目は,(1)マナーや生活態度,(2)仕事での書類作成や計画,(3)主体性や積極性など,(4)チームワークや意見調整,を問う項目とし,学生時代にできていたことと現在出来ていることを比較する内容とした。
なお「ギャップ」・「人間関係」・「レポート」について,「励み」と「社会性」のアンケート項目に重なる内容は,「励み」と「社会性」に関するアンケート項目に内容を盛り込んだ。
【考察】
質的研究はある現象そのものを見つめる場合,仮説を持っていないものが対象となるとき,あるいは予測はあっても数値で結果をだせないものなど対して用いられ,量的研究はすでに多くの研究がなされている研究で,仮説を持った検証のための研究が行われる場合に用いられる(土蔵,2012)。今回の研究は質的研究から量的研究であるアンケートへ内容を落とし込む過程である。
我々の質的事例研究では,適切な時期に卒前を振り返ることで卒前教育改善の糸口が得られ,語りにより自身の課題に気づくことで,職場適応の手がかりとなることが示唆された。その質的研究結果を根拠とすることで有効性の高いアンケートが作成でき,因子間の関わりをアンケートによる量的指標で分析することで,職場適応における課題や問題点が明確となると考える。
今後は新人の医療専門職に対してアンケート調査を実施し,卒前教育と職場適応との連続性や職種による特徴などについて検討を行う予定である。
【理学療法学研究としての意義】
職場適応に関連する因子等を明らかにすることで,臨床実習を含めた卒前教育の目標がより明確となる。それにより養成課程が充実することと,卒業までに高い職場適応力を身につけるための一助となることが期待できる。