[0382] 片麻痺患者における体幹筋群の安静時および収縮時筋厚について
キーワード:片麻痺, 体幹筋群, 超音波診断装置
【はじめに,目的】
片麻痺患者の座位・立位姿勢は,前額面上で左右非対称であることが多く見受けられる。左右非対称の姿勢を取り続けることで,腰痛症をはじめ,消化器系の活動低下など,さまざまな二次的障害が引き起こされることが報告されている。体幹筋群の左右差に関する研究では,針筋電を用いた筋電図学的研究や,MRIやCTなどを用いた形態学的研究はあるものの,体幹機能の左右差に関する見解は一致していない。また,過去の体幹筋群に関する研究では,安静時のみの測定がほとんどであり,筋収縮時の測定は散見する程度である。さらに,それらの研究では,主に針筋電が使用され,侵襲的リスクと対象者への負担が懸念される。一方,近年では,非侵襲的に筋機能を評価するためのツールとして,超音波診断装置(以下,UDE)が多く用いられ,数多くの研究が報告されている。
そこで,本研究の目的は,UDEを用いて,片麻痺患者における体幹筋群の安静時および収縮時筋厚に左右差があるかを明らかにすることとした。さらに,体幹筋群の筋厚について,片麻痺患者群と健常者群を比較し,片麻痺による体幹筋群への影響を明らかにすることとした。
【方法】
対象者は,N病院回復期病棟に入院している片麻痺患者8名(男性6名,女性2名,平均年齢66.8±11.5歳)と,一般健常者10名(男性4名,女性6名,平均年齢65.3±8.4歳)とした。対象筋は,外腹斜筋(以下,EOA),内腹斜筋(以下,IOA),腹横筋(以下,TrA),大腰筋(以下,PM)の4筋とした。データ解析には,各筋の安静時および収縮時筋厚と,これらを用いて算出した,筋収縮率(収縮時筋厚/安静時筋厚×100)を指標とした。安静時筋厚の測定は,2条件設定し,腹筋群に対しては,安静背臥位で前腋窩線と臍高位の交点にて測定し,PMに対しては安静腹臥位で第4腰椎棘突起より10cm側方の位置にて安静時筋厚を測定した。収縮時筋厚の測定のための運動課題も2条件設定し,腹筋群に対しては安静時筋厚を測定した安静背臥位から腹部引き込み動作を行わせ,PMに対しては安静時筋厚を測定した安静腹臥位から等尺性の股関節屈曲運動を行わせ,収縮時筋厚を測定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当施設の倫理委員会の承認を得たうえで,全対象者には,本研究の趣旨を説明し,同意を得て行った。
【結果】
片麻痺患者における腹筋群の安静時筋厚は,3筋とも統計学的な左右差を認めなかった。一方,PMでは,収縮時筋厚(p<0.05)と筋収縮率(p<0.05)において,いずれも非麻痺側が有意に高かった。片麻痺患者群と健常者群の比較では,非麻痺側と利き側の比較において,安静時筋厚ではTrA(p<0.01)とPM(p<0.05),収縮時筋厚ではTrA(p<0.05)において,健常者群が片麻痺患者群よりも有意に高かった。また,麻痺側と非利き側の比較では,安静時筋厚ではTrA(p<0.01)とPM(p<0.01),収縮時筋厚ではTrA(p<0.05)とPM(p<0.01),筋収縮率ではPM(p<0.05)において,健常者群が片麻痺患者群よりも有意に高かった。
【考察】
本研究の結果から,片麻痺患者における体幹筋群の機能は,左右差を呈す可能性は低く,その要因として,神経学的および解剖学的要因が考えられた。体幹筋群は,脳からの2重神経支配であるため,一側性の脳損傷であれば,その影響は左右で偏らないと考えられる。また,体幹筋群は腹直筋鞘や胸腰筋膜などの膜構造への付着であるため,一側の収縮は対側の収縮の影響を受けると考えられる。そのため,仮に機能不全が一側性であった場合でも,両側の筋収縮力は低下し,左右差を呈す可能性は低くなると考えた。一方,PMでは,収縮時筋厚と筋収縮率において,麻痺側の筋厚は非麻痺側よりも有意に小さく,脳からの一側性神経支配であることが要因であると考えた。
片麻痺患者群と健常者群の体幹筋群を比較した結果,体幹深層部筋であるTrAとPMにおいて,体幹の両側とも片麻痺患者群が有意に小さかった。片麻痺患者は,循環不全などによる深層部筋の活動が得られにくく,表層部筋の過活動によって,体幹深層部筋は二次的な廃用性筋萎縮を呈すことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,片麻痺患者における体幹筋群の機能について,左右差を呈す可能性は低いという見解と,体幹深層部筋は廃用性筋萎縮を呈しているという見解を見出すことができた。体幹深層部筋へのアプローチが重要であることを再認識できたことは,理学療法学において大変意義のある研究と考えられる。
片麻痺患者の座位・立位姿勢は,前額面上で左右非対称であることが多く見受けられる。左右非対称の姿勢を取り続けることで,腰痛症をはじめ,消化器系の活動低下など,さまざまな二次的障害が引き起こされることが報告されている。体幹筋群の左右差に関する研究では,針筋電を用いた筋電図学的研究や,MRIやCTなどを用いた形態学的研究はあるものの,体幹機能の左右差に関する見解は一致していない。また,過去の体幹筋群に関する研究では,安静時のみの測定がほとんどであり,筋収縮時の測定は散見する程度である。さらに,それらの研究では,主に針筋電が使用され,侵襲的リスクと対象者への負担が懸念される。一方,近年では,非侵襲的に筋機能を評価するためのツールとして,超音波診断装置(以下,UDE)が多く用いられ,数多くの研究が報告されている。
そこで,本研究の目的は,UDEを用いて,片麻痺患者における体幹筋群の安静時および収縮時筋厚に左右差があるかを明らかにすることとした。さらに,体幹筋群の筋厚について,片麻痺患者群と健常者群を比較し,片麻痺による体幹筋群への影響を明らかにすることとした。
【方法】
対象者は,N病院回復期病棟に入院している片麻痺患者8名(男性6名,女性2名,平均年齢66.8±11.5歳)と,一般健常者10名(男性4名,女性6名,平均年齢65.3±8.4歳)とした。対象筋は,外腹斜筋(以下,EOA),内腹斜筋(以下,IOA),腹横筋(以下,TrA),大腰筋(以下,PM)の4筋とした。データ解析には,各筋の安静時および収縮時筋厚と,これらを用いて算出した,筋収縮率(収縮時筋厚/安静時筋厚×100)を指標とした。安静時筋厚の測定は,2条件設定し,腹筋群に対しては,安静背臥位で前腋窩線と臍高位の交点にて測定し,PMに対しては安静腹臥位で第4腰椎棘突起より10cm側方の位置にて安静時筋厚を測定した。収縮時筋厚の測定のための運動課題も2条件設定し,腹筋群に対しては安静時筋厚を測定した安静背臥位から腹部引き込み動作を行わせ,PMに対しては安静時筋厚を測定した安静腹臥位から等尺性の股関節屈曲運動を行わせ,収縮時筋厚を測定した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当施設の倫理委員会の承認を得たうえで,全対象者には,本研究の趣旨を説明し,同意を得て行った。
【結果】
片麻痺患者における腹筋群の安静時筋厚は,3筋とも統計学的な左右差を認めなかった。一方,PMでは,収縮時筋厚(p<0.05)と筋収縮率(p<0.05)において,いずれも非麻痺側が有意に高かった。片麻痺患者群と健常者群の比較では,非麻痺側と利き側の比較において,安静時筋厚ではTrA(p<0.01)とPM(p<0.05),収縮時筋厚ではTrA(p<0.05)において,健常者群が片麻痺患者群よりも有意に高かった。また,麻痺側と非利き側の比較では,安静時筋厚ではTrA(p<0.01)とPM(p<0.01),収縮時筋厚ではTrA(p<0.05)とPM(p<0.01),筋収縮率ではPM(p<0.05)において,健常者群が片麻痺患者群よりも有意に高かった。
【考察】
本研究の結果から,片麻痺患者における体幹筋群の機能は,左右差を呈す可能性は低く,その要因として,神経学的および解剖学的要因が考えられた。体幹筋群は,脳からの2重神経支配であるため,一側性の脳損傷であれば,その影響は左右で偏らないと考えられる。また,体幹筋群は腹直筋鞘や胸腰筋膜などの膜構造への付着であるため,一側の収縮は対側の収縮の影響を受けると考えられる。そのため,仮に機能不全が一側性であった場合でも,両側の筋収縮力は低下し,左右差を呈す可能性は低くなると考えた。一方,PMでは,収縮時筋厚と筋収縮率において,麻痺側の筋厚は非麻痺側よりも有意に小さく,脳からの一側性神経支配であることが要因であると考えた。
片麻痺患者群と健常者群の体幹筋群を比較した結果,体幹深層部筋であるTrAとPMにおいて,体幹の両側とも片麻痺患者群が有意に小さかった。片麻痺患者は,循環不全などによる深層部筋の活動が得られにくく,表層部筋の過活動によって,体幹深層部筋は二次的な廃用性筋萎縮を呈すことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,片麻痺患者における体幹筋群の機能について,左右差を呈す可能性は低いという見解と,体幹深層部筋は廃用性筋萎縮を呈しているという見解を見出すことができた。体幹深層部筋へのアプローチが重要であることを再認識できたことは,理学療法学において大変意義のある研究と考えられる。