第49回日本理学療法学術大会

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運動制御・運動学習

2014年5月30日(金) 15:20 〜 17:05 第3会場 (3F 301)

座長:坂本年将(神戸学院大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻), 金子文成(北海道公立大学法人札幌医科大学保健医療学部理学療法学科)

基礎 セレクション

[0390] 運動視刺激を用いたボトムアップおよびトップダウン的注意喚起が脳波活動に及ぼす影響

辻本憲吾1,2, 中野英樹1,3,4, 大住倫弘1, 森岡周1 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室, 2.榊原白鳳病院, 3.Queensland Brain Institute, The University of Queensland, 4.日本学術振興会特別研究員)

キーワード:運動視, 注意, 脳波

【はじめに,目的】
半側空間無視患者に対するリハビリテーションとして,トップダウンおよびボトムアップ的アプローチがある。なかでも,運動視刺激を用いたボトムアップ的アプローチは,半側空間無視を軽減させることが明らかにされている(Plumer, 2006)。この運動視刺激を用いたボトムアップ的処理過程にはWhen経路が関与することが明らかにされており(Batteli, 2007),これは第一次視覚野からMiddle Temporal(MT野)・Middle Superior Temporal(MST野)を経由し,下頭頂小葉に運動視情報が入力される経路である。しかしながら,このボトムアップ的処理過程には対象の能動的注意,いわゆるトップダウン的注意が影響を及ぼすことが考えられるが,この点に関しては十分に明らかにされていない。これを明らかにすることにより,半側空間無視患者に対する運動視刺激による注意喚起を用いたアプローチが可能になると考える。そこで本研究では,運動視刺激におけるボトムアップおよびトップダウン的な注意喚起がWhen経路の脳波活動に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人12名(男性8名,女性4名),平均年齢25.5±1.8歳とした。被験者は座位姿勢にて頭部および眼球を動かさずに80 cm前方のディスプレイを注視した。実験課題は安静,注意あり,注意なしの3条件とした。安静条件では,ディスプレイ上に注視点が3秒間出現した後,静止した20個の黒点が3秒間出現した。注意あり条件と注意なし条件では,ディスプレイ上に注視点が3秒間出現した後,無造作に動く20個の黒点が3秒間出現した。なお,注意あり条件では黒点の数を数えてもらい,注意なし条件では黒点の数を数えずに黒点を注視するように教示した。脳波の測定には,高機能デジタル脳波計Active Two System(Biosemi社製)を用い,64 ch,サンプリング周波数512 Hzにて記録した。脳波の解析にはEMSE Suiteを使用し,Common average reference,Band pass(30~70 Hz)にて波形処理を行った。右第一次視覚野に相当する領域の10~70 ms成分,右MT・MSTに相当する領域の150~200 ms成分,右下頭頂小葉に相当する領域の200~250 ms成分,右背側前頭前野に相当する領域である500~600 ms成分の波形を抽出し,パワースペクトラム解析を行った。各波形から30~70 Hz(γ周波数帯域)のパワー値を算出し,一元配置分散分析ならびに多重比較試験(Bonferroni検定)を実施した。有意水準は全て5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した。全ての対象者に対して本研究の目的と内容,利益とリスク,個人情報の保護および参加の拒否と撤回について十分に説明を行った後に参加合意に対して自筆による署名を得た。なお,本研究は当大学の研究倫理委員会の承認を得て実施した(H25-7)。
【結果】
背外側前頭前野領域では,安静および注意なし条件と比較して,注意あり条件においてパワー値の有意な増加を認めた(p<0.05)。MT野・MST野領域では,安静条件と比較して,注意ありおよび注意なし条件でパワー値の有意な増加を認めた(p<0.05)。下頭頂小葉領域では,安静条件と比較して,注意ありおよび注意なし条件にてパワー値の有意な増加を認め(p<0.05),そのパワー値の増加は注意なし条件より注意あり条件が有意に大きかった(p<0.05)。
【考察】
背外側前頭前野と下頭頂小葉領域において,安静および注意なし条件と比較して,注意あり条件でパワー値の有意な増加を認めた。背側注意ネットワークは視覚的なトップダウン的注意に関係していることが報告されている(Tseng, 2013)。このことから,注意喚起の影響により背外側前頭前野が刺激に先行して活動し,トップダウン的注意によって下頭頂小葉の活動を増加させたことが考えられる。本研究結果は,動く物体を見ているだけでもWhen経路は活動するが,能動的注意を喚起することによりWhen経路の活動はさらに増加することを示唆した。
【理学療法学研究としての意義】
半側空間無視の一要因として,背側注意ネットワークの損傷が報告されている(Bartolomeo, 2007)。本研究結果より,半側空間無視患者に対する運動視刺激を用いたアプローチでは,運動視刺激を単に提示するのみでなく,その刺激に対して能動的な注意を喚起させるほうが背側注意ネットワークをより活性化させ,半側空間無視の改善につながる可能性が考えられた。