[0423] PTの臨床判断による転倒予測
キーワード:臨床判断, 転倒予測, テキストマイニング
【はじめに,目的】
Timed “Up&Go”(以下TUG)Test,Functional Reach(以下FR),Berg Balance Scale(以下BBS)などを使用した転倒予測だけでなく,clinical judgment(以下臨床判断)の有効性が看護領域で報告されている。しかしPT領域での報告は少ない。第48回理学療法学術大会にて,PTの臨床判断による転倒予測の確かさについて,臨床経験による違いをTUG遂行時の高齢者映像を用いた量的研究から検討した。その結果,臨床経験が10年以上熟練することで,予測が確かとなることを示唆した。本研究は,臨床判断の基盤となる転倒予測の視点が,臨床経験によってどのような違いがあるか,質的研究から検討することを目的とした。
【方法】
対象は,臨床経験10年目以上のPT15名(以下「10年目以上」群),5~9年目のPT43名(以下「5-9年目」群),3~4年目のPT34名(以下「3-4年目」群),1~2年目のPT46名(以下「1-2年目」群),PT養成校に在籍する3,4年生32名(以下「学生」群)である。データ収集は,5~30名程度の集団毎に行った。使用した映像は,先行研究で用いた9名のTUG遂行映像であり,前額面,矢状面の順に,パソコン上の操作によりプロジェクターを通して映写した。被験者は,Visual Analogue Scaleを使用して,「転倒の危険性が非常に高い~転倒の危険性が全くない」で転倒予測を行った後,転倒予測の判断根拠について自由記述を行った。自由記述データの内容については,KH Coder(Ver.2)を使用してテキストマイニングを行い,特徴語の抽出と共起ネットワーク,対応分析の結果から検討した。特徴語は,臨床経験別に出現頻度が高く特徴的に使用された上位10個の言語を抽出した。共起ネットワークは,共起の程度が強い語を線で結び図式化した。対応分析は「抽出語×文章」の2元データをもとに,2次元の散布図として図示するものであり,出現パターンが似通ったものは近くに布置され,逆に出現パターンが異なるものは遠くに布置される。
【倫理的配慮,説明と同意】
筑波大学大学院人間総合科学研究科研究倫理委員会の承認を得て実施した(記番号23-6)。
【結果】
分析対象となった文章数は2,867文であった。分析の結果,総抽出語数は27,291語,うち異なり語数は1,673語であった。1,673語のうち,言語的内容の分析上で意味を有さない品詞(助詞,助動詞)を除外したことで,分析対象語数は1,431語となった。頻出する複合語は,言葉の意味を理解しやすくする目的で強制抽出するよう設定した。臨床経験別の出現頻度の高い特徴語は,各群ともに,TUGを構成する相に関する記述が上位を占めた。「学生」群の特徴として,「スムーズ」,「上手い」など抽象的な記述が多く,具体的な動作の異常に関する記述が少なかった。「1-2年目」群,「3-4年目」群,「5-9年目」群では「問題なし」が上位を占め,「重心」や「クリアランス」,「性急」などの記述がみられた。「10年目以上」群では,「問題なし」の記述がなく,「歩幅」,「狭い」,「不安定」,「性急」など具体的な動作の問題を示す記述が多かった。共起ネットワークも同様の結果を示し,「10年目以上」群では,「歩行」,「歩幅」との共起関係が強く,ついで「着座」,「立ち上がり」が強かった。それらに「不十分」,「足」,「立ち上がる」,「性急」,「狭い」,「安定」が共起しており,歩行の特性を示す多様な言葉との共起が多いのが特徴であった。対応分析の結果は,「1-2年目」群,「3-4年目」群,「5-9年目」群が比較的まとまった位置にあり,「学生」群と「10年目以上」群が,それぞれ他群から大きく離れて布置された。
【考察】
対応分析の結果は,「10年目以上」群の臨床判断による転倒予測の基盤となる視点が,他群とは大きく異なることを示唆するものである。特徴語,共起ネットワークの結果,「10年目以上」群の記述する内容が多様であることから,臨床経験を積むことで,転倒予測の基盤となる視点が多様化・具体化すると考える。10年以上の臨床経験を積むことで,多様な視点を習得し,また幅広い視点の中で患者の状態を評価することで,転倒危険の判断をより正確に行えるようになる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,臨床経験10年以上のPTの臨床判断による転倒予測の有用性を示唆するものである。また臨床経験による差を埋めるための臨床教育の必要性を示唆するものと考える。
Timed “Up&Go”(以下TUG)Test,Functional Reach(以下FR),Berg Balance Scale(以下BBS)などを使用した転倒予測だけでなく,clinical judgment(以下臨床判断)の有効性が看護領域で報告されている。しかしPT領域での報告は少ない。第48回理学療法学術大会にて,PTの臨床判断による転倒予測の確かさについて,臨床経験による違いをTUG遂行時の高齢者映像を用いた量的研究から検討した。その結果,臨床経験が10年以上熟練することで,予測が確かとなることを示唆した。本研究は,臨床判断の基盤となる転倒予測の視点が,臨床経験によってどのような違いがあるか,質的研究から検討することを目的とした。
【方法】
対象は,臨床経験10年目以上のPT15名(以下「10年目以上」群),5~9年目のPT43名(以下「5-9年目」群),3~4年目のPT34名(以下「3-4年目」群),1~2年目のPT46名(以下「1-2年目」群),PT養成校に在籍する3,4年生32名(以下「学生」群)である。データ収集は,5~30名程度の集団毎に行った。使用した映像は,先行研究で用いた9名のTUG遂行映像であり,前額面,矢状面の順に,パソコン上の操作によりプロジェクターを通して映写した。被験者は,Visual Analogue Scaleを使用して,「転倒の危険性が非常に高い~転倒の危険性が全くない」で転倒予測を行った後,転倒予測の判断根拠について自由記述を行った。自由記述データの内容については,KH Coder(Ver.2)を使用してテキストマイニングを行い,特徴語の抽出と共起ネットワーク,対応分析の結果から検討した。特徴語は,臨床経験別に出現頻度が高く特徴的に使用された上位10個の言語を抽出した。共起ネットワークは,共起の程度が強い語を線で結び図式化した。対応分析は「抽出語×文章」の2元データをもとに,2次元の散布図として図示するものであり,出現パターンが似通ったものは近くに布置され,逆に出現パターンが異なるものは遠くに布置される。
【倫理的配慮,説明と同意】
筑波大学大学院人間総合科学研究科研究倫理委員会の承認を得て実施した(記番号23-6)。
【結果】
分析対象となった文章数は2,867文であった。分析の結果,総抽出語数は27,291語,うち異なり語数は1,673語であった。1,673語のうち,言語的内容の分析上で意味を有さない品詞(助詞,助動詞)を除外したことで,分析対象語数は1,431語となった。頻出する複合語は,言葉の意味を理解しやすくする目的で強制抽出するよう設定した。臨床経験別の出現頻度の高い特徴語は,各群ともに,TUGを構成する相に関する記述が上位を占めた。「学生」群の特徴として,「スムーズ」,「上手い」など抽象的な記述が多く,具体的な動作の異常に関する記述が少なかった。「1-2年目」群,「3-4年目」群,「5-9年目」群では「問題なし」が上位を占め,「重心」や「クリアランス」,「性急」などの記述がみられた。「10年目以上」群では,「問題なし」の記述がなく,「歩幅」,「狭い」,「不安定」,「性急」など具体的な動作の問題を示す記述が多かった。共起ネットワークも同様の結果を示し,「10年目以上」群では,「歩行」,「歩幅」との共起関係が強く,ついで「着座」,「立ち上がり」が強かった。それらに「不十分」,「足」,「立ち上がる」,「性急」,「狭い」,「安定」が共起しており,歩行の特性を示す多様な言葉との共起が多いのが特徴であった。対応分析の結果は,「1-2年目」群,「3-4年目」群,「5-9年目」群が比較的まとまった位置にあり,「学生」群と「10年目以上」群が,それぞれ他群から大きく離れて布置された。
【考察】
対応分析の結果は,「10年目以上」群の臨床判断による転倒予測の基盤となる視点が,他群とは大きく異なることを示唆するものである。特徴語,共起ネットワークの結果,「10年目以上」群の記述する内容が多様であることから,臨床経験を積むことで,転倒予測の基盤となる視点が多様化・具体化すると考える。10年以上の臨床経験を積むことで,多様な視点を習得し,また幅広い視点の中で患者の状態を評価することで,転倒危険の判断をより正確に行えるようになる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,臨床経験10年以上のPTの臨床判断による転倒予測の有用性を示唆するものである。また臨床経験による差を埋めるための臨床教育の必要性を示唆するものと考える。