[0539] 下腿周径が安静時脈拍数に及ぼす影響
キーワード:下腿周径, 安静時脈拍数, 遅筋
【はじめに,目的】
世界保健機関(WHO)によると,脳血管疾患の51%,虚血性心疾患の45%が高血圧に起因する。また安静時心拍数の増加は高血圧,心血管イベントの発症に関与する。したがって安静時血圧,心拍数に影響を与える因子を把握することは,脳心血管系疾患の発症を予防できる可能性がある。骨格筋の遅筋線維の割合と安静時血圧には有意な負の相関関係があり,また毛細血管数の減少が安静時血圧,心拍数を上昇させるとし,遅筋線維と毛細血管数の減少が安静時血圧,心拍数に影響を与えることが推測される。筋線維組成の判別や測定には筋生検法などが実施されるが,侵襲的かつ技術を伴うものであり,臨床現場での汎用性が低いのが現状である。下腿三頭筋は,腓腹筋とヒラメ筋から構成されており,ヒラメ筋の約90%は遅筋線維が占め,また遅筋線維の毛細血管数は,速筋に比べ多い。そこで我々の先行研究(2013)で下腿周径の増減が安静時脈拍数に影響を与えるかについて地域在住の高齢者19名を対象に予備研究を実施した。結果として下腿周径と安静時脈拍数には有意な負の相関関係を認めた。そこで今回対象者数を増やし,関連因子を考慮した解析も含め下腿周径の減少が安静時脈拍数を増加させるか再検討したため報告する。
【方法】
対象は,地域在住の高齢者63名とした(男性;20名,女性;43名,年齢;76±5.6歳,身長;149.6±8.1cm,体重;49.3±8.6kg,Body Mass Index;21.9±2.4kg/m2)。下腿部に骨折の既往がある,強い浮腫が存在する者は測定から除外した。下腿最大周径の測定は,西田ら(2010)によると,下腿長(腓骨頭下端から外果中央までの距離)を100%とした場合に,腓骨頭下端から26%部位が下腿の最大周囲径に相当すると報告されている。そこで腓骨頭下端から26%部位における周囲径をテープメジャーにより測定し下腿最大周径とした。測定肢位は,足底を接地した椅子座位で股関節,膝関節90°屈曲位,足関節底背屈0°とした。収縮期血圧,拡張期血圧は安静5分後,自動血圧計(HEM-907,オムロンヘルスケア)を用いて左上肢にて測定した。測定は2回とし,2回の平均値を用いた。収縮期血圧,拡張期血圧より平均血圧,脈圧も算出した。脈拍数については,左橈骨動脈にて徒手で1分間測定した。統計解析は,血圧(収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,脈圧),脈拍数と下腿周径の関係性をPearsonの積率相関分析を用いて検討した。次に年齢,性別,身長,体重を調整変数とし重回帰分析(Stepwise Method)を実施した。有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には口頭および紙面で研究内容を十分に説明し,研究の同意を得た。
【結果】
下腿周径と収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,脈圧には有意な相関関係が見られなかった(p>0.05)。一方で下腿周径と安静時脈拍数には有意な負の相関関係を認め(r=-0.33,p<0.05),下腿周径の減少は,安静時脈拍数を上昇させる結果となった。また重回帰分析(Stepwise Method)において年齢,性別,身長,体重で調整した後も,下腿周径は安静時脈拍数の独立した因子として抽出された(β=-0.33,95%CI;-2.885~-0.462,p<0.05)。
【考察】
今回,予備研究と同様に下腿周径と血圧には関連性を認めなかったが,下腿周径の減少は年齢,性別,体格で調整した後も,独立して安静時脈拍数の増加をもたらす因子であることが明らかになった。下腿三頭筋の筋量は,底屈筋群の約73%を占め,中でもヒラメ筋は底屈筋群の約41%に相当するため,下腿周径の測定がヒラメ筋量を反映する可能性が高いことが推測される。したがって,ヒラメ筋量が低下することで下腿周径が減少した結果,安静時脈拍数が増加したのではないかと考えられる。しかし本研究ではMRI,超音波によるヒラメ筋の横断面積や筋厚を測定していないため直接的なヒラメ筋の関与については言及できない。今後は安静時脈拍数に影響を与える要因について検討していく必要がある。下腿周径と血圧に関連性を認めなかった原因として,血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の積で表され両者の変動により規定される。循環血液量,心拍数,心収縮力,血液の粘性,動脈壁の弾性などの影響を受けるため,脈拍数に対して多要因の影響を受け下腿周径と関連が見られなかったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
筋線維組成の測定は臨床現場で簡便に実施することは困難である。しかし下腿周径はテープメジャーにより非侵襲的かつ簡便に理学療法士でも測定できる。したがって下腿周径が安静時脈拍数の独立した影響因子であることを明らかにしたことで,臨床現場また地域支援事業における体力測定などでスクリーニング検査として実施でき,脳心血管系疾患の発症の予防に寄与できる可能性が示唆された。
世界保健機関(WHO)によると,脳血管疾患の51%,虚血性心疾患の45%が高血圧に起因する。また安静時心拍数の増加は高血圧,心血管イベントの発症に関与する。したがって安静時血圧,心拍数に影響を与える因子を把握することは,脳心血管系疾患の発症を予防できる可能性がある。骨格筋の遅筋線維の割合と安静時血圧には有意な負の相関関係があり,また毛細血管数の減少が安静時血圧,心拍数を上昇させるとし,遅筋線維と毛細血管数の減少が安静時血圧,心拍数に影響を与えることが推測される。筋線維組成の判別や測定には筋生検法などが実施されるが,侵襲的かつ技術を伴うものであり,臨床現場での汎用性が低いのが現状である。下腿三頭筋は,腓腹筋とヒラメ筋から構成されており,ヒラメ筋の約90%は遅筋線維が占め,また遅筋線維の毛細血管数は,速筋に比べ多い。そこで我々の先行研究(2013)で下腿周径の増減が安静時脈拍数に影響を与えるかについて地域在住の高齢者19名を対象に予備研究を実施した。結果として下腿周径と安静時脈拍数には有意な負の相関関係を認めた。そこで今回対象者数を増やし,関連因子を考慮した解析も含め下腿周径の減少が安静時脈拍数を増加させるか再検討したため報告する。
【方法】
対象は,地域在住の高齢者63名とした(男性;20名,女性;43名,年齢;76±5.6歳,身長;149.6±8.1cm,体重;49.3±8.6kg,Body Mass Index;21.9±2.4kg/m2)。下腿部に骨折の既往がある,強い浮腫が存在する者は測定から除外した。下腿最大周径の測定は,西田ら(2010)によると,下腿長(腓骨頭下端から外果中央までの距離)を100%とした場合に,腓骨頭下端から26%部位が下腿の最大周囲径に相当すると報告されている。そこで腓骨頭下端から26%部位における周囲径をテープメジャーにより測定し下腿最大周径とした。測定肢位は,足底を接地した椅子座位で股関節,膝関節90°屈曲位,足関節底背屈0°とした。収縮期血圧,拡張期血圧は安静5分後,自動血圧計(HEM-907,オムロンヘルスケア)を用いて左上肢にて測定した。測定は2回とし,2回の平均値を用いた。収縮期血圧,拡張期血圧より平均血圧,脈圧も算出した。脈拍数については,左橈骨動脈にて徒手で1分間測定した。統計解析は,血圧(収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,脈圧),脈拍数と下腿周径の関係性をPearsonの積率相関分析を用いて検討した。次に年齢,性別,身長,体重を調整変数とし重回帰分析(Stepwise Method)を実施した。有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には口頭および紙面で研究内容を十分に説明し,研究の同意を得た。
【結果】
下腿周径と収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,脈圧には有意な相関関係が見られなかった(p>0.05)。一方で下腿周径と安静時脈拍数には有意な負の相関関係を認め(r=-0.33,p<0.05),下腿周径の減少は,安静時脈拍数を上昇させる結果となった。また重回帰分析(Stepwise Method)において年齢,性別,身長,体重で調整した後も,下腿周径は安静時脈拍数の独立した因子として抽出された(β=-0.33,95%CI;-2.885~-0.462,p<0.05)。
【考察】
今回,予備研究と同様に下腿周径と血圧には関連性を認めなかったが,下腿周径の減少は年齢,性別,体格で調整した後も,独立して安静時脈拍数の増加をもたらす因子であることが明らかになった。下腿三頭筋の筋量は,底屈筋群の約73%を占め,中でもヒラメ筋は底屈筋群の約41%に相当するため,下腿周径の測定がヒラメ筋量を反映する可能性が高いことが推測される。したがって,ヒラメ筋量が低下することで下腿周径が減少した結果,安静時脈拍数が増加したのではないかと考えられる。しかし本研究ではMRI,超音波によるヒラメ筋の横断面積や筋厚を測定していないため直接的なヒラメ筋の関与については言及できない。今後は安静時脈拍数に影響を与える要因について検討していく必要がある。下腿周径と血圧に関連性を認めなかった原因として,血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の積で表され両者の変動により規定される。循環血液量,心拍数,心収縮力,血液の粘性,動脈壁の弾性などの影響を受けるため,脈拍数に対して多要因の影響を受け下腿周径と関連が見られなかったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
筋線維組成の測定は臨床現場で簡便に実施することは困難である。しかし下腿周径はテープメジャーにより非侵襲的かつ簡便に理学療法士でも測定できる。したがって下腿周径が安静時脈拍数の独立した影響因子であることを明らかにしたことで,臨床現場また地域支援事業における体力測定などでスクリーニング検査として実施でき,脳心血管系疾患の発症の予防に寄与できる可能性が示唆された。