[0576] 異なる時期における中枢神経傷害モデル動物を用いた運動機能代償機構の行動学的・組織学的検討
キーワード:中枢神経傷害, 運動代償機構, 皮質脊髄路
【はじめに,目的】
現在,中枢神経傷害に対するリハビリテーションの回復メカニズムについて,基礎研究・臨床研究から数多く報告されている。我々が携わっている小児理学療法領域における脳傷害児は,成人期脳傷害患者と比較すると高い運動機能回復を示す。実際にモデル動物を用いた基礎研究においても,新生仔期脳傷害モデル動物の方が成獣期モデル動物に比べ高い運動機能回復を示す事が行動学的に報告されている。しかし,行動学的検討と大脳皮質運動関連領域での組織学的検討を組み合わせて,新生仔群と成獣群の運動機能代償機構の比較検討をした報告は見当たらない。
そこで本研究では左大脳皮質吸引除去術を異なる時期に施行したモデルマウスを作製し,運動機能代償機構の違いを明らかにするために行動学的・組織学的評価を用いて検討した。
【方法】
本研究では生後7日齢(NBI群)および生後2-3ヶ月齢(ABI群)マウス(C57/BL6j)を用いた。ABI群では,ブレグマより尾側3 mmかつ外側3 mmの位置から,NBI群では尾側2 mmかつ外側2 mmの位置から前頭極へかけて左大脳皮質感覚運動領域(SMC)を吸引除去した。傷害モデル評価としては,肉眼解剖学的評価,大脳皮質冠状切片のNissl染色および頸髄冠状切片にて皮質脊髄路を特異的に染色するPKCγ染色を行い確認した。
両群とも術後1,2,3ヶ月の時点で,行動学的評価としてラダー歩行試験を行った。全長60 cmの距離に対して直径1 cmの棒を2 cm間隔に規則的に配置し,そこを歩行している状態を右前肢のみに着目してビデオ撮影し,総ステップ数に対するステップ失敗数をカウントし失敗率を算出した。
行動学的評価実施後,右前肢の支配領域である右第5-6頸髄に4% FluoroGoldを1 µl注入し同部位に投射している右大脳皮質脊髄ニューロンを逆行性に標識した。注入後1週間で4%パラフォルムアルデヒトにて潅流固定を行い,脳脊髄を剖出し20%スクロースにて氷晶防止処置を行った。そして脳脊髄の凍結包埋後,前頭極から頸髄まで40 µmの連続冠状切片を作製し,右大脳皮質における皮質脊髄標識ニューロン数をカウントした。
得られたデータはNBI群,ABI群の順で平均値±標準誤差で示す。統計学的解析は,行動学的評価にはMann-Whitney U testを用い,組織学的評価にはKruskal-Wallis test,Scheffe’s methodを用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,動物実験委員会の承認を得て実施した。
【結果】
NBI群およびABI群とも傷害後3ヶ月での剖出時の肉眼解剖学的評価では,左SMCを含む大脳皮質が広範囲に傷害され,同部位での冠状切片におけるNissl染色でも,左SMC欠損が確認された。さらに左SMCを起源とする右皮質脊髄路が傷害されているか確認するため,頸髄に対してPKCγ染色を実施した。その結果,右皮質脊髄路が広範囲に消失している事が確認された。
行動学的実験において,右前肢の失敗率は術後1ヶ月:22.8±1.3,45.6±2.9,術後2ヶ月:17.2±1.1,39.3±2.9,術後3ヶ月:12.8±1.1,36.9±3.2であり,両群とも運動機能の回復が認められたものの,全期間ともNBI群の失敗率がABI群よりも有意に低値を示した。
逆行性トレーサー投与実験では,ブレグマより吻側2 mmの標識細胞数が688.7±140.7,189±72.7,ブレグマより吻側1 mmでは773.1±104.1,260.4±32.7,右SMC全体では4339.9±211.8,3288.6±199.6であり,NBI群において有意に多くの標識ニューロンが観察された。
【考察】
本研究より,NBI群において右SMC,特にブレグマより吻側領域にて右頸髄に投射している皮質脊髄ニューロン数が有意に多く標識された。この事が行動学的結果におけるNBI群の高い運動回復メカニズムに関与している事が示唆された。この領域はげっ歯類では吻側前肢運動領域(RFA)が含まれ,人における前頭前野・補足運動野に相当する場所として考えられている。この領域に有意に多く標識ニューロンが存在した理由として,1)成獣期中枢神経傷害後に示唆されている側枝発芽現象,2)新生仔期に一過性に出現するニューロンのアポトーシス回避,3)軸索の軸索刈り込み現象からの回避により,傷害された運動領域の代償的役割の一旦を担っているのではないかと考えられた。この事がABI群よりもNBI群で高い運動機能回復につながっているのではないかと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
新生仔期および成獣期脳傷害からの運動機能回復機構の異なる現象を基礎研究より明らかにした。それにより,RFAでの代償機構が新生仔期脳傷害からの高い運動機能回復に影響を及ぼしている可能性が強く示唆された。我々は今後,これら運動領域間の代償メカニズムの違い,発達過程と成熟期での代償メカニズムの違いを明らかにする事で,効率的リハビリテーションの確立に貢献できると考えている。
現在,中枢神経傷害に対するリハビリテーションの回復メカニズムについて,基礎研究・臨床研究から数多く報告されている。我々が携わっている小児理学療法領域における脳傷害児は,成人期脳傷害患者と比較すると高い運動機能回復を示す。実際にモデル動物を用いた基礎研究においても,新生仔期脳傷害モデル動物の方が成獣期モデル動物に比べ高い運動機能回復を示す事が行動学的に報告されている。しかし,行動学的検討と大脳皮質運動関連領域での組織学的検討を組み合わせて,新生仔群と成獣群の運動機能代償機構の比較検討をした報告は見当たらない。
そこで本研究では左大脳皮質吸引除去術を異なる時期に施行したモデルマウスを作製し,運動機能代償機構の違いを明らかにするために行動学的・組織学的評価を用いて検討した。
【方法】
本研究では生後7日齢(NBI群)および生後2-3ヶ月齢(ABI群)マウス(C57/BL6j)を用いた。ABI群では,ブレグマより尾側3 mmかつ外側3 mmの位置から,NBI群では尾側2 mmかつ外側2 mmの位置から前頭極へかけて左大脳皮質感覚運動領域(SMC)を吸引除去した。傷害モデル評価としては,肉眼解剖学的評価,大脳皮質冠状切片のNissl染色および頸髄冠状切片にて皮質脊髄路を特異的に染色するPKCγ染色を行い確認した。
両群とも術後1,2,3ヶ月の時点で,行動学的評価としてラダー歩行試験を行った。全長60 cmの距離に対して直径1 cmの棒を2 cm間隔に規則的に配置し,そこを歩行している状態を右前肢のみに着目してビデオ撮影し,総ステップ数に対するステップ失敗数をカウントし失敗率を算出した。
行動学的評価実施後,右前肢の支配領域である右第5-6頸髄に4% FluoroGoldを1 µl注入し同部位に投射している右大脳皮質脊髄ニューロンを逆行性に標識した。注入後1週間で4%パラフォルムアルデヒトにて潅流固定を行い,脳脊髄を剖出し20%スクロースにて氷晶防止処置を行った。そして脳脊髄の凍結包埋後,前頭極から頸髄まで40 µmの連続冠状切片を作製し,右大脳皮質における皮質脊髄標識ニューロン数をカウントした。
得られたデータはNBI群,ABI群の順で平均値±標準誤差で示す。統計学的解析は,行動学的評価にはMann-Whitney U testを用い,組織学的評価にはKruskal-Wallis test,Scheffe’s methodを用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,動物実験委員会の承認を得て実施した。
【結果】
NBI群およびABI群とも傷害後3ヶ月での剖出時の肉眼解剖学的評価では,左SMCを含む大脳皮質が広範囲に傷害され,同部位での冠状切片におけるNissl染色でも,左SMC欠損が確認された。さらに左SMCを起源とする右皮質脊髄路が傷害されているか確認するため,頸髄に対してPKCγ染色を実施した。その結果,右皮質脊髄路が広範囲に消失している事が確認された。
行動学的実験において,右前肢の失敗率は術後1ヶ月:22.8±1.3,45.6±2.9,術後2ヶ月:17.2±1.1,39.3±2.9,術後3ヶ月:12.8±1.1,36.9±3.2であり,両群とも運動機能の回復が認められたものの,全期間ともNBI群の失敗率がABI群よりも有意に低値を示した。
逆行性トレーサー投与実験では,ブレグマより吻側2 mmの標識細胞数が688.7±140.7,189±72.7,ブレグマより吻側1 mmでは773.1±104.1,260.4±32.7,右SMC全体では4339.9±211.8,3288.6±199.6であり,NBI群において有意に多くの標識ニューロンが観察された。
【考察】
本研究より,NBI群において右SMC,特にブレグマより吻側領域にて右頸髄に投射している皮質脊髄ニューロン数が有意に多く標識された。この事が行動学的結果におけるNBI群の高い運動回復メカニズムに関与している事が示唆された。この領域はげっ歯類では吻側前肢運動領域(RFA)が含まれ,人における前頭前野・補足運動野に相当する場所として考えられている。この領域に有意に多く標識ニューロンが存在した理由として,1)成獣期中枢神経傷害後に示唆されている側枝発芽現象,2)新生仔期に一過性に出現するニューロンのアポトーシス回避,3)軸索の軸索刈り込み現象からの回避により,傷害された運動領域の代償的役割の一旦を担っているのではないかと考えられた。この事がABI群よりもNBI群で高い運動機能回復につながっているのではないかと考えている。
【理学療法学研究としての意義】
新生仔期および成獣期脳傷害からの運動機能回復機構の異なる現象を基礎研究より明らかにした。それにより,RFAでの代償機構が新生仔期脳傷害からの高い運動機能回復に影響を及ぼしている可能性が強く示唆された。我々は今後,これら運動領域間の代償メカニズムの違い,発達過程と成熟期での代償メカニズムの違いを明らかにする事で,効率的リハビリテーションの確立に貢献できると考えている。