第49回日本理学療法学術大会

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人体構造・機能情報学

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:55 第4会場 (3F 302)

座長:石田和人(名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻), 沖田実(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科運動障害リハビリテーション学分野)

基礎 セレクション

[0581] 不動化に伴う疼痛発生に対するホットパックの影響

中川達貴1, 大竹晋平1, 堀玲菜1, 菅谷和輝1, 平賀慎一郎1, 村瀬詩織2, 水村和枝2, 肥田朋子1 (1.名古屋学院大学リハビリテーション学部, 2.中部大学生命健康科学部)

キーワード:不動化, 疼痛, ホットパック

【はじめに】麻痺などによる長期臥床や骨折などにより不動化されることがあるが,不動化に伴い疼痛が生じることが報告されている。この疼痛に対する治療として運動療法が用いられることがあり,我々の研究室でもラット足関節の不動期間中に自由運動を行わせたところ,疼痛発生を抑制する効果が得られている。他方,臨床において不動期間中に運動を行うことが困難であることから温熱療法も検討されている。しかし,ホットパックによる温熱療法が疼痛発生に与える影響は報告されていない。また,手関節不動化モデルラットにおける先行研究では痛覚過敏発生のメカニズムとして,神経伝達物質であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が後根神経節(DRG)の中型細胞で増加することが慢性痛の発生に影響していると報告されている。さらに,遅発性筋痛モデルラットにおいて筋圧痛閾値の低下に神経成長因子(NGF)が関与していることが報告されている。しかし,不動化に伴う疼痛発生に対するホットパックの温熱効果とこれらの物質の関与を示唆する報告はない。よって我々は,不動期間中のホットパックが不動化によって生じる疼痛発生に及ぼす影響とCGRP,NGFとの関係性について検討した。
【方法】対象は,8週齢のWistar系雄ラット25匹を無作為に通常飼育するNormal群(N群),両側足関節をギプス固定するControl群(C群),ギプス固定とホットパックを施行するHot pack群(H群)に振り分けた。C群,H群は足関節最大底屈位で4週間ギプス固定した。固定期間中は両下肢を完全免荷とした。H群は,イソフルラン吸入麻酔下にてギプス固定を一時的に除去し,ホットパックによる温熱療法を1日20分間,週5日施行した。行動評価として,ギプス除去下にてラットの足底部に自作のvon Frey filamentを用いて刺激を与え,逃避反応から皮膚痛覚閾値を測定した。また,Randall-Selitto装置を用いて腓腹筋内側頭の筋圧痛閾値を測定した。固定期間終了後,ネンブタール腹腔麻酔下にて腓腹筋を摘出し,ELISA法により発色させ,NGFを定量した。腓腹筋摘出後,灌流固定を行い,L4-6のDRGを取り出し,CGRPの免疫染色を行った。CGRP陽性細胞面積を計測して100μm2ごとの分布を,CGRP含有細胞割合で示した。統計処理には一元配置分散分析を用い,多重比較はBonferroni法ないしTukey法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】本研究は,本学の動物実験委員会の承認を受けて行った。
【結果】N群の皮膚痛覚閾値は17.2±0.8gから17.8±0.3gの間でほぼ一定であった。C群のそれは0週で17.5±0.5gであったが2週目に12.3±2.8 gとなり,それ以降0週目と比べ有意差を認めた。H群は0週で17.7±0.4gであったが2週目に15.4±1.4gとなり,0週に比べ有意差を認めた。C群に対して他群は1週目以降すべて有意差を認めた。N群の筋圧痛閾値は141.8±7.8gから153.6±13.4gの間でほぼ一定であった。C群は0週で144.1±4.2gであったが3週目に107.4±23.3gとなり,それ以降0週目と比べ有意差を認めた。H群は0週目で142.4±6.8gであったが4週目に118.5±14.4gとなり,0週に比べ有意差を認めた。2週目以降C群は他群と有意差を認めた。また,CGRP含有細胞割合は600-700 μm2の細胞でN群3.3±1.3%,C群5.7±1.4%,H群で5.0±1.1%であり,N群に対して他群は有意差を認めた。700-800μm2ではN群3.0±0.9%,C群5.5±1.3%,H群3.3±1.2%であり,C群に対して他群は有意差を認めた。N群とC群は,800-900μm2においても有意差を認めた。また,腓腹筋のNGF量はN群で47.4±7.7pg/mg,C群で98.7±20.6pg/mg,H群で44.3±5.1pg/mgであり,C群は他群と有意差を認めた。
【考察】不動化により疼痛が生じた。そして,600-900μm2の中型細胞でのCGRP発現の有意な増加がみられた。これは,先行研究と同様にCGRP含有細胞が中型細胞へと偏移したことが痛覚閾値の低下に関与したと考えられた。また,不動化により腓腹筋でのNGF含有量が有意に増加した。このことから筋圧痛閾値の低下に腓腹筋のNGF量の増加が関与しているのではないかと考えられた。本研究では,ホットパックによる温熱療法を施行した。その結果,不動化による痛覚閾値の低下を抑制,CGRP含有細胞の中型細胞への偏移を抑制,NGFの増加を有意に抑制した。これらのことから,不動化に伴う疼痛発生はホットパックによる温熱療法により抑制することができ,その鎮痛メカニズムにはCGRP,NGFの関与が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】不動化による疼痛の発生が確認されたが,不動期間中にホットパックによる温熱療法を施行することにより抑制されることが示された。臨床において不動化による疼痛発生に対してホットパックによる介入が効果的である可能性が示された。