第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

呼吸7

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:00 第5会場 (3F 303)

座長:田中貴子(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学・作業療法学講座)

内部障害 口述

[0582] どのような慢性閉塞性肺疾患患者が短期間で運動耐容能を改善させることができるのか?

堀江淳1,4, 白仁田秀一2,4, 阿波邦彦1,4, 林真一郎3,4 (1.京都橘大学, 2.長生堂渡辺医院, 3.佐賀大学医学部附属病院, 4.NPO法人はがくれ呼吸ケアネット)

キーワード:慢性閉塞性肺疾患, 運動耐容能, 評価

【はじめに,目的】
近年,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の呼吸リハビリテーション(呼吸リハビリ)における運動療法の効果は,高いエビデンスが付与されるようになった。しかし,その効果の出現には個人差が大きく,その特性については十分な検証がなされているとは言い難い。本研究の目的は,運動耐容能が,3か月間の呼吸リハビリで改善できた患者と改善できなかった患者の初期評価の種々の指標を比較すること。更に,その特性を多次元的,横断的に検証し,今後の呼吸リハビリプログラム導入の在り方について提言することとした。
【方法】
研究デザインは,後方視的横断研究とし,セティングは,特定非営利活動法人に登録している4施設とした。対象は,呼吸リハビリ実施中の病状安定期COPD患者51例(男性44例,女性7例,平均年齢74±9歳)とした。除外対象は,200m以上歩行距離が減少,または増加した者,歩行を阻害する痛みを有する者,その他歩行障害を有する者,研究に同意が得られない者とした。研究のプロトコールは,初期評価から3か月後評価において,6分間歩行距離(6MWD)が,「31m以上増加」していた群を改善群,「30m以下の増加」,あるいは「減少」していた群を非改善群とし,初期評価時の身体機能,身体能力,日常生活活動(ADL)能力,生活の質(QOL),社会背景を比較した。呼吸リハビリプログラムは,最大運動能力の30~50%の負荷での運動耐容能トレーニングを中心としたものを実施した。主要測定項目は,6MWDとし,説明測定項目は,修正Medical Reseach Counci(MRC)スケール,Body Mass Index(BMI),呼吸機能,呼吸筋力,上肢筋力,下肢筋力,最速歩行速度,Timed up and go時間,漸増シャトルウォーキング歩行距離(ISWD),長崎大学呼吸器疾患ADL質問票(NRADL),健康関連QOL質問票(St George’s Respiratory Questionnaire:SGRQ),社会背景(以前の職業,配偶者の有無,同居家族の有無,就学年数,運動習慣,自動車の使用,自宅周囲の環境,生活習慣病合併の有無,過去1年間の急性増悪の有無)とした。2群間の比較は,Levenの等分散性の検定後,Studentのt検定,またはWelchのt検定を用いて分析し,改善群,非改善群と社会背景測定項目との関係は,χ2検定を用いて分析した。なお,解析ソフトはSPSS(v19)を使用し,統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した。対象への説明と同意は,研究の概要を口頭にて説明後,研究内容を理解し,研究参加の同意が得られた場合,書面にて自筆署名で同意を得た。その際,参加は任意であり,測定に同意しなくても何ら不利益を受けないこと,また同意後も常時同意を撤回できること,撤回後も何ら不利益を受けることがないことを説明した。
【結果】
改善群は27例(男性23例,女性4例,平均年齢75±9歳),非改善群は24例(男性21例,女性3例,平均年齢72±10歳)であった。改善群は6MWDが100±43m,ISWDが133±92m増加し,非改善群は6MWDが61±67m,ISWDが134±92m減少していた。改善群と非改善群の比較において,修正MRCスケールは2.1±0.9 vs 1.4±1.1(p=0.01),SGRQは46.8±17.4点vs 30.3±18.6点(p=0.02)と非改善群が有意に低値を示し,最速歩行速度は97±23m/分vs 118±21m/分(p=0.01),6MWDは314±113m vs 428±81m(p<0.001),ISWDは301±136m vs 456±159m(p=0.002),NRADLは73±18点vs 86±17点(p=0.01)と改善群が有意に低値を示した。また,社会背景には両群と有意な関係が認められなかった。
【考察】
短期的な運動耐容改善効果は,予測比一秒量に有意差がなく,初期評価時の息切れ,運動耐容能,ADL,QOLの評価に差が認められていることから,それらはCOPDの病期進行に依存するものではなく,症状,運動耐容能など能力の高低に依存する可能性が示唆された。息切れが強く,運度耐容能が低く,ADL,QOLが低いCOPD患者の方が,短期的には運動耐容能が改善しやすいことが示唆された。これらの患者は,日常的に活動性の低いことが容易に予想され,呼吸リハビリプログラムの開始に伴う反応が早かったものと考えられる。一方,運動耐容能が高く,ADL,QOLに支障が少ない症状非優位型のCOPD患者は,日常的な活動性が維持されており,短期間の運動耐容能改善効果を導き出すためには,更なる高負荷のトレーニングプログラムが必要であるのかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
短期的な運動耐容能改善効果が期待できるCOPD患者の特性を客観的に検証することができた。また,運動耐容能が高く,ADL,QOLに対する支障の少ないCOPD患者への,今後のプログラムに関する検証課題を明確にすることができた有用な研究となった。