第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法13

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:00 ポスター会場 (神経)

座長:松尾篤(畿央大学健康科学部理学療法学科)

神経 ポスター

[0651] 前下小脳動脈領域の脳梗塞3症例について

渡辺光司1, 添田健仁1, 坂本明奈1, 佐藤友希1, 小笠原涼介2, 増子潤2 (1.(一財)脳神経疾患研究所附属南東北新生病院, 2.(一財)総合南東北病院)

キーワード:前下小脳動脈, 脳梗塞, MRI

【はじめに】
小脳は上小脳動脈(以下SCA),前下小脳動脈(以下AICA),後下小脳動脈(以下PICA)を栄養血管としている。小脳の脳血管疾患も,責任血管によって症状や機能予後が異なる。今回,AICA領域の脳梗塞3症例を経験した。AICAは,橋下部外側部,中小脳脚,小脳前下部と片葉を血行支配している。AICA領域の梗塞は,前下小脳動脈症候群として難聴を随伴することが多く,耳鼻咽喉科領域でも多数報告がみられる。3症例すべて難聴は認められなかったが,運動機能において機能予後が異なった。今回,MRI所見にて病変部位を確認し,機能予後との関係について検討した。
【方法】
自験例AICA領域の脳梗塞3症例について,MRI所見による病変部位と,機能予後との関係について検討した。小脳症状として運動失調の有無,前庭症状として,回転性めまい,眼振の有無,ロンベルク徴候を評価し,立位・歩行到達を確認した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,本症例に対し研究の主旨を説明し文章にて同意を得た。
【結果】
症例1 80台女性。回転性めまいと構音障害で発症。MRI所見では,右中小脳脚に高信号が認められた。中小脳脚病変は比較的小規模で部分病変であった。当初,回転性めまい,眼振,右上下肢の運動失調が認められた。まもなく,これらの症状はほぼ消失,独歩自立獲得し,4カ月後に自宅退院。ロンベルク徴候陰性,タンデム立位可。
症例2 70台女性,回転性めまいと嘔吐で発症。MRI所見では,右中小脳脚,散在的に小脳前下部,そして片葉に高信号が認められた。当初,複視,回転性めまい,眼振,左上下肢の運動失調,側方突進が認められた。右上下肢の運動失調は軽度でまもなく消失したが,眼振と,回転性めまいが持続した。眼振・回転性めまいは,軽減するものの,若干残存しつつ4か月後に自宅退院。調子によっては,突発的に右側転倒傾向を示し,杖使用と住環境整備が必要であった。ロンベルク徴候陽性,開脚立位可,閉脚立位不可。
症例3 70台女性,回転性めまいで発症。MRI所見では,両側の中小脳脚に高信号を示した。中小脳脚病変は大規模で全体病変であった。特に左側病変は小脳半球や上小脳脚レベルまで進展が認められた。MRA所見では椎骨・脳底動脈閉塞が認められた。当初より,回転性めまい,眼振,失調性構音障害,両上下肢の運動失調,体幹失調が高度に認められ,歩行獲得に難渋した。6か月後,回転性めまいは消失,その他の症状は左側優位に高度に持続するも,なんとか四脚歩行器歩行獲得し,住環境整備後,自宅退院。前後方向の体幹動揺著明と左前方転倒傾向あり開脚立位不可。
【考察】
症例1は前庭症状や運動失調について機能予後良好を示した。MRI所見上,中小脳脚に限局し規模も小さく中小脳脚の部分病変であった。中小脳脚はAICAとSCAの分水嶺領域であることから,血行力学性機序の脳梗塞の好発部位である可能性が指摘されており,限局病変例も多い。中小脳脚は,小脳求心路である橋小脳路を成分としているが,小脳遠心路の障害と比して運動失調は予後良好とされている。症例は小脳求心路のみの障害で,機能代償可能な規模であったため機能予後良好を示したと推察された。
症例2は運動失調が消失したものの,前庭症状が残存し独歩獲得を妨げた。MRI所見では,中小脳脚病変に加え,片葉病変に注目した。片葉は前庭小脳とされ,眼球運動や平衡機能を調節している。症例は小脳求心路の障害は機能代償可能な規模であったが,片葉病変によって前庭障害が遷延したと推察された。
症例3は高度な運動失調が残存し,四脚歩行器歩行の獲得に留まった。MRI所見では,両側性の中小脳脚病変が大規模であり,左側病変は上小脳脚まで進展していた。両側性中小脳脚梗塞の報告は国内でも散見され,椎骨・脳底動脈閉塞を背景とした血行力学性機序であることを示唆する報告と一致していた。また,運動失調の予後不良因子として,中小脳脚の全体病変,歯状核・上小脳脚らの小脳遠心路障害等が挙げられている。症例は両側性かつ大規模な中小脳脚病変によって小脳求心路が機能代償困難な程障害され,更に小脳遠心路障害を重複したため,より高度な運動失調が遷延したと推察された。
【理学療法学研究としての意義】
3症例すべてAICA領域の脳梗塞であったが,病変部位が異なり,機能予後に影響した。小脳・小脳脚病変は,我々がよく遭遇する疾患である。しかし,その症状は皆一律・一様ではなく,その障害像把握に難渋することが多い。本研究を通して,MRI所見から,血管支配領域や,その構造と機能,更には,起こしうる発生機序や好発部位を熟慮しながら,症状や機能予後との関係を検討していくことが障害像把握の近道になりうると思われた。