第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

循環1

2014年5月31日(土) 09:30 〜 10:20 第5会場 (3F 303)

座長:田畑稔(豊橋創造大学保健医療学部理学療法学科), 熊丸めぐみ(群馬県立小児医療センターリハビリテーション課)

内部障害 口述

[0668] 右肋間小開胸による低侵襲心臓手術後のリハビリ進行状況

北條悠1, 湯口聡1, 斉藤和也1, 中島真治1, 松尾知洋1, 吉村香映1, 氏川拓也1, 大塚翔太1, 石原広大1, 河内友美1, 都津川敏範2, 坂口太一2 (1.心臓病センター榊原病院リハビリテーション室, 2.心臓病センター榊原病院心臓外科)

キーワード:MICS, 複合手術, リハビリ進行状況

【はじめに,目的】
近年,心臓外科領域では右肋間小開胸で行う低侵襲心臓手術(minimally invasive cardiac surgery:MICS)が普及しつつあり,主に僧帽弁疾患に対して行われている。当院では僧帽弁の単弁手術だけでなく,大動脈弁置換術(AVR)や三尖弁形成術,不整脈手術等を複合的に行うことも珍しくない。MICS術後のリハビリテーション(リハビリ)の進行状況については報告されつつあるものの,まだ十分とはいえず,どのような経過を辿るのかについては不明な点が多く,一定の傾向は得られていない。今後,MICSの適応は拡大してくる可能性が高く,リハビリ機会も増加してくると思われる。今回我々は,MICS術後のリハビリにおける離床の進行状況および離床の遅延理由,合併症について検討した。
【方法】
対象は2010年1月から2013年9月までに当院で待機的にMICSを施行した105例とした。内訳は,男性64名,女性41名,年齢は58.3±13.3(26-80)歳,BMI22.6±3.2kg/m2であった。カルテより後方視的に基礎疾患として糖尿病(DM),高血圧症(HT),狭心症(AP),慢性腎臓病(CKD),検査項目として術前左室駆出率(LVEF),術式は単弁置換・形成術,複合手術の有無,リハビリにおける離床の進行状況は座位開始日,立位開始日,歩行開始日,歩行自立日を調査した。また,歩行自立が5日以内の症例を順調群,6日以上要した症例を遅延群とし,遅延理由を調査した。
順調群と遅延群において,基礎情報,基礎疾患,術式,リハビリ進行状況をχ二乗検定,t検定にて比較し,危険率は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての症例に本研究の趣旨を書面および口頭により説明し同意を得た。
【結果】
基礎疾患の有無ではDM16例(15.2%),HT54例(51.4%),APとCKDは0例であり,検査項目ではLVEFは64.7±10.0%であった。術式は単弁置換・弁形成術は71例(67.6%),複合手術は34例(32.4%)であり,離床の進行状況は座位開始日1.2±0.5日,立位開始日1.7±0.7日,歩行開始日2.9±1.0日,歩行自立日4.4±1.6日であり,遅延群は23例(21.9%)であった。
リハビリ順調群(82例)と遅延群(23例)との比較では(順調群/遅延群),年齢:56.6±13.5/64.1±11.3歳(p<0.05),BMI:22.6±3.4/22.4±2.3kg/m2であった。基礎疾患はDM:12例(14.6%)/4例(17.4%),HT:43例(52.4%)/11例(47.8%),検査項目ではLVEF:64.2±10.2/66.4±9.4%,術式では複合術の割合は19例(23.2%)/14例(60.9%)(p=0.07)であり,遅延群では年齢が有意に高く,複合手術が多い傾向があった。離床の進行状況は,座位開始日:1.2±0.5/1.3±0.5日,立位開始日:1.6±0.7/2.1±0.8日(p<0.01),歩行開始日:2.7±0.7/3.5±1.3日(p<0.01),歩行自立日:3.7±0.9/6.8±1.2日(p<0.01)であり,座位開始日以外に有意差を認めた。離床の遅延理由の内訳および発生率は,不整脈6例(5.7%),心不全4例(3.8%),創トラブル3例(2.9%),呼吸器系2例(1.9%),その他8例(7.6%)であり,特に呼吸器系の合併症については再膨張性肺水腫(RPE)であった。また,離床の遅延理由とはならなかったが,RPE1例(1.0%),大腿神経麻痺1名(1.0%)を認めた。
【考察】
心臓外科術後の大規模における先行研究では,歩行自立日は平均6.0±4.7日とされ,遅延理由としては心不全など5.4%,不整脈3.6%,呼吸器系0.5%,創トラブル0.3%と報告されている。今回のMICS術後のリハビリにおける離床の進行状況は早期に歩行を獲得できていたが,遅延群は全体の23例(21.9%)存在し,遅延理由として心不全や不整脈などの発生頻度が多い点が先行研究と同様の結果であった。MICS術後は離床の進行が早く,早期に歩行を獲得できるが,不整脈や心不全など従来同様のリスク管理を行いながら離床を進める必要があると思われる。また,症例数は少ないが呼吸器合併症では,手術中の片肺換気が原因で起こるRPEを認めた。RPEを呈した症例は3例認められ,2例は歩行自立までに術後10日要していた。また,MICSでは体外循環を大腿動静脈から行うことで起きる大腿神経障害が認められた。これらの正中切開で見られないMICS特有の合併症があることも考慮し,リハビリを行う必要があると思われる。
順調群と遅延群との比較では,遅延例は有意に年齢が高く,複合手術が多い傾向にあった。先行研究でも年齢や複合手術はリハビリ進行が遅れる要因とされており,MICS術後においても同様に患者背景や術式などに配慮しリハビリを進行する必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
MICS術後のリハビリ進行状況や,合併症の発生頻度の一定の傾向を示せたことは今後の臨床的意思決定の一助になるものと考える。