[0676] 75歳以上の地域在住高齢者における主観的な体力年齢と認知年齢に関連する要因
Keywords:主観的年齢, 後期高齢者, 実年齢
【はじめに,目的】
主観的年齢は,実年齢とは別に個人が知覚している年齢である。一般的に,中年期から高年期では主観的年齢を実年齢よりも若く報告する傾向にあることが示されている。実際に55歳から85歳の対象者の約80%は,自身の主観年齢が実年齢よりも若いと感じていることが報告されている。主観的年齢が若いことは,良好な健康状態,幸福感の高さ,生活の質(Quality of Life;QOL)の高さ,および死亡率の低下と関連することが様々な疫学調査から明らかにされている。しかしながら,主観的年齢がどのような身体機能を反映しているかは明らかにされておらず,より詳細な分析が必要であると考えられる。本研究の目的は,75歳以上の地域在住高齢者に対して体力年齢と認知年齢の異なる側面から主観的年齢を聴取し,これらの主観的年齢とそれぞれの機能との関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,北海道A市の測定調査会に参加した75歳以上の地域在住高齢者275名のうち,データに不備があった4名を除外した271名(男性111名,女性160名,平均年齢80.0±4.1歳)とした。測定項目は基本情報の他に,主観的年齢(体力年齢,認知年齢),運動機能および認知機能を測定した。主観的年齢の質問は「あなたは自分の体力年齢を何歳だと思いますか?」と,「あなたは自分の脳年齢を何歳だと思いますか?」とした。運動機能は握力,膝伸展筋力,立位時の重心動揺,歩行速度を測定した。認知機能検査にはタブレット型パーソナルコンピュータ(iPad,Apple社)にインストールしたソフトウェア(National Center for Geriatrics and Gerontology functional assessment tool;NCGG-FAT)を用いてTrail Making Test-A(TMT-A),Trail Making Test-B(TMT-B),Symbol Digit Substitution Test(SDST),単語記憶を測定した。ソフトウェアは国立長寿医療研究センターが開発したもので,使用許諾を得た上で使用した。統計解析は,主観的体力年齢および認知年齢と,測定した機能との関連性を明らかにするために相関分析を行った。また,主観的年齢が実年齢よりも老いていると報告した群と,実年齢と同年齢または若いと報告した群の2群に分類し,それぞれの主観的年齢を従属変数,年齢と性別,および測定した機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。統計処理にはSPSS19.0を用い,危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は著者所属機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
主観的体力年齢の平均値は77.1±6.1歳,主観的認知年齢の平均値は76.9±7.7歳であった。主観的体力年齢は,握力(r=-.346,p<0.05),膝伸展筋力(r=-.270,p<0.05),重心動揺量(r=.164,p<0.05),歩行速度(r=-.435,p<0.05)と有意な相関関係を認めた。また,主観的認知年齢はTMT-A(r=.124,p<0.05),TMT-B(r=.181,p<0.05),DSST(r=-.287,p<0.05),単語記憶(r=-.252,p<0.05)との相関関係が有意であった。さらに,多重ロジスティック回帰分析の結果から,主観的体力年齢に関連する身体機能として歩行速度(オッズ比1.04,95%信頼区間;1.01-1.06,p<0.05)が抽出され,主観的認知年齢には単語記憶(オッズ比1.26,95%信頼区間;1.02-1.54,p<0.05)が関連していることが確認された。
【考察】
本研究の結果から,主観的体力年齢には歩行速度が影響し,主観的認知年齢には単語記憶が影響していることが明らかにされた。歩行機能は高齢期に低下する代表的な運動機能のひとつであり,歩行速度の低下は生活機能の低下,QOLの低下,および死亡率増加の予測因子であることが報告されている。一方で,主観的年齢が高いこともQOLの低下や死亡率の増加と関連していることから,高齢者における運動機能と行動心理学的な生活機能を介在する要因として主観的年齢が存在している可能性が示唆された。また,主観的認知年齢と単語記憶が関連していたことも同様の構造を示していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
主観的な健康感やセルフエフィカシーが高齢者の健康行動と関連することは多くの報告から明らかにされている。本研究で使用した主観的年齢も,これらに加えて主観的な健康指標として用いることが可能である。また,高齢者に対して主観的年齢を若年化させる取り組みが,運動機能や生活機能を改善させる動機付けになる可能性があり,理学療法介入の補助的な強化手段,あるいは評価手段として有用であると考えられた。
主観的年齢は,実年齢とは別に個人が知覚している年齢である。一般的に,中年期から高年期では主観的年齢を実年齢よりも若く報告する傾向にあることが示されている。実際に55歳から85歳の対象者の約80%は,自身の主観年齢が実年齢よりも若いと感じていることが報告されている。主観的年齢が若いことは,良好な健康状態,幸福感の高さ,生活の質(Quality of Life;QOL)の高さ,および死亡率の低下と関連することが様々な疫学調査から明らかにされている。しかしながら,主観的年齢がどのような身体機能を反映しているかは明らかにされておらず,より詳細な分析が必要であると考えられる。本研究の目的は,75歳以上の地域在住高齢者に対して体力年齢と認知年齢の異なる側面から主観的年齢を聴取し,これらの主観的年齢とそれぞれの機能との関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,北海道A市の測定調査会に参加した75歳以上の地域在住高齢者275名のうち,データに不備があった4名を除外した271名(男性111名,女性160名,平均年齢80.0±4.1歳)とした。測定項目は基本情報の他に,主観的年齢(体力年齢,認知年齢),運動機能および認知機能を測定した。主観的年齢の質問は「あなたは自分の体力年齢を何歳だと思いますか?」と,「あなたは自分の脳年齢を何歳だと思いますか?」とした。運動機能は握力,膝伸展筋力,立位時の重心動揺,歩行速度を測定した。認知機能検査にはタブレット型パーソナルコンピュータ(iPad,Apple社)にインストールしたソフトウェア(National Center for Geriatrics and Gerontology functional assessment tool;NCGG-FAT)を用いてTrail Making Test-A(TMT-A),Trail Making Test-B(TMT-B),Symbol Digit Substitution Test(SDST),単語記憶を測定した。ソフトウェアは国立長寿医療研究センターが開発したもので,使用許諾を得た上で使用した。統計解析は,主観的体力年齢および認知年齢と,測定した機能との関連性を明らかにするために相関分析を行った。また,主観的年齢が実年齢よりも老いていると報告した群と,実年齢と同年齢または若いと報告した群の2群に分類し,それぞれの主観的年齢を従属変数,年齢と性別,および測定した機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。統計処理にはSPSS19.0を用い,危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は著者所属機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
主観的体力年齢の平均値は77.1±6.1歳,主観的認知年齢の平均値は76.9±7.7歳であった。主観的体力年齢は,握力(r=-.346,p<0.05),膝伸展筋力(r=-.270,p<0.05),重心動揺量(r=.164,p<0.05),歩行速度(r=-.435,p<0.05)と有意な相関関係を認めた。また,主観的認知年齢はTMT-A(r=.124,p<0.05),TMT-B(r=.181,p<0.05),DSST(r=-.287,p<0.05),単語記憶(r=-.252,p<0.05)との相関関係が有意であった。さらに,多重ロジスティック回帰分析の結果から,主観的体力年齢に関連する身体機能として歩行速度(オッズ比1.04,95%信頼区間;1.01-1.06,p<0.05)が抽出され,主観的認知年齢には単語記憶(オッズ比1.26,95%信頼区間;1.02-1.54,p<0.05)が関連していることが確認された。
【考察】
本研究の結果から,主観的体力年齢には歩行速度が影響し,主観的認知年齢には単語記憶が影響していることが明らかにされた。歩行機能は高齢期に低下する代表的な運動機能のひとつであり,歩行速度の低下は生活機能の低下,QOLの低下,および死亡率増加の予測因子であることが報告されている。一方で,主観的年齢が高いこともQOLの低下や死亡率の増加と関連していることから,高齢者における運動機能と行動心理学的な生活機能を介在する要因として主観的年齢が存在している可能性が示唆された。また,主観的認知年齢と単語記憶が関連していたことも同様の構造を示していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
主観的な健康感やセルフエフィカシーが高齢者の健康行動と関連することは多くの報告から明らかにされている。本研究で使用した主観的年齢も,これらに加えて主観的な健康指標として用いることが可能である。また,高齢者に対して主観的年齢を若年化させる取り組みが,運動機能や生活機能を改善させる動機付けになる可能性があり,理学療法介入の補助的な強化手段,あるいは評価手段として有用であると考えられた。