[0733] 脳卒中患者におけるリーチ動作と歩行能力の関係
キーワード:脳卒中, FR, 歩行自立度
【はじめに,目的】
脳卒中患者に関するFunctional Reach(以下:FR)と歩行能力の関係を検討した研究は多い。しかしFRと側方リーチ動作および反復リーチ動作との比較,また各リーチ動作と歩行能力との関係を報告した研究は少ない。そのため本研究では反復リーチ動作を含めた,前方および側方リーチ動作と歩行能力の関係を検討した。
【方法】
対象は病棟内歩行が介助なしで可能な初発脳卒中片麻痺患者38名とした。性別は男性26名女性12名であった。なお,本研究において補装具の使用は認めた。評価項目は下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下:BRS),FR,30秒間FR反復回数,側方リーチ距離,30秒間側方リーチ反復回数,Timed Up and Go test(以下:TUG),10m歩行時間,10m歩行歩数,身長,病棟内歩行自立可否の計10項目とした。FRは立位にて非麻痺側肩関節屈曲90°,肘関節伸展,前腕回内,手指伸展位を開始肢位とした。動作時は,手指を見てもらい体幹の過度な屈曲および回旋は禁じ両足底接地位にて計測した。また側方リーチ動作は立位にて非麻痺側肩関節外転90°,肘関節伸展,前腕回内,手指伸展位を開始肢位とした。動作時において頭部の非麻痺側への回旋は認めたが,FR同様手指を見てもらい両足底接地位にて計測した。上記リーチ動作では最大リーチ距離および30秒間反復回数を計測した。最大リーチ距離は開始肢位とリーチ肢位における第3指の移動距離とした。また30秒間反復回数は30秒間における開始肢位とリーチ肢位の反復回数とした。TUGは床から座面までの高さが45cmの肘掛け椅子の背もたれに寄り掛かった肢位から開始した。開始合図で立ち上がり,3m先にある目印を回って着座するまでの時間を快適歩行速度で計測した。10m歩行は計測区間の10mと両端に3mずつの助走区間の計16mを歩行した。可能な限り早く歩行してもらい,計測区間の最大歩行速度ならびに歩数を計測した。BRSおよび病棟内歩行自立可否を除いた上記8項目は無作為にて順序を決定し,2回の計測で得られた平均を代表値とした。病棟内歩行自立可否は盲検法にて理学療法士2名で評価した。統計解析はPeasonの相関分析を用い,歩行自立可否と各評価項目間の関係を有意水準5%以下として検討した。またロジスティック回帰分析にて従属変数を歩行自立可否,独立変数を各リーチ動作としロジスティック回帰式を算出した。そして歩行自立可否に影響するリーチ動作のカットオフ値はROC曲線にて算出した。感度ならびに特異度を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象には本研究に際し,口頭にて十分に説明し同意が得られた後実施した。
【結果】
本研究においてBRSはstageIV:8名,stageV:17名,stageVI:13名であった。また,FR:24.3±7.5cm,30秒間FR反復回数:14.9±4.3回,側方リーチ距離:19.3±6.8cm,30秒間側方リーチ回数:14.6±3.9回,TUG:17.0±8.2sec,10m歩行時間:15.7±9.0sec,10m歩行歩数:22.0±9.2歩,身長:161±0.08cmであった。歩行自立可否と各評価項目間の相関はTUG(r=0.74),FR(r=-0.43)は5%水準,10m歩行歩数(r=0.73),下肢BRS(r=-0.66),30秒間FR反復回数(r=-0.65),30秒間側方リーチ反復回数(r=-0.62),10m歩行時間(r=0.62)は1%水準で相関が認められた。リーチ動作においては,特に30秒間FR反復回数に強い相関が認められた。またロジスティック回帰式はlog(Y/1-Y)=-0.49×30秒間FR反復回数+6.35であった。歩行自立可否に特に影響したリーチ動作は30秒間FR反復回数であった。30秒間FR反復回数におけるcut off値は15回であった。その際感度は80%,特異度85%であった。
【考察】
FRの反復リーチ動作は矢状面上で前後方向への身体重心の制御が生じる。健常成人における歩行は一般に,歩行開始時および静止時において意識下での運動となる。その際,姿勢保持は前方だけでなく後方への動揺に対し身体重心の制御も必要となる。また反復リーチ動作は開始肢位からリーチ肢位において足関節背屈位となり底屈筋群の遠心性収縮から立脚中期から後期への肢位となる。一方リーチ肢位から開始肢位に戻る際は足関節が底屈方向に働くことによる足関節背屈筋群の遠心性収縮が機能し立脚初期から中期の肢位となる。このことからFR反復リーチ動作による前後方向への身体重心の制御および足関節の協調的運動は,歩行自立可否に影響すると推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究から側方への身体重心制御と比較し,前後方向への身体重心制御が歩行自立可否に影響することが示唆された。またFR最大距離と比較し,30秒間FR反復回数において歩行自立可否に相関がみられた。このことから前後方向へのリーチ動作での反復回数は,歩行自立可否の要因の一つと推察される。
脳卒中患者に関するFunctional Reach(以下:FR)と歩行能力の関係を検討した研究は多い。しかしFRと側方リーチ動作および反復リーチ動作との比較,また各リーチ動作と歩行能力との関係を報告した研究は少ない。そのため本研究では反復リーチ動作を含めた,前方および側方リーチ動作と歩行能力の関係を検討した。
【方法】
対象は病棟内歩行が介助なしで可能な初発脳卒中片麻痺患者38名とした。性別は男性26名女性12名であった。なお,本研究において補装具の使用は認めた。評価項目は下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下:BRS),FR,30秒間FR反復回数,側方リーチ距離,30秒間側方リーチ反復回数,Timed Up and Go test(以下:TUG),10m歩行時間,10m歩行歩数,身長,病棟内歩行自立可否の計10項目とした。FRは立位にて非麻痺側肩関節屈曲90°,肘関節伸展,前腕回内,手指伸展位を開始肢位とした。動作時は,手指を見てもらい体幹の過度な屈曲および回旋は禁じ両足底接地位にて計測した。また側方リーチ動作は立位にて非麻痺側肩関節外転90°,肘関節伸展,前腕回内,手指伸展位を開始肢位とした。動作時において頭部の非麻痺側への回旋は認めたが,FR同様手指を見てもらい両足底接地位にて計測した。上記リーチ動作では最大リーチ距離および30秒間反復回数を計測した。最大リーチ距離は開始肢位とリーチ肢位における第3指の移動距離とした。また30秒間反復回数は30秒間における開始肢位とリーチ肢位の反復回数とした。TUGは床から座面までの高さが45cmの肘掛け椅子の背もたれに寄り掛かった肢位から開始した。開始合図で立ち上がり,3m先にある目印を回って着座するまでの時間を快適歩行速度で計測した。10m歩行は計測区間の10mと両端に3mずつの助走区間の計16mを歩行した。可能な限り早く歩行してもらい,計測区間の最大歩行速度ならびに歩数を計測した。BRSおよび病棟内歩行自立可否を除いた上記8項目は無作為にて順序を決定し,2回の計測で得られた平均を代表値とした。病棟内歩行自立可否は盲検法にて理学療法士2名で評価した。統計解析はPeasonの相関分析を用い,歩行自立可否と各評価項目間の関係を有意水準5%以下として検討した。またロジスティック回帰分析にて従属変数を歩行自立可否,独立変数を各リーチ動作としロジスティック回帰式を算出した。そして歩行自立可否に影響するリーチ動作のカットオフ値はROC曲線にて算出した。感度ならびに特異度を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象には本研究に際し,口頭にて十分に説明し同意が得られた後実施した。
【結果】
本研究においてBRSはstageIV:8名,stageV:17名,stageVI:13名であった。また,FR:24.3±7.5cm,30秒間FR反復回数:14.9±4.3回,側方リーチ距離:19.3±6.8cm,30秒間側方リーチ回数:14.6±3.9回,TUG:17.0±8.2sec,10m歩行時間:15.7±9.0sec,10m歩行歩数:22.0±9.2歩,身長:161±0.08cmであった。歩行自立可否と各評価項目間の相関はTUG(r=0.74),FR(r=-0.43)は5%水準,10m歩行歩数(r=0.73),下肢BRS(r=-0.66),30秒間FR反復回数(r=-0.65),30秒間側方リーチ反復回数(r=-0.62),10m歩行時間(r=0.62)は1%水準で相関が認められた。リーチ動作においては,特に30秒間FR反復回数に強い相関が認められた。またロジスティック回帰式はlog(Y/1-Y)=-0.49×30秒間FR反復回数+6.35であった。歩行自立可否に特に影響したリーチ動作は30秒間FR反復回数であった。30秒間FR反復回数におけるcut off値は15回であった。その際感度は80%,特異度85%であった。
【考察】
FRの反復リーチ動作は矢状面上で前後方向への身体重心の制御が生じる。健常成人における歩行は一般に,歩行開始時および静止時において意識下での運動となる。その際,姿勢保持は前方だけでなく後方への動揺に対し身体重心の制御も必要となる。また反復リーチ動作は開始肢位からリーチ肢位において足関節背屈位となり底屈筋群の遠心性収縮から立脚中期から後期への肢位となる。一方リーチ肢位から開始肢位に戻る際は足関節が底屈方向に働くことによる足関節背屈筋群の遠心性収縮が機能し立脚初期から中期の肢位となる。このことからFR反復リーチ動作による前後方向への身体重心の制御および足関節の協調的運動は,歩行自立可否に影響すると推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究から側方への身体重心制御と比較し,前後方向への身体重心制御が歩行自立可否に影響することが示唆された。またFR最大距離と比較し,30秒間FR反復回数において歩行自立可否に相関がみられた。このことから前後方向へのリーチ動作での反復回数は,歩行自立可否の要因の一つと推察される。