[0740] 新生児薬物離脱症候群に対する理学療法の経験
キーワード:新生児薬物離脱症候群, NICU, 理学療法
【はじめに】新生児薬物離脱症候群(以下離脱症候群)は,経胎盤的に胎児に移行した薬物の影響により,新生児に易刺激性等の症状を呈する症候群である。欧米では麻薬性薬物での発症が多く,日本では催眠,抗うつ薬などの使用で発症が多い。薬物の長期予後などの報告は散見されるが,乳幼児期の発達や理学療法(Physical Therapy以下PT)に対する報告は渉猟した範囲では見当たらない。
今回,向精神薬多剤服用母体から出生した,離脱症候群に対するPT介入の経験をした。NICUにおける介入の必要性を検討し報告する。
【方法】離脱症候群一症例について入院時経過を提示し,PT介入の必要性について後方視的に検証した。児の治療や症状は診療情報記録よりまとめた。
母体は統合失調症により,抗うつ薬として選択的セロトニン再取り込み阻害薬(以下SSRI)を2種類,睡眠薬,精神安定薬としてベンゾジアゼピン系などを内服していた。在胎37週6日,鉗子分娩時に徐脈出現した為,全身麻酔下で帝王切開により,体重3578g,Apgar5/5で出生した。易刺激性,振戦,啼泣が強く,離脱症候群として新生児薬物離脱症候群のチェックリスト(磯辺ら)にて経時的に観察した。出生後,股関節の硬さやベル型の小胸郭を認め,日齢18よりPT開始した。祖父母の育児指導や家庭環境,地域支援を整え日齢43に退院となった。
評価は,1)医師,看護師記録より内服状況,離脱症状,呼吸,哺乳,母親の表出(SOAPによるS),2)理学療法記録より覚醒行動状態(State),自己鎮静能力,姿勢,筋緊張,感覚を検討した。新生児神経行動発達評価として,general movements(以下GMs)と新生児神経学的評価(以下Dubowitz)を行った。
【説明と同意】本研究の目的と意義についてヘルシンキ宣言に基づき保護者に口頭で説明し,了承を得た。
【結果】離脱症候群の治療として日齢1からフェノバルビタールを静注,日齢10よりフェノバルビタールを内服に変更し,徐々に離脱症状の改善を認め,日齢29に内服中止となった。呼吸は日齢9に抜管した。栄養は日齢4に栄養カテーテルにて開始し,日齢10より経口を開始した。乳首を捉えるまでに時間を要し,持続的な吸啜が困難であったが,日齢33に自律哺乳が可能となった。母親の表出は,出生時は「かわいい」などの発言が聞かれ,育児の参加が開始されると体調不良を訴える場面もあった。しかし,徐々に育児手技も確立し,母親と児の愛着形成は良好であり,父親や祖父母も協力的であった。
PTプログラムはState,内服状況,離脱症状から第I~III期に分けられた。第I期(日齢18-23)はState2~3で閉眼が多く,易過敏性を認めた。姿勢は股関節屈曲-内転-膝関節屈曲-足関節背屈-内反が多く,股関節開排制限認め他動運動練習を行った。GMsはDefinitely Abnormalで複雑性,多様性,流暢さに欠けていた。第II期(日齢24-31)はState6で,包み込み,乳首,揺れ刺激を用いても啼泣し,易過敏性による過緊張を認め安静が困難な為,自己鎮静への援助を行った。DubowitzはAbnormal Signs,Behaviorで特に低値を示した。第III期(日齢32-43)はState6-3と容易に鎮静が可能となった為,運動感覚練習が容易となり,股関節外転可動域の改善も認めた。退院時,日齢と比べ固視・追視能力の低下や動きの多様性,流暢さの欠如は残存したが,安静保持が可能となった。
【考察】離脱症候群は①中枢神経系(筋緊張増加,振戦,易刺激性など),②消化器系(哺乳不良などの症状を呈すると報告されている。本症例も,顕著な振戦,易過敏性による過緊張を呈し,自己鎮静が困難で哺乳不良も認めた。その他,関節の硬さや復雑性・多様性に欠けた単調な自発運動,固視・追視能力の低下,驚愕の症状を認めた。神経行動発達評価は予後不良であったが,離脱症状の一時的な影響の関与も考えられる。しかし,関節の硬さは胎内での運動経験不足が推察され,離脱症状により易刺激性や振戦が持続した為,他動運動,自己鎮静への援助,運動感覚経験が必要であると考えた。また,発達予後の因子として,母親の不適切な管理が関わるとする報告もあり,母親の育児能力評価や育児支援が必要と考えられた。SSRIやベンゾジアゼピン系は長期予後に及ぼす影響は少ないとする報告もあるが,それらの観点からも,本症例においては早期理学療法介入が有効であったと考えた。
【理学療法学研究としての意義】離脱症候群に対する詳細な報告は少なく,今回NICUでのPT経過を提示し,早期介入の有効性を示す事が出来た。
今回,向精神薬多剤服用母体から出生した,離脱症候群に対するPT介入の経験をした。NICUにおける介入の必要性を検討し報告する。
【方法】離脱症候群一症例について入院時経過を提示し,PT介入の必要性について後方視的に検証した。児の治療や症状は診療情報記録よりまとめた。
母体は統合失調症により,抗うつ薬として選択的セロトニン再取り込み阻害薬(以下SSRI)を2種類,睡眠薬,精神安定薬としてベンゾジアゼピン系などを内服していた。在胎37週6日,鉗子分娩時に徐脈出現した為,全身麻酔下で帝王切開により,体重3578g,Apgar5/5で出生した。易刺激性,振戦,啼泣が強く,離脱症候群として新生児薬物離脱症候群のチェックリスト(磯辺ら)にて経時的に観察した。出生後,股関節の硬さやベル型の小胸郭を認め,日齢18よりPT開始した。祖父母の育児指導や家庭環境,地域支援を整え日齢43に退院となった。
評価は,1)医師,看護師記録より内服状況,離脱症状,呼吸,哺乳,母親の表出(SOAPによるS),2)理学療法記録より覚醒行動状態(State),自己鎮静能力,姿勢,筋緊張,感覚を検討した。新生児神経行動発達評価として,general movements(以下GMs)と新生児神経学的評価(以下Dubowitz)を行った。
【説明と同意】本研究の目的と意義についてヘルシンキ宣言に基づき保護者に口頭で説明し,了承を得た。
【結果】離脱症候群の治療として日齢1からフェノバルビタールを静注,日齢10よりフェノバルビタールを内服に変更し,徐々に離脱症状の改善を認め,日齢29に内服中止となった。呼吸は日齢9に抜管した。栄養は日齢4に栄養カテーテルにて開始し,日齢10より経口を開始した。乳首を捉えるまでに時間を要し,持続的な吸啜が困難であったが,日齢33に自律哺乳が可能となった。母親の表出は,出生時は「かわいい」などの発言が聞かれ,育児の参加が開始されると体調不良を訴える場面もあった。しかし,徐々に育児手技も確立し,母親と児の愛着形成は良好であり,父親や祖父母も協力的であった。
PTプログラムはState,内服状況,離脱症状から第I~III期に分けられた。第I期(日齢18-23)はState2~3で閉眼が多く,易過敏性を認めた。姿勢は股関節屈曲-内転-膝関節屈曲-足関節背屈-内反が多く,股関節開排制限認め他動運動練習を行った。GMsはDefinitely Abnormalで複雑性,多様性,流暢さに欠けていた。第II期(日齢24-31)はState6で,包み込み,乳首,揺れ刺激を用いても啼泣し,易過敏性による過緊張を認め安静が困難な為,自己鎮静への援助を行った。DubowitzはAbnormal Signs,Behaviorで特に低値を示した。第III期(日齢32-43)はState6-3と容易に鎮静が可能となった為,運動感覚練習が容易となり,股関節外転可動域の改善も認めた。退院時,日齢と比べ固視・追視能力の低下や動きの多様性,流暢さの欠如は残存したが,安静保持が可能となった。
【考察】離脱症候群は①中枢神経系(筋緊張増加,振戦,易刺激性など),②消化器系(哺乳不良などの症状を呈すると報告されている。本症例も,顕著な振戦,易過敏性による過緊張を呈し,自己鎮静が困難で哺乳不良も認めた。その他,関節の硬さや復雑性・多様性に欠けた単調な自発運動,固視・追視能力の低下,驚愕の症状を認めた。神経行動発達評価は予後不良であったが,離脱症状の一時的な影響の関与も考えられる。しかし,関節の硬さは胎内での運動経験不足が推察され,離脱症状により易刺激性や振戦が持続した為,他動運動,自己鎮静への援助,運動感覚経験が必要であると考えた。また,発達予後の因子として,母親の不適切な管理が関わるとする報告もあり,母親の育児能力評価や育児支援が必要と考えられた。SSRIやベンゾジアゼピン系は長期予後に及ぼす影響は少ないとする報告もあるが,それらの観点からも,本症例においては早期理学療法介入が有効であったと考えた。
【理学療法学研究としての意義】離脱症候群に対する詳細な報告は少なく,今回NICUでのPT経過を提示し,早期介入の有効性を示す事が出来た。