第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 教育・管理理学療法 口述

管理運営系3

2014年5月31日(土) 10:25 〜 11:15 第8会場 (4F 411+412)

座長:松本泉(熊本駅前看護リハビリテーション学院理学療法学科)

教育・管理 口述

[0753] 女性管理職に対する理学療法士職員の意識についての性別比較

安田雅美1, 岩月宏泰2, 中村あゆみ3 (1.名古屋市立西部医療センター, 2.青森県立保健大学, 3.東北メディカル学院)

キーワード:理学療法士職場, 女性管理職, 男女平等意識

【はじめに】近年,理学療法士の職場でも職員を100名以上要するところも珍しくなくなり,女性管理職も増えてきた。女性管理職のストレスを引き起こす要因には,職業人として男性と共通する職務上の悩みだけでなく,女性特有のものが幾つか見出されている。例えば,女性に対する根強い性ステレオタイプ的な偏見に伴うキャリア形成の阻害や家庭と仕事の両立からくる葛藤のストレッサーである。これら女性特有のストレッサーはキャリアを獲得する過程で経験されるものであり,これが高じれば女性のキャリア意識を損ない,職務不満足や不安感を助長させかねない。今回,理学療法士を対象に男女平等意識と女性管理者に対する態度について測定し,回答者と直属上司の性別の違いが結果に影響を及ぼすか検討した。
【方法】対象は質問紙調査に回答した3医療機関に勤務する理学療法士152名(年齢階級の中央値は30歳台)であった。全対象者を回答者,直属上司が共に女性の場合をFF群(53名),両者が男性の場合をMM群(31名),回答者が女性,直属上司が男性の場合をFM群(35名)及び回答者が男性,直属上司が女性の場合をMF群(33名)の4群に分けた。質問紙調査(留め置き法)時期は2013年6~9月であり,調査票には基本属性,平等主義的性役割態度スケール(SESRA)短縮版(鈴木1994,15項目),女性管理職に対する態度尺度(若林・宗方1985)の短縮版14項目などで構成されていた。統計学検討はSPSS VER.16.0Jを使用し,SESRAについては総点を算出し,女性管理職に対する態度尺度については,「職場の男女平等」因子(7項目)と「管理職としての女性の適正」因子(7項目)の各々で総点を算出し,上述の4群間で多重比較検定(Tukey法)を行った。なお,各々の構成因子の因子得点間でPearson相関係数を算出した。
【説明と同意】対象者は本研究の趣旨を了承した者であり,調査票表紙には「調査票は無記名であり,統計的に処理されるため,皆様の回答が明らかにされることはありません」と明記され,集められた調査票は研究者が入力し,入力後はシュレッダーで裁断した。
【結果と考察】SESRA得点はFF群58.6±5.7点,FM群59.0±7.0点であり,両群ともMM群とMF群より有意な高値を示した。対象者のうち,女性は性役割に対する意識について平等主義を肯定していたが,男性は伝統主義的と考えられた。一方,4群の「職場の男女平等」因子の得点は満点35点中31点台であり,全ての群で男女平等を好意的に捉えていた。特に,FM群ではこの因子の得点とSESRA得点間に正の相関を認めた(r=0.56,p<0.01)。また,4群の「管理職としての女性の適正」因子の得点は満点35点中18点台であり,全ての群で女性管理職を非好意的に捉えていた。本研究の対象者のうち,女性では職業人としての男女平等観についての2尺度で肯定的とみなすことが出来た。しかし,同性であっても女性の管理職としての適性については,厳しい評価をしていることが推測された。坂田ら(1993)は本邦におけるリーダーシップ機能の性差について,女性管理職は男性管理職よりも職場環境の改善に努力するが,集団維持機能を多く取るわけではなく,むしろ部下に圧力行動を頻繁に取ることを指摘している。本研究の対象が性別に関係なく,「管理職としての女性の適正」因子の得点で低値を示した背景には,このリーダーシップ機能の性差が影響を与えたことも考えられる。今後,理学療法士の職場においても女性管理職の登用の際に彼らの持つ心理的特性やリーダーシップ機能を考慮することで,複雑な人間関係を含む課題に積極的に取り組む機会を与えることが出来得ると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,理学療法士の職場においても職員の男女平等観に性差を認め,また女性管理職の職務遂行能力に厳しい目を注いでいることが示唆された。そのため,女性管理職の職務を全うさせるためには,リーダーシップ機能に配慮した組織的な支援体制を考慮する必要性がある。