[0768] 骨盤,体幹に着目したACL損傷者の歩行分析
キーワード:膝前十字靭帯損傷, 骨盤, 歩行
【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(以下ACL)損傷はスポーツ活動において高い頻度で発生することが報告されている。ACL損傷後は膝の安定性欠如により諸動作において機能不全が生じることが知られている。それは,スポーツ活動などで顕著に現れるが,ADLレベルの歩行動作においても膝の不安定感や膝が抜けるような感覚,いわゆる膝崩れを経験しているものは少なくない。近年に至るまでACL損傷者に関する歩行分析は数多く実施されており,健常者と比較して逸脱した歩行パターンが見られるとされている。しかしながらその報告は損傷部位である膝関節や,それに隣接した股関節に関するものが多く,骨盤や体幹の動きに関しては詳細な分析がなされていない。そこで本研究ではACL損傷者を対象とし,歩行時の骨盤・体幹の動きを運動学・運動力学的観点から分析することを目的とした。
【方法】
対象はACL損傷者8名(男性3名,女性5名,年齢21±3歳,身長165.8±8.0cm,体重62.2±8.0kg),とした。そのうち再建術施行者は6名,保存療法は2名であり,術後・損傷後から計測までの期間は平均4.6年だった。また整形疾患を有していない健常若年者10名(男性7名,女性3名,年齢21±1歳,身長166.6±6.1cm,体重66.6±9.1kg)をコントロール群とした。計測課題は裸足での歩行動作とし,計測室内に設けられた10mの直線歩行路での歩行を計測した。計測回数は3回,歩行速度は設定せずに自由速度とした。計測の際は床面に埋め込んだ床反力計の上を正確に通過するように指導した上で十分な練習を行い,より自然な歩行を計測した。
計測機器は三次元動作分析装置(VICON社製),床反力計6枚(Kistler社製2枚,AMTI社製4枚),赤外線カメラ12台(床面4台,天井8台設置)を用いた。被験者には直径14mmの赤外線反射マーカーを全身計47箇所に貼付した。貼付位置は被験者の頭頂,耳垂直上,胸骨柄,剣状突起,第7頸椎,第10胸椎,肩峰,上腕骨外側上顆,上腕骨内側上顆,尺骨茎状突起,橈骨茎状突起,第2中手骨頭,第5中手骨頭,上前腸骨棘,上前腸骨棘と大転子の線上の大転子側から1/3の点,腸骨稜,上後腸骨棘,第5腰椎,仙骨,膝関節内側と外側(膝蓋骨中点の高さで膝蓋骨後面と膝後面の中点),下腿外側中央,腓骨外果,脛骨内果,第5中足骨頭,第1中足骨頭,踵とした。動作中の歩行パラメータ(歩行速度,ステップ長,歩隔,立脚期歩行時間,遊脚期歩行時間),骨盤・体幹・下肢3関節の関節角度,下肢3関節の関節モーメント,床反力鉛直方向・左右方向・前後方向成分,身体重心位置を算出した。分析には3施行の平均値を用いACL損傷群とコントロール群の比較を実施した。
統計処理はMann-WhitneyのU検定を用い,歩行周期1%ごとにACL損傷者-健常者間の比較を行った。なお危険率は5%未満をもって有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究の実施に先立ち,国際医療福祉大学の倫理委員会にて承認を得た。また,全ての被験者には事前に本研究の目的・内容・リスクを十分に説明し,書面による同意を得た後に計測を行った。
【結果】
ACL損傷者において歩行周期の0~8%に骨盤前方回旋角度の有意な増加が認められた。また,歩行周期の14~22%,25~29%にかけ股関節外旋モーメントの有意な増加が認められた。
【考察】
健常歩行において,骨盤は立脚初期から立脚終期にかけて後方への回旋が生じるとされる。本研究において,ACL損傷者は立脚初期の骨盤前方回旋角度を有意に増大させていた。その後の立脚期中期・終期においては,2群間の骨盤回旋角度に差はみられていない。そのことからACL損傷者は踵接地時に骨盤を大きく前方に回旋させた状態から,立脚中期・終期にかけて後方へと回旋させることで,骨盤の後方への回旋変化量を増加させていることが分かる。先行研究においてこの作用と床反力後方成分には高い関係性があると報告されていることから,ACL損傷者は骨盤の回旋を制動に用いていたことが考えられる。また,下肢末端が床面に固定された状態での外旋筋は大腿骨上で骨盤を回旋させる働きがあることから,ACL損傷者の骨盤後方回旋に対し股関節外旋モーメントが制動力として作用した可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
ACL損傷者の歩行動作において骨盤回旋角度の変化と股関節外旋モーメントの増加という新たな知見が得られた。また,今回報告したACL損傷者の歩行時の骨盤回旋や回旋モーメントは明らかにされていない点が多々有り,本研究が今後の研究発展の一助になるのではないかと考える。
膝前十字靭帯(以下ACL)損傷はスポーツ活動において高い頻度で発生することが報告されている。ACL損傷後は膝の安定性欠如により諸動作において機能不全が生じることが知られている。それは,スポーツ活動などで顕著に現れるが,ADLレベルの歩行動作においても膝の不安定感や膝が抜けるような感覚,いわゆる膝崩れを経験しているものは少なくない。近年に至るまでACL損傷者に関する歩行分析は数多く実施されており,健常者と比較して逸脱した歩行パターンが見られるとされている。しかしながらその報告は損傷部位である膝関節や,それに隣接した股関節に関するものが多く,骨盤や体幹の動きに関しては詳細な分析がなされていない。そこで本研究ではACL損傷者を対象とし,歩行時の骨盤・体幹の動きを運動学・運動力学的観点から分析することを目的とした。
【方法】
対象はACL損傷者8名(男性3名,女性5名,年齢21±3歳,身長165.8±8.0cm,体重62.2±8.0kg),とした。そのうち再建術施行者は6名,保存療法は2名であり,術後・損傷後から計測までの期間は平均4.6年だった。また整形疾患を有していない健常若年者10名(男性7名,女性3名,年齢21±1歳,身長166.6±6.1cm,体重66.6±9.1kg)をコントロール群とした。計測課題は裸足での歩行動作とし,計測室内に設けられた10mの直線歩行路での歩行を計測した。計測回数は3回,歩行速度は設定せずに自由速度とした。計測の際は床面に埋め込んだ床反力計の上を正確に通過するように指導した上で十分な練習を行い,より自然な歩行を計測した。
計測機器は三次元動作分析装置(VICON社製),床反力計6枚(Kistler社製2枚,AMTI社製4枚),赤外線カメラ12台(床面4台,天井8台設置)を用いた。被験者には直径14mmの赤外線反射マーカーを全身計47箇所に貼付した。貼付位置は被験者の頭頂,耳垂直上,胸骨柄,剣状突起,第7頸椎,第10胸椎,肩峰,上腕骨外側上顆,上腕骨内側上顆,尺骨茎状突起,橈骨茎状突起,第2中手骨頭,第5中手骨頭,上前腸骨棘,上前腸骨棘と大転子の線上の大転子側から1/3の点,腸骨稜,上後腸骨棘,第5腰椎,仙骨,膝関節内側と外側(膝蓋骨中点の高さで膝蓋骨後面と膝後面の中点),下腿外側中央,腓骨外果,脛骨内果,第5中足骨頭,第1中足骨頭,踵とした。動作中の歩行パラメータ(歩行速度,ステップ長,歩隔,立脚期歩行時間,遊脚期歩行時間),骨盤・体幹・下肢3関節の関節角度,下肢3関節の関節モーメント,床反力鉛直方向・左右方向・前後方向成分,身体重心位置を算出した。分析には3施行の平均値を用いACL損傷群とコントロール群の比較を実施した。
統計処理はMann-WhitneyのU検定を用い,歩行周期1%ごとにACL損傷者-健常者間の比較を行った。なお危険率は5%未満をもって有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究の実施に先立ち,国際医療福祉大学の倫理委員会にて承認を得た。また,全ての被験者には事前に本研究の目的・内容・リスクを十分に説明し,書面による同意を得た後に計測を行った。
【結果】
ACL損傷者において歩行周期の0~8%に骨盤前方回旋角度の有意な増加が認められた。また,歩行周期の14~22%,25~29%にかけ股関節外旋モーメントの有意な増加が認められた。
【考察】
健常歩行において,骨盤は立脚初期から立脚終期にかけて後方への回旋が生じるとされる。本研究において,ACL損傷者は立脚初期の骨盤前方回旋角度を有意に増大させていた。その後の立脚期中期・終期においては,2群間の骨盤回旋角度に差はみられていない。そのことからACL損傷者は踵接地時に骨盤を大きく前方に回旋させた状態から,立脚中期・終期にかけて後方へと回旋させることで,骨盤の後方への回旋変化量を増加させていることが分かる。先行研究においてこの作用と床反力後方成分には高い関係性があると報告されていることから,ACL損傷者は骨盤の回旋を制動に用いていたことが考えられる。また,下肢末端が床面に固定された状態での外旋筋は大腿骨上で骨盤を回旋させる働きがあることから,ACL損傷者の骨盤後方回旋に対し股関節外旋モーメントが制動力として作用した可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
ACL損傷者の歩行動作において骨盤回旋角度の変化と股関節外旋モーメントの増加という新たな知見が得られた。また,今回報告したACL損傷者の歩行時の骨盤回旋や回旋モーメントは明らかにされていない点が多々有り,本研究が今後の研究発展の一助になるのではないかと考える。