[0786] 維持期脳卒中患者に対するボツリヌス療法による下肢痙縮の改善群と非改善群の相違
キーワード:ボツリヌス療法, 脳卒中維持期, 適応
【はじめに,目的】
ボツリヌス(以下,BTX)療法は脳卒中治療ガイドライン2009で痙縮に対する治療として推奨グレードAとされており,現在広く普及し始めている。イギリスの内科医師ガイドラインではBTX療法はリハビリテーションプログラムの一部であるとされ,中馬はBTX療法と併せたリハビリテーションの重要性を指摘している。しかし,BTX療法と理学療法の併用における効果報告はまだ散見される程度であり,それらの報告においてもBTX療法実施後の短期集中理学療法の効果を報告するものが多く,一定期間継続的に介入した報告は少ない。本研究ではBTX療法によって痙縮が改善した者と改善しなかった者の相違について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2012年7月より2013年5月の間に,当院で脳卒中後の下肢痙縮に対してBTX療法を実施した60名のうち,3ヵ月間理学療法を継続した18名(男性12名,女性6名,平均年齢63.5±8.8歳)とした。対象者には下肢痙縮筋(腓腹筋,ヒラメ筋,後脛骨筋)にGlaxo Smith kline社製のボトックス(R)を投与した。注射単位数は対象者の痙縮の程度によって医師とともに判断した。投与後より3ヵ月間,週1~2回,各40分程度の理学療法を外来通院にて行った。理学療法プログラムは各種物理療法(電気刺激療法,温熱療法),関節可動域練習,筋力強化,麻痺側下肢荷重練習,歩行練習などを実施した。また,対象者に対してBTX療法施行前,3ヶ月後にそれぞれ理学療法評価を行った。評価項目は脳卒中発症からの経過期間,足関節底屈筋群の筋緊張検査としてModified Ashworth Scale(MAS),足関節背屈の関節可動域検査としてROM検査(ROM),下肢筋力検査として5回椅子立ち座りテスト(SS-5),歩行能力検査として10m歩行時間,バランス検査としてFunctional Reach Test(FRT)をそれぞれ評価した。その後,BTX療法施行前と3ヵ月後を比較してMASが改善した群(痙縮改善群),変化がなかった,または悪化した群(痙縮非改善群)に分類した。BTX療法施行前の痙縮改善群と非痙縮改善群間の各評価項目の差を比較するために対応のないt-検定を用い,痙縮改善群,非痙縮改善群それぞれの群においてボツリヌス療法施行前と3ヶ月後の各評価項目の変化を明らかにするために対応のあるt-検定を用いた。統計学的分析にはSPSS for Windows10.0を用い,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
調査にあたって対象者に対して本研究の目的及び内容を説明し,研究参加への同意を得た。
【結果】
BTX療法施行前の痙縮改善群と非痙縮改善群の評価項目を比較した結果,BTX療法施行前の歩行能力において痙縮改善群で有意に歩行時間が短かった。有意な差は認められないもののSS-5では痙縮改善群が施行前で短い傾向であった。また,発症からの期間では痙縮改善群が有意に発症からの期間が短かった。非痙縮改善群においてBTX療法施行前と3ヵ月後を比較した結果,SS-5とFRTが3ヵ月後に有意に改善していた。また,有意な差は認められないものの歩行時間において改善傾向であった。
【考察】
MASの結果において分類した痙縮改善群と非痙縮改善群を比較した結果,BTX療法施行前において痙縮改善群では発症からの期間が短かく,10m歩行時間が短かった。つまり,発症からの期間が短い者,もともとの歩行能力が高い者はBTX療法による痙縮抑制効果を維持しやすいものと考えられた。一方で,非痙縮改善群においてBTX療法施行前と3ヵ月後を比較した結果,痙縮の改善が得られなかったにも関わらずSS-5とFRTに有意な改善が認められ,10m歩行時間においても改善傾向が認められた。これは発症からの期間が長期に渡ることによる廃用性機能低下に対する理学療法効果の可能性がある一方で,BTX療法によってMASでは評価できない何らかの痙縮の変化があった可能性も考えられる。痙縮の評価として用いたMASは安静時の他動運動によって評価されることから,動作時の痙縮状態を評価できない可能性がある。この点に関しては今後の検討課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はBTX療法によって痙縮が改善する者の特性を示唆したことで,その適応を考える一助となるものと考えられる。
ボツリヌス(以下,BTX)療法は脳卒中治療ガイドライン2009で痙縮に対する治療として推奨グレードAとされており,現在広く普及し始めている。イギリスの内科医師ガイドラインではBTX療法はリハビリテーションプログラムの一部であるとされ,中馬はBTX療法と併せたリハビリテーションの重要性を指摘している。しかし,BTX療法と理学療法の併用における効果報告はまだ散見される程度であり,それらの報告においてもBTX療法実施後の短期集中理学療法の効果を報告するものが多く,一定期間継続的に介入した報告は少ない。本研究ではBTX療法によって痙縮が改善した者と改善しなかった者の相違について明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2012年7月より2013年5月の間に,当院で脳卒中後の下肢痙縮に対してBTX療法を実施した60名のうち,3ヵ月間理学療法を継続した18名(男性12名,女性6名,平均年齢63.5±8.8歳)とした。対象者には下肢痙縮筋(腓腹筋,ヒラメ筋,後脛骨筋)にGlaxo Smith kline社製のボトックス(R)を投与した。注射単位数は対象者の痙縮の程度によって医師とともに判断した。投与後より3ヵ月間,週1~2回,各40分程度の理学療法を外来通院にて行った。理学療法プログラムは各種物理療法(電気刺激療法,温熱療法),関節可動域練習,筋力強化,麻痺側下肢荷重練習,歩行練習などを実施した。また,対象者に対してBTX療法施行前,3ヶ月後にそれぞれ理学療法評価を行った。評価項目は脳卒中発症からの経過期間,足関節底屈筋群の筋緊張検査としてModified Ashworth Scale(MAS),足関節背屈の関節可動域検査としてROM検査(ROM),下肢筋力検査として5回椅子立ち座りテスト(SS-5),歩行能力検査として10m歩行時間,バランス検査としてFunctional Reach Test(FRT)をそれぞれ評価した。その後,BTX療法施行前と3ヵ月後を比較してMASが改善した群(痙縮改善群),変化がなかった,または悪化した群(痙縮非改善群)に分類した。BTX療法施行前の痙縮改善群と非痙縮改善群間の各評価項目の差を比較するために対応のないt-検定を用い,痙縮改善群,非痙縮改善群それぞれの群においてボツリヌス療法施行前と3ヶ月後の各評価項目の変化を明らかにするために対応のあるt-検定を用いた。統計学的分析にはSPSS for Windows10.0を用い,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
調査にあたって対象者に対して本研究の目的及び内容を説明し,研究参加への同意を得た。
【結果】
BTX療法施行前の痙縮改善群と非痙縮改善群の評価項目を比較した結果,BTX療法施行前の歩行能力において痙縮改善群で有意に歩行時間が短かった。有意な差は認められないもののSS-5では痙縮改善群が施行前で短い傾向であった。また,発症からの期間では痙縮改善群が有意に発症からの期間が短かった。非痙縮改善群においてBTX療法施行前と3ヵ月後を比較した結果,SS-5とFRTが3ヵ月後に有意に改善していた。また,有意な差は認められないものの歩行時間において改善傾向であった。
【考察】
MASの結果において分類した痙縮改善群と非痙縮改善群を比較した結果,BTX療法施行前において痙縮改善群では発症からの期間が短かく,10m歩行時間が短かった。つまり,発症からの期間が短い者,もともとの歩行能力が高い者はBTX療法による痙縮抑制効果を維持しやすいものと考えられた。一方で,非痙縮改善群においてBTX療法施行前と3ヵ月後を比較した結果,痙縮の改善が得られなかったにも関わらずSS-5とFRTに有意な改善が認められ,10m歩行時間においても改善傾向が認められた。これは発症からの期間が長期に渡ることによる廃用性機能低下に対する理学療法効果の可能性がある一方で,BTX療法によってMASでは評価できない何らかの痙縮の変化があった可能性も考えられる。痙縮の評価として用いたMASは安静時の他動運動によって評価されることから,動作時の痙縮状態を評価できない可能性がある。この点に関しては今後の検討課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はBTX療法によって痙縮が改善する者の特性を示唆したことで,その適応を考える一助となるものと考えられる。